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この世は優しくて甘い   作者: ニケ
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机の上に置かれたココアをゆっくり口に含めば、ほどよい甘さと共にふんわりとした温かいものが口を通して伝わってくる。資料室へ行っただけなのによほど力んでいたのか、強張った肩からふっと力が抜けていく。思わず息を大きく吐くとパソコンを打つリュウガがにんまりと笑った。



「ずいぶんな量になったね。大丈夫?ボウちゃん」



こたつにいたコウがスマホを片手に持っていつの間にかそばにやってきた。時々振動しながら光るスマホの画面を見ては器用に文字を打ち返している。へーとかふーんとか明るい声を上げながらレイに生チョコを薦めてきた。



「会える人が決まったよ。人事部の社員さん。アルのパソコンを見てた人の関係者なんだけどね」



「は、早いですね。。。」



そう?と首を傾げてコウは不思議そうな顔をした。リュウガの指示が飛んでからほんのちょっとしか経っていない。コウの人脈の広さにびっくりする。アルのパソコンを見ていた社員はレイも顔しか知らないので、どんな人物なんだろうと興味をそそられる。



「ショウちゃんからの紹介。会社にも内緒だったんだけど、人事部の社員さんとパソコン見てた人は大学の先輩後輩なんだって」



「ほー!マジかー」



「大学からの。。。ずいぶん長い付き合いですね」



コウはスマホを見ながら物語の続きを読むようにチャットの内容を読み上げた。なんでも古河商事の人事部として働いていた社員にパソコンを見ていた社員から急に連絡が入ったらしい。二人は大学の柔道部に所属し技を磨いた仲で体育会系特有の繋がりを持っているため、人事部の社員は先輩である小宮シティの社員からのお願いを絶対叶えなければならないそうだ。コウは読みながら、うわ!僕、無理!と顔をしかめた。



「先輩から古河商事に入社したいと連絡がありました。急だったので驚きましたが、そういう相談は多いので社内での募集を先輩に教えました」



「ふむふむ」



「まあ、事前にわかるって良いですよね。よくある話じゃないですか」



リュウガとレイもそれぞれ感想を言いながらチャットの内容に耳を傾ける。相変わらずコウは先を読みながら、えー!と嫌そうな顔をした。先が気になるリュウガはパソコンを打ちながら体を大きくコウへ向けている。



「情報ではなくポジションを用意してくれとそれとなく要求され、どうしようか迷いました。しかし私は一介の社員ですから、実現が難しいことを何度も伝えました」



「。。。ポジション。。」



「それはそうですよ。いくら先輩でも」



チャットを読むコウの声から段々と抑揚がなくなり棒読みになってきたが、リュウガもレイも気にしていない。後輩である社員の行動に納得してレイは深く頷きながら分厚いファイルを取り出した。



「先輩の声から何か深い訳があると感じたので、直接会って話そうと誘いましたがなぜか断られました。その後、中途採用が急に始まり何人かの履歴書が届きました」



「ほうほう」



「そのほとんどが小宮シティからの転職で、これは何かあると怖くなり、再度先輩へ連絡しましたが繋がりませんでした。社内で先輩に会っても話をはぐらかされました」



「え?」



ファイルからちょうど話していた社員の報告書が見つかり、レイは付箋を貼ってコウを見た。表情がぐったりしている。目の辺りがピクピクと動いて、口の辺りから小さな呟きが聞こえた。



「もう、何なの?その先輩引っ張って問い詰めればよかったのに。そうできないのが体育会系ってやつ?」



「コウは無意味な上下関係が嫌いだからなぁ。それで、会うことになったの?」



怒りを露にしたコウにのんびりとリュウガは声をかけて、良かったねぇとにんまり笑った。心のもやもやしたものを吐き出せば、人事部の社員も少しはスッキリするだろう。古河商事との繋がりがこうも簡単にわかるとは思っていなかったが、それもショウが真相を暴くために走り回っているのだなとリュウガは感じた。



「目に見えなくても知らないうちにたくさんの人たちを巻き込んでるよ。嫌な想いをさせてなかったことにするってさー。うん、でも良かったかもね。明日会ってくる」



「連絡を取って来たのはいつだったんでしょう?営業部の低迷していた7月から11月くらいでしょうか?」



アルのパソコンを見ていた社員の報告書を眺めてなんとなくコウにも見せた。報告書を覗きこみながらコウは軽やかに口を開く。紙一面にびっしりと書かれた文字を見てまた顔をしかめる。今日はこんな顔ばかり見ている気がするなとレイは思った。



「真面目に書いてるのにね。連絡は去年の5月頃だって。3人の不正な売上が上がった時期と重なるね」



「不正な売上。。。3人で1000万でしたね。商品はノートパソコン。。。」



軽やかに打っていたリュウガが手を止める。一昨年5月の営業成績のデータを手に入れたらしい。話していた二人にちょいちょいと手招きして自分のパソコン画面を見るよう促した。画面には3人の営業成績がデータ化されて商品名と売上がずらりと並んでいる。



