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ルカの呼び掛けに待ってました!と顔を輝かせレイは頷く。残りの生チョコを一気に頬張るとこたつからすぐさま立ち上がった。ルカも自分の湯飲みを持って机へと移動する。元気に飛び出していく二人の背中をリュウガは嬉しそうに見守りながら、いい部下持ったわぁと呟いた。
「7月分の報告書ですよね。俺も見たいです。一緒に見てもいいですか?」
「うん、その前に8月から11月の報告書もこっちへ持ってこようか。低迷してた時期の分を一気に見たいし」
レイは納得したように何度も頷いて素早く資料室へ向かった。動きが速くなったなぁと感心しつつルカも後を追う。薄暗い資料室の電気を点けて綺麗に整理された棚からファイルを一つ一つ取り出した。
「あれ?ルカさん、8月分の報告書が少ないようです。10月分の報告書も」
「。。。本当だ。売上がそんなになかったから、報告書も少ないのかな?」
「いいえ、たとえ売上にならなくても報告書はみっちり書かされました。データ化した時、報告書少なかったですか?そんな月ってありました?」
レイからの問いかけにルカは去年の8月を思い返してみる。レイが異動してきて2ヶ月ほど、そんなに忙しくなかったものの少ないという印象はない。普段通りリュウガやコウもデータ入力していたし、残業だってちらほらあった。
「もしかしたら、整理してない段ボールの中にあるのかも。あの頃、なんだかんだと営業部から雑用が入って。。。入力した報告書を綺麗に整理する時間がとれなかったんだ」
思い出した。報告書の量はいつも通りなのに営業部からの呼び出しが多くて報告書を整理するまで手が回らなかった。落ち着いたら整理しようと思ったが、清掃部からのヘルプや報告書データの手直しなど細々とした雑用が多かった。残念そうに顔をしかめたルカにレイは頬を掻きながらおずおずと口を開いた。
「俺も隊長の指示を全然聞ききませんでしたからね。そういえば、資料室の整理を頼まれたような。。。結局、掃除に走りましたが」
配属されてむしゃくしゃしていたのであんまり思い出したくないが、上司からの指示の中に資料整理もあった気がする。罪滅ぼしのつもりでやりますと言えば、一緒にやろうとルカは笑った。
「どっちにしろ、一緒に見た方がいいよ。ファイルの閉じ方も教えるし」
「じゃあ、椅子を持っていきましょう。かなりの量でしたから」
レイは隅にあった段ボールを中央の広いスペースへ持っていくと資料室を出ていった。埃がついている段ボールを開ければ、8月分と10月分の報告書が入り雑じって乱雑に置かれている。こんな乱暴に資料を扱った記憶はなく、営業部からそのまま送られてきたようだった。
「ちょっとコウに聞いてみよう。うわっ!すごい埃だなぁ」
とりあえず8月分と10月分に資料を分けて、持ってきたファイルへどんどん収めていく。日付順に並べたいところだが、そこまでやったら今日中には終わらないだろう。
「前半と後半に分けられれば。えっと、これはレイの先輩の報告書だ。これは若い社員の」
大量の報告書から二人の報告書を見つけて一旦整理を止める。じっくり読み返してみると、5月分のようなイキイキとした書き方ではなかった。商品を売り上げていないのに焦った様子もなく、淡々と書いている。他の商品を薦めたり要望を聞いたりなどの記載もなかった。
「やっぱり。。。5月の架空の売上から変わってしまっている。なんだか、寂しい文字だなぁ。この先輩の報告書も。商品が売れてるのに嬉しさも何も感じない」
ルカはなんだか悲しい気持ちになって小さく呟いた。書籍部の仕事が楽しいのは報告書から伝わってくる人の想いに触れられるからでもある。感情のない義務的な文字を見てもつまらない。生きているキラキラとしたものや個性がなく、まるで単調な灰色の空を見ているみたいだった。
「ルカさん、椅子持ってきました。あと、新しいファイルも。ああ!そんな直に座って!姿勢だって悪いし。夢中になると、他のものが見えなくなるタイプでしょ」
「そうかなぁ、ほら。ちゃんと埃を払って綺麗になったよ。こうやって背伸びをすれば、姿勢が悪くても何とかなるし」
そういう問題じゃないと顔をしかめてレイがたしなめるように言うとルカは珍しくそっぽを向いて視線を外した。夢中になっていたルカを椅子に座るよう促してもう一つの段ボールを開ける。見つけた若い社員と先輩の報告書をレイに見せて、自分が感じたことを伝えた。ルカから手渡された報告書を真剣に見ながら唸るような声を上げ重々しく口を開いた。
「相手の取引先も知りませんし、先輩の書き方、確かに変わったような気がします。言われてみれば、こいつの書き方も。でも、まあ、そんなに売り上げていませんね」
「それにしても、この資料の乱雑さはひどいよ。どんどん投げ込まれてるって感じだ。いつもなら、入力しながら綺麗に整理するのに」
あまりにもひどいのでルカはコウにメールを送って聞いてみた。二人がデータ入力したならある程度まとめられているはずだ。それなのに段ボールにある報告書は手付かずのように8月分と10月分が入り雑じっていた。
「隊長にも聞いてみますか?どうしてこんなぐちゃぐちゃに」
「後から提出されたものかも。たまにそんな報告書をもらってたっけ。あ、メール。コウからだ」
