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この世は優しくて甘い   作者: ニケ
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タダをこねたまま伏していたリュウガがふと静かになる。耳をすましてみるとスースーとした音が聞こえてきた。穏やかな息遣いにコウとルカは顔を見合せて笑い合う。もう笑うしかない、とコウの顔は言っていた。



「逃げられたね、このまま寝たら首が痛くなるよ」



「起こして布団に寝てもらう?地上の人種ってどんな人たちだろ?」



コウはリュウガの頭を軽く叩いて、伏しているリュウガの様子を見てみた。頑固にも顔を上げようとせず、頭の体重がコウの腕にのしかかる。もう!と言いながら両腕を使って顔を無理やり上げさせた。リュウガの渋い、眠そうな顔がやっとこちらを向く。



「深く追求しないから。眠いんだったら布団敷いて寝てよ。朝の朝礼までゆっくり休んで!」



「。。おー。。」



やる気のない声と共にリュウガはゆっくりとこたつから出て立ち上がった。コウに背中を押されながら自分の机のそばに歩いていく。机を部屋の隅に押して移動させ、寝られるスペースを確保した。



「布団、自分で敷くの?。。。やっぱり。。。ほら、敷いてあげるから、もうちょっと端しっこに行ってて」



部署の物置小屋のような小さな部屋から布団を持ってくるようで、リュウガを机の近くに座らせた後、コウは機敏に部屋の奥へと消えていった。リュウガはスマホを持ったままゆっくりと瞼を閉じて休んでいる。こうして見ていると、兄弟のようだなぁとルカは微笑ましく二人を見守った。



「ルカ~~、なんかあったらすぐに起こせよ。コウも俺も少し休む」



「はい」



もう少し仕事をしたかったので、ルカは一つ大きな背伸びをすると、こたつの中から足を出した。電源を消して、飲み終わったカップをキッチンへと片付ける。生チョコとフルーツはこれからの夜食だ。



「隊長、そんなに同期さんたちが苦手なんですか?飲み会が楽しみだなぁ」



「こら、ルカ。俺は逃げまくるからな。もう、飲み会の時は、俺がどこにいるかわからないくらい、逃げまくるぞ」



「えー」



不満そうに顔をしかめても、リュウガは素知らぬ顔をして聞こえないふりをし続けた。コウがふわふわの布団を持ってきて、そばで敷いてくれても、絶対に逃げると宣言している。さっぱりとした性格のコウは、そんなに嫌がるなら、と話題を変えて布団を整えた。



「ほら、どんなに悪態ついたって飲み会はくるんだから。今日はゆっくり休んでよ。今日で2日だよ、徹夜。隊長、もう45歳過ぎてるんだからさぁ」



「余計なお世話だ。。!!」



「それに、毎日ストレスフリーっていっても、徹夜だよ?体の細胞が眠い~~って言ってるんだから。さっさと寝なよー」



「お前、どうでもいいと思ってるだろ、いろいろ」



「ふふふ」



リュウガの布団を敷いた後、自分の分も敷くようでまた物置小屋の方へと消えていく。いそいそと布団の中へ入っていくリュウガを見届けて、ルカは自分の机に座った。



「キャンドル、使っていいぞ。お前の机の上に置いてあるだろ?」



「あ!はい。なんだか、いい香りがします」



「まあ、ぼちぼち、がんばれ」



休憩前には気づかなかったが、机の上に黄色と白色の可愛いキャンドルがある。ルカのために作ってくれたようだ。新しい手作りのキャンドルからはグレープフルーツの爽やかな香りがする。スタンドの電気を点けてキャンドルに火を灯せば、なんだか気分がとても引き締まった。



「ありがとうございます。朝礼の時間が来たら起こしますね」



ルカの声に何も答えず、体の向きを変えて布団の中へうずくまった。ほどなくして規則正しい寝息が聞こえてきたので、よほど眠かったようだ。自分の布団を持ってきたコウが、もう寝たの!?という驚いた表情をしていたが、起こすのも忍びないので顔だけでルカに視線を送った。