「一昨年ってアルのパソコンを見ていた社員はチームリーダーだったんだー。ほら、レイの先輩の成績もあるよ。凄いじゃん!社内で8位!同期の社員はどう?」



「こ、こんなデータがあるなんて。。。俺の成績もあるんでしょうね。。。えーと、あいつは。。。99位。かなり下の方です」



二人ともかなりの成績を上げており、若い同期の社員はノルマをかろうじて達成している。よくある状態で何も怪しいところはないとリュウガとコウは頷いた。



「ここからだろうな~~、何か出てくるのは。それがさー、変な話、去年の5月から遡って調べようとしたんだけど、異様にセキュリティが激しいから一昨年の5月にトライ♪したんだよー。まあ、営業部の成績が一番悪かった時期だから、かもしれないけど、おかしくない?」



「うーん」



「ねぇ、おかしくない?」



リュウガは口を尖らせて、おかしくない?としつこく繰り返した。何か構ってほしいんだろうなぁと妙なプレッシャーを感じて、レイはコウからもらった生チョコをリュウガに薦める。ぶちぶちと文句を言っていたリュウガは、驚いた顔をしてレイを見つめた。



「レイ!!何、その、空気読める感!コウ、レイが急成長を遂げているぞ!!」



「いや、誰でもわかりますよ。隊長、生チョコ食べて機嫌を直してください。じゃあ、データを手に入れるために時間がかかるんですね」



「うん。残念だけど。どうも保存されている場所がバラバラなんだよね。いつもは同じ場所にあるのにさー」



いつもは?なんとなく聞いてはいけないような予感がして、頭に過った言葉を何とか飲み込み机の上のココアで口元を隠した。本当に書籍部は特殊なところなんだなと思う。自分も報告書をまとめて新しい情報を手に入れたい。温かいココアを一気に飲み干し、息を大きく吐いて気合いを入れた。



「隊長、朝礼の資料まとめた?なんなら、僕しようか?隊長は最後の報告だけ書いてくれればいいし」



「おうおう、ありがとなー。ほとんど終わっちったのさ。そうだなぁ。明日は報告書も多いだろうし、今のうちに休んでてくれ。明日は俺もレイと夕方出掛けるし、休めないかもしれないぞ」



「オッケー♪」



人事部の社員とのチャットを終えてコウは笑って自分の席へと戻った。休む準備をするコウを見送って手元のファイルをパラパラと捲る。リュウガも自分のパソコンへ視線を戻し、データの在処を探っていく。それぞれの作業に没頭していると、元々静かだった地下は心地よい静寂の中に包まれていた。



それからどれだけの時間が過ぎたのかわからない。レイが一昨年7月前半の分厚いファイルを閉じた後、フルートの美しい音色が響いて夜中の12時がやってきたことを優しく伝えた。付箋をつけた箇所をもう一度確認してみると、ざっと見ても100枚は越えている。これを全部集中してルカは見直すのかと思ったら、ルカの疲れが心配になった。



「2ヶ月半でこれほどの量なのか。。。調べるって地道だな。。。」



自分が営業という仕事をしている裏で報告書がこのように保管されて、何かあれば報告書を探して深く検証してみる。営業部の頃、先輩たちから厳しく報告書を書けと言われていた理由が少しだけわかった気がした。



「営業に行き詰まった時、書籍部からのデータをたくさん見た。何度も調べた。でも、報告書そのものから調べるって量も作業も全然違う」



付箋をつけた報告書を開いて見てみると、データとは違う自筆の感情を感じた。まるで書かれた文字がその時の感情を受け取って閉じ込めているような。



「地道な作業から得た情報は、ただの情報じゃなくて人の想いが宿っている気がする。膨大な情報の一部だけど、それぞれに想いがあるんだな。。。」



報告書の数と自筆から感じる不思議な力にレイは大きく息を吸ってゆっくりと吐き出した。同じ姿勢で整理していたので、肩の辺りがゴキゴキと痛い。もう12時を過ぎたのかと大きな時計を見上げた。



「隊長、疲れました。休みます」



「おー、レイが自ら進んで休もうとするとは!何とか役に立ちたいと力んでいたレイが自ら休もうとするとは!」



「何度も言わないでくださいよ」



本当はもう少しやりたかったが、疲れた状態で不思議な力が宿っている報告書を整理するのはなんとなく失礼な気がした。誰に?なぜ?と頭の中で自分に問いかけてみたが、胸の辺りにある心が、失礼だと思うから休むとはっきり伝えてくる。にやにやと嬉しそうに笑うリュウガに、このことは伝えたくないなと思い、休みます!と強めに言って軽く睨んだ。

お久しぶりですー♪書きました!どうぞお読みください♪なんかもう2ヶ月くらい経っていたのですね。。。早い。。お金の勉強やビジネスの勉強がとても楽しくて没頭していました。そしたらまた書きたくなりました。なんか幸せだなぁ。。。って感謝です。ありがとうございます!いつもありがとうございます(*^^*)

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