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この世は優しくて甘い   作者: ニケ
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12月のプレゼン資料はコンパクトによくまとめられていた。報告書と同様に資料作りもマニュアルがあり、形式などほぼ同じように作成されるがやはり個性が出る。資料に12月のプレゼンには参加していないはずの若い社員の影を感じルカは首を傾げた。報告書を見た時に感じた違和感はこれだったのだ。



「プレゼンに参加していないのに資料を作っているってこと?この書き方だと売れるのを確信しているみたいだ。いつもの、商品の良さを伝えようっていう熱意が感じられない」



若い社員がレイのライバルだと知らなかったが、報告書から伝わってくる想いはいつも一生懸命だった。売れるかわからない不安から商品を必要以上にアピールする書き方が特徴的で、レイもそんな報告書を見て不器用なんだと優しく笑ったほどだ。外見や普段の態度から見えなくても文章は不思議なほど個性を伝えてくれる。そんな書き方が12月を境に変わっている。



まるで売れるのが当たり前だとわかっているかのように機械的な書き方に変わり、必死に商品の良さを伝える熱意も消えていた。



「イキイキしていた光も無くなっている。不安を隠そうとする焦りも商品が売れたことへの喜びも。なんだか怪しいな。。。」



ふと気になって持ってきたホワイトボードを見る。7月から11月の報告書を見ていないが、12月の報告書から確実に書き方が変わった。レイが一緒に回っていたという先輩の報告書やアルと近かった社員の報告書も形式的には変わりがなくても印象が少し違う。明らかに架空の売上から小さな変化が感じられた。



「架空の売上って何だったんだろう?今となっては調べることもできないけど。アルさんのプレゼン資料からはとても凄まじい勢いを感じる。文字そのもののパワーが強くてまるで生きてるみたいだ」



チームリーダーでもあり営業部トップのアルの報告書はデータ化されず上層部に保管されているので、書籍部の元に下りてくることはない。かなり重要な情報源になっているようで営業部でもよく資料の取り合いになった。それを見かねたヨシザワが役員たちに相談し、役員専用の資料室に保管するようになったという。ルカにとってアルの文字を見るのは初めてだった。



「強い光だなぁ。こんな文字を書く人ってどんな人なんだろう。お姉さんはとても綺麗な人だったし、本人もすごく綺麗な人なんだろうな」



ふっと心が和んで思わず微笑みながらマウスを動かして資料をスライドさせる。次はヨシザワからのプレゼン資料を開いてみた。形式的に似ているが文字から感じる印象はとても暗いものだった。何かに縛られている。これから商品をアピールするのに淀んでいる。プレゼン自体に緊張感がなく決められたことを伝えているという印象だった。



「これは本当にプレゼンなのかな。。。アルさんの資料とは大違いだ。どうしてこんなに違いが出たんだろう。同じチームなのに」



ルカはふと気になってじっと何かを考えているリュウガを見た。ヨシザワはプレゼンの準備などに参加するのだろうか。またプレゼン前に資料やチーム内の打ち合わせを確認するのだろうか。真剣な顔つきで一心不乱に考えているリュウガに話しかけるのは忍びないが、気になるものはしょうがない。遠慮がちに肩を軽く叩くとリュウガは機敏な動きでルカを見た。



「ごめんなさい、隊長。ヨシザワ部長ってプレゼン前に資料を確認するんですか?」



「いいんだよ、ルカ。いつでも言って。うーん、どうだろう。全プレゼンってかなりあるし、部長だし。当日だけっていうのもあるんじゃない?」



リュウガに報告書の書き方が変わった点とプレゼン資料での気になったことを伝えた。リュウガはルカに言われてマウスを動かし若い社員が書いたかもしれない資料をもう一度丁寧に読み返している。ルカの話を聞いていたレイも静かに考えるのをやめて、驚いた表情でパソコンの画面を食い入るように見つめた。



「それって、どういうことですか?プレゼン内容って他のチームにも秘密厳守ですよ。練習も個室で行われるし。あいつが資料作ったんなら、明らかに変ですよ」



「営業部の中では考えられないね。まあ、俺とレイは秘密厳守っていう思い込みがあったから、気づかなかった、てか、思い付かないよ」



「そうなんですか?」



ルカは営業部に配属されたことはない。営業部内の常識やルールを全く知らない。いつの間にか営業部にいた頃の習慣にとらわれて根本的な変化を見過ごしてしまったようだ。リュウガとレイはさらに顔をしかめて難しい顔をした。



「そういえば、低迷した7月から11月のプレゼンには信じられないほど選ばれなかったんだよね。その資料も見てみよっか」



「あ!そうですね。どうして負け続けたんだろう。資料には。。。アルさん手書きでまた書いてる」



「朝礼でヨシザワ部長が、仲間同士で勝負するとは思わなかったって言ってた。転職した社員と鉢合わせしたみたい」



レイはリュウガの話を聞いて苦しそうにため息をつく。部下想いのヨシザワはどれだけ心を痛めただろう。ヨシザワのためにも早く隠された何かを見つけたい。アルの資料を見ると商品の特徴や良さに丸をつけて、見落とし、クレーム、不具合などの単語が書かれてあった。