「僕も寝るけど。。。あんまり無理しないでね、ルカ。朝礼には、僕と隊長が出るからさー」



「うん」



ルカの机の上にある報告書の量を確認すると、コウは軽く息を吐く。皿にあったイチゴを取るとルカの口の前に持ってきた。



「ルカは、がんばり時か。これ食べて、気がすむまでやるといいよー。生チョコも食べて」



「ありがとう」



目の前のイチゴを勢いよく口の中へいれると、コウは楽しげに笑った。イチゴをゆっくり噛んでみると、甘酸っぱい新鮮な果汁が口の中に広がり、さらにやる気が出てきる。どんよりしていた頭がスッキリして、新しい気持ちで報告書と向き合えそうだ。



「いってらっしゃい、ルカ。報告書の想いを、たくさんの人たちに届けてね」





午前6時の音楽が鳴り響く。朝礼が8時に行われるため、そろそろ起こさないと間に合わないかもしれない。小宮シティの朝礼は、最上階の52階で行われるからだ。その際、服装は必ずスーツと決まっている。しかも、昨日の成果を綺麗にまとめた報告書も一緒に提出しないといけない。上役たちへの報告はメールにデータを添付すればいいが、朝礼は直接社長に手渡す。各部署の責任者、及び班長、それぞれ1名ずつ、最低でも2人の出席が義務付けられている。



これは小宮シティ独特の、昔からの習慣だった。各部署の責任者が毎朝顔を合わせることで、会社としての一体感を持たせる目的と、何かあればすぐにでも相談しやすい環境を作るためだと言われている。会わなくても仕事ができる環境の中で、お互いがお互いの顔を直接見て、一緒に働いている意識を持ってほしいという願いも込められていた。



「起きてください、隊長。6時になりましたよ」



「そうだよ、起きてよー。報告書、まとめなくちゃでしょー」



お風呂に入ってきたコウがさっぱりした顔でリュウガを乱暴に揺さぶっている。ルカもようやく報告書が終わって、これから寝ようとしていたところだ。



5時の音楽が部屋中に響き渡った頃、コウはのんびりと起きて、ルカに甘いココアを淹れてくれた。軽く体を動かしていたが、朝から温泉に入ってくると言い残し、部屋を出ていった。そのコウが戻ってくるとちょうど6時になっていて、なかなか起きないリュウガを二人で起こす羽目になっている。リュウガは起きたくないのか、逃げるように布団の奥へと体を沈めていった。



「こらー、隊長ー。朝礼用の報告書、隊長にしかできないんだからねー」



「いっそ、布団を取り上げる?そうだ!コウ、隊長の大好物、まだあったよね!」



子供のようなリュウガには、甘い罠を仕掛けた方がいい。ルカの提案にコウは目を輝せて頷く。飛ぶように体を起こしてキッチンの方へ走っていき、リュウガの好物であるスルメをオーブンで軽く焼き始めた。しばらくすると、スルメの香ばしい香りがここまで漂ってくる。布団の奥へと沈んでいた体がわかりやすく飛び跳ねた。



「隊長、もうすぐスルメがやってきますよ。大好きな、噛めば噛むほど美味しい、とっても幸せになるスルメがやってきますよ」



「起きる!!!」



リュウガは両腕を突き上げながら、気合い十分な顔をして布団を跳ね退けた。眠そうな気配など全くなく、ハツラツとしている。目をキラキラさせてスルメはどこだと辺りをきょろきょろ見回した。



「ルカ!ボーッとしてる暇なんてないぞ!早く報告書を仕上げないと、美味しいスルメを優雅に頂けないじゃないか!ほらほら、布団を片付けるから、ルカは入力できた報告書をこっちに持ってきて」



いつものリュウガが戻ってきた。ずっと起きていた頭をどうにか動かして終わった報告書を渡す。これで昼までなら、ゆっくり休んでいられる。データを入力できたこと、リュウガが起きたことにほっとしながらルカは眠たい目を開けて、満足げに笑った。


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