軽やかな音がして届いたメールを開いてみると、11月の始め頃に報告書だと言われ段ボールを受け取ったそうだ。整理するにも時間が取れず、そのまま資料室へ置いたらしい。メールを読んだ後、スマホが光りコウからの着信が届いた。
「ルカ?メールありがとう。読んだよ。そうだった!すっかり忘れてたけど、営業部から報告書があるって言われてさぁ。取りに行けないから、届けてくれって何度も頼んだの」
「そうだったの?」
かなり急なことだったようで、しかもわざわざ取りに来いと言われ半分ぶちギレながら持ってくるよう伝えたらしい。結局、営業部が段ボールを持ってくるようになったが、その時散々嫌味を言われたようだ。
「感じ悪かったよー。書籍部のくせにって言ってきたから、はあ!?って僕、キレちゃって。嫌味言った本人の情報ぜーんぶ調べあげて報告書みたいに突き出したら真っ青になって黙っちゃった」
「わー。コウの調査って洒落にならないもんね。。。徹底的に調べあげるから。。。」
「ふふふ、まあね」
楽しげに笑ってコウは後から提出されたものだと言った。営業部からの指示でデータに入力しないでいいとも言われたらしい。
「確かにおかしいと思ったけど、その頃の営業部って低迷が続いて、お互いにギクシャクしてたから。転職した人が出てきたのも同じ時期だったでしょ?」
「うん」
「情報が飛び交って混乱してたからねー。チーム内でも探り合いがひどくて。。。引っ掛かったんだけど、そのまま放置しちゃってた。ごめんね、ルカ」
謝るコウにルカは軽くありがとうと答えた。後から提出されたものならますます調べてみたい。隣ではレイが椅子に座って段ボールの中から素早く報告書を分けていた。
「もう少しで僕も戻ってくるよ。一緒に手伝う。何か収穫はあった?」
「うん。いろいろ。でも、まだわからないし、はっきり見えてこない。どうして実績のあるヨシザワ部長とアルさんをターゲットにしたのか。本当の狙いは何なのか」
「そうだね。。。」
電話の先でコウも押し黙った。低迷時の報告書を見直しても何もわからないかもしれないが、なぜか胸騒ぎがする。無意識に出たため息に電話越しのコウは優しく笑って励ますように口を開いた。
「きっと見えてくるよ、ルカ。大丈夫。一つ一つの小さな気づきを集めて、一緒に考えてみよう。焦っちゃだめだよ」
「うん。でも、コウ。報告書を見ても断片的にしかわからないんだ。見つかるものがバラバラで意味のないようにも見える。根拠がないのに気になるんだよ」
報告書を見直してから様々な気になることを見つけたが、これといった確証がない。調べれば調べるほどわからなくなってくる。このまま大変な労力をかけて資料を整理し、わざわざ見直して何か得るものがあるのだろうか。急に不安になってルカは隣で資料をまとめているレイをそっと見つめた。
「ふふふ、いいじゃない。何も得られなくても。ルカがそうしたいって思ったんなら。なぜか気になるんでしょ?」
「うん」
「いいのいいの。最後までやっちゃって、ルカ。僕は転職した社員たちを調べてるんだけどさ。必要か必要じゃないか、いまいちわかんないんだよね」
「そうなの?」
ルカは驚いて電話の声に耳を澄ませた。なぜ転職した社員を調べたのかと聞けば、気になったからだと明るくコウは答える。いつもの朗らかな声を聞くと、先ほどまでざわめいていた不安が少しずつ消えていき、不思議なほど気持ちが落ち着いてきた。
「ルカと一緒だよー。根拠も確証もないけど、気になったから調べてる。だって、知りたいじゃない?同じ会社の社員が転職した後、どうなったかって!僕は好奇心の方が大きいかもねー」
心底楽しそうに言うコウに思わず笑みがこぼれてルカは、そうだねと明るく答えた。報告書を整理していたレイが最後の段ボールを開けている。思ったよりも早く終わりそうだ。
「それよりも、ちゃんと休んでる?ルカは集中すると他のことが見えなくなるからさー。楽な姿勢で快適に仕事をするんだよー」
自分を気遣うコウに返事をしてルカは電話を切った。手がかりになるかわからないが、最後までやってみよう。8月分と10月分が入り交じる段ボールを手元に寄せれば、隣で報告書を分けていたレイが顔を上げてルカを見た。
「あ、整理は俺がやります。ルカさんは報告書を見直していてください。こっちの報告書は8月分と10月分を分けましたから」
「ずいぶん早かったね。もっと時間がかかって大変だと思ってた」
「俺、得意なんですよ。日付順に並べるのも。これ、どんどんファイルに閉じていっていいですか?」
まるで魔法のように次々と報告書が綺麗にファイルへ収められていく。あまりの早さにポカンとしていると、レイは笑いながらまとめたファイルを渡してきた。
「これで集中できますか?あ、あの3人の報告書があれば言ってください。俺も一緒に見たいです」
レイから手渡されたファイルを受け取ってルカは止まっていた時間を動かすように瞬きを繰り返した。頼りなかった後輩はいつの間にか頼もしい仲間になっていた。
書きました~~。頭がこんがらがってきたな。。。なんか、いつも小説の世界に行って、自由に現実と小説の世界を行き来できるようになって、好きなときや空いた時間にポンポン書けるようになりたい!と思いました。書くことを習慣化してみよう。。。いつもありがとうございます(*^^*)どうぞお読みください♪