「この資料から見ると、こちらのプレゼン内容が相手に筒抜けだったんじゃないかなと思うよ。アピールしようとした単語、全部突っ込まれてる。逆手逆手に取られたみたいだね」



「本当だ。アルさん、全部書いたんだ。この失敗を元に12月のプレゼンでは見事選ばれてますね」



「うん、改善されている。だけど、アルが特定の会社に全敗だなんて。。。いくら不調、相手に情報が漏れていたとしてもあり得ない。アルは元々負けるプレゼンはしないよ」



7月に続いて8月のプレゼン資料を見てみる。そこにも商品の良さを徹底的に潰されて完敗したと詳しく記されていた。プレゼン後に集めたであろう検証結果と類似商品の資料も一緒に添付されていた。9月も同じ商品ではないが、ことごとく資料の逆を突かれ完敗している。



「転職した社員からプレゼンの内容が漏れていたのは間違いないでしょうね。だけど、アルさんだってうまく切り返している。なのに、この完敗ってどうなんでしょう?」



「うーん。。。プレゼンで競い合った相手の会社、全部ピックアップしといてよ。メガネくんに調べてもらう」



「え?メガネくん?あの、ルカさんにメロメロだった開発部の変人さんですか」



レイの問いかけにリュウガはにこにこしながら頷く。開発部は客や社内の要望に応えて商品を開発する部署のはずだ。自分の世界だけで生きている個性の強い人物になぜ頼むんだろうとレイは胡散臭そうな目を向けた。



「レイ、遠慮なしに言うようになったねぇ。これはもう、明日のお化粧思う存分してもらわないと!メガネくんにもメールで送ろう」



「ごめんなさい、隊長。素直すぎました。でも、なんでメガネさんなんですか?」



明日の女装を思い出し、とりあえず謝っておこうとレイは軽く頭を下げた。それでいいんだよ~~と朗らかに笑ってメモ帳に相手の会社を書いているルカを見守る。7月から11月にかけてかなりのプレゼンがあったが、毎回完敗したのは5社だった。



「ありがとう。んじゃ、これをメガネくんに送って。。。他に気になった点はある?」



「いえ、まだ7月分の報告書を見てないのでわかりませんが、ずっと感じていた違和感がわかってスッキリしました」



「よかったー。レイは?」



「俺は。。。複雑です。あいつ、ライバル視してた奴や先輩が絡んでて。。ちょっと怖くなってきました」



レイの返答にリュウガはゆっくり頷いて軽く息を吐いた。自分が知らなかった報告書を書いて提出していた先輩の顔が頭を過りレイも眉をひそめている。書籍部に配属されてから先輩と連絡を取っているのかと聞かれ、レイはしかめた顔をさらに歪めて激しく首を振った。



「俺、先輩に直接聞きたくなりました。5月に上げた報告書の内容、低迷してた営業部のこと。なんで何も言ってくれなかったのかって」



「うーん」



「でも、ダメなんですよね。今、俺が感情のまま先輩に聞いたって、俺たちが今営業部のことを調べてるってわかったら、警戒されてしまう」



悔しそうに言ったレイにリュウガは口元をきゅっと引き締めて、うんと大きく頷いた。レイは自分を納得させるように何度も軽く頷くと、机の上の生チョコを取って口の中に放り込む。沸き上がる自分の感情を噛み砕くように生チョコを噛み続けた。



「もし、営業部の低迷も劇的な売上も、相手の会社から操作されていたとすれば、この先の狙いって何でしょうか?今、営業部も会社全体も歓喜で勢いがありますよ」



「うん、そうだね。俺もそこを考えてたんだ。それに、俺にはどうしても転職した社員たちが気になる。本当に残った社員たちと連絡取ってないのかな」



リュウガはゆったりと湯気が立ち上る湯飲みを取って静かにお茶を飲む。ルカは不安げな顔をして画面の資料を見つめた。過去はどうやっても変えられない。でも、過去を見て流れを感じ目に見えない何かを捉えることができれば。やってくる未来に対して何かしらの対処や準備ができる。



「ルカ、疲れるだろうけど、7月分からの報告書をもう一度見直してみて。少しでも違和感があれば教えてほしい」



「はい」



心配そうに顔を見ておずおずと気遣いながら生チョコを薦めるリュウガに、ルカはなるべく明るく笑って返事をした。いつの間にか少なくなった生チョコをゆっくり頬張ると張り詰めた緊張が優しく解れていく気がする。煎れてもらったお茶を飲んで、ルカは目の前のイライラしたレイに再開しようと声をかけた。

書きましたー!書くのが苦しくなってきました。だけど、ここで逃げて適当に書いたら自分に負けるってことなんだろうなぁと思い、逃げずにしっかりと書こうと思いました。なんか、自分で書きたいものから逃げないっていうか、逃げたら実力がつかないんだろうなぁって。なんでこんなに苦しいのかわからないですけど、逃げずに最後までしっかりと書こうと思います。やるぜー!イエーイ!ということで、どうぞお読みください♪

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