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この世は優しくて甘い   作者: ニケ
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ひんやりとした冷たい空気の中をあえて全速力で走ると、体の奥から不思議な温かさが広がって思わずテンションが上がっていく。背中に感じるのんびりとした気配も穏やかな安心感を加速させているらしい。少しずつ上がっていく鼓動を白い息が伝えてくる。高いビルの合間から見える深い夜が美しい。



「レーイ、どうしてそんなに必死なのー?スルメを焼いてっておねだりしてるだけなのにー」



「おねだり!?脅迫でしょ!!っていうか、何でそんなに元気なんですか!」



苦しくなってきた息をなるべくゆっくり吐きながらレイは後ろを振り返った。スーパー銭湯から会社まで歩いて30分ほどの距離だ。走ればあっという間に着いてしまう。学生の頃、サッカーで鍛えた筋力は今でも衰えていないと思うが、それにしてもリュウガは軽やかにひょいひょいと付いてきた。



「簡単だよ、スルメ焼くの。ふわっとパリッと、それでいてジューシーに!!」



「それが難しいんですよ!!」



一度コウに付きっきりで丁寧にスルメの焼き方を教えてもらったことがある。コウは簡単にコンロの上でスルメを炙り、細かく様子を伝えてくれた。何度もスルメを炙っていると香ばしい食欲をそそるいい香りが鼻をそそる。つい顔を近づけてスルメの香りを楽しんでいると、すぐ後ろでリュウガがキラキラ目を輝かせて、さっとスルメをかっさらっていった。



「こんな感じ。隊長の好みは軽く炙るだけなんだよ。火の強さもそんなに強くなくて。ほら、レイもやってみて」



「はい」



自分好みのスルメをリュウガはもう半分以上食べている。すばやい動きに少しビビりながらも、火の付け方からレイはやってみた。すんなり付いた火を中火にしてまだ焼けていないスルメを見よう見まねで炙っていく。先程コウがやったようにしてみると香ばしい独特の香りが辺りを漂い始めた。



「どうですか?」



「うん、美味しそう。ほら、隊長、レイが焼いてくれたよ」



「ほうほう」



一枚目のスルメを食べ終わり満足そうなリュウガに焼いたスルメを手渡す。リュウガは何度も頷いて噛み締めるようにしみじみと口を動かした。



「うむ。パリッとしてるね!」



「え?終わりなの?」



コウは胡散臭そうな目をリュウガに見せる。レイはよくわからずコウと同様に疑いの目を向けた。



「スルメを、ただのスルメだと思っている焼き方だね」



「いや、スルメはスルメですよ。。。」



「うーん、ボウちゃんにはまだ難しいかも。隊長、また買ってくるからさー」



ふふんと不適に笑うリュウガをコウはなぜか慰めている。何か変なことをしたのかと自分の行いを振り返っても、思い当たる節がない。思わず恨みのこもった目を向ければ、今度はニヤリとリュウガは笑った。



「鍛練だね!鍛練しかない!!」



スルメを炙るだけの鍛練なんてやってたまるか。レイは背後に迫ってくる軽やかな気配にちらりと視線を向け、会社のエントランスまで力の限り走った。



オフィス街の美しく並べられた樹木や花壇を抜けると小宮シティがある。大きくて広い駐車場や自転車通勤している社員のための駐輪場、電気自動車用の充電器具を通りすぎると、見慣れた大きなビルの入り口が見えてきた。



会社の入り口がこんなにありがたいと思ったことはない。まるでスキップをするように後から付いてくるリュウガに底知れぬ恐怖を感じて、勢いのままビルの入り口を抜けた。



「もう~~、ひどいなぁ、そんなにスルメを焼くのが嫌なの?」



「嫌、ではないですが!!なんか、怖いです!!」



全速力で走りきった体は足も肩も苦しく、大きな深呼吸を繰り返しても落ち着かない。大人になって社会人になって、久しぶりに必死で走った。人目なんて気にならなかった。リュウガは肩で息をするレイを気遣うように、ポンポンと軽く背中を叩いた。



「いやー、いい走りだったよー。俺、めちゃくちゃきつかった。いい運動になったわー!」



全然きつそうじゃない。抗議の気持ちを込めて顔を上げると、リュウガは嬉しそうにストレッチをしている。どこにそんな体力があるんだ。文句の一つも言ってやりたくなったが、無邪気で元気な姿に毒づくのがバカバカしくなってきた。



「明日、朝礼ですよね。これから寝るんですか?」



やっと息も整ってきた。ゆっくり地下へと続くエレベーターに乗り込んで、いつもの古びた内装を見つめる。安全に地下へ運ぶこの機械が妙に落ち着き、穏やかな安らぎを感じた。金属製の音がして扉が開く。薄暗い通路の間を、白い小さな光が点々と輝いていた。



「まぁねー。レイもちゃんと寝るんだよ。明日は夕方、女装カフェに行くんだからさぁ」



「忘れてました。。。」



いつもの夜も寂しさを感じない。寂しさを感じている暇がない。次から次へと何かがやってきて、そばには誰かがいて、孤独を感じている暇がない。



「今度、金ぴかの棚を買おうと思ってるんだけどさー、良いものない?」



「金ぴか!?いや、書籍部には合わないでしょ。。。木目が美しいナチュラルな棚がいいんじゃないですか?」



あまり人が通らない静かな空間に二人の声が響く。何でもない話をダラダラと続けてセキュリティの厳しい書籍部へと歩みを進めた。

ダラダラと書いております。もうなんか続けようと思いました。続けるぜ!!おう!!よろしかったらお読みください♪いつも読んでくださってありがとうございます\(^o^)/

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