表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世は優しくて甘い   作者: ニケ
28/48

28

片付けをリュウガに任せてルカは自分の席に戻った。机の上にはレイが資料室から持ってきた6月分と7月分のファイルがある。一緒に来たレイに椅子を持ってくるよう伝えると、まず6月分のファイルを手に取った。気になるデータの元になった3人の報告書を探して丁寧に見ていく。



「この報告書だ。綺麗な字だけど、少し歪んでいるかも。でも、全体的に見てそんなに変なところはない。次はこの人だな」



素早く報告書を捲っていき、レイが一緒に営業先を回っていたという社員の報告書を見つけた。疑惑の報告書以外に他の得意先で商品を売り上げたと書かれてある。レイが一緒に売り上げたと言っていった商品だろう。



「単独で売り上げたにしては、金額も商品も大きすぎる。上からチェックが入らなかったのも不思議だ。目を通しているはずなのに」



報告書の上には役職の欄があって、疑惑の報告書にも当たり前のように役職の印鑑が押してあった。レイが隣に椅子を持ってきて座る。気になる報告書を見せると、当日どのように行動していたか思い出しているようで、難しい顔をして押し黙った。



「次は若い社員の報告書だけど。これも上からチェック済だ。報告書の数が多いって言っても、30個も売り上げたんだもの。表彰とかされそうだね」



「ああ、営業部ではよくありますよ。お客様に喜んでもらえたとか、売れてなかった商品を購入していただいたとか。そういう時に営業部全体のミーティングで発表されます」



この3人は表彰されなかったのか?と聞くとレイは首を傾げて、覚えていませんと答えた。そもそも売り上げた商品は存在していたのか。営業成績が落ち込んでいた時期にわざわざ架空の売上を作ったのか。それとも、報告書通りにちゃんと商品は売れて、売上だけが報告されなかったのか。



「わからないですね。。。上も把握していたのに実際の売上には反映されていない。ヨシザワ部長が知っていたら、もう大々的に褒めるはずですよ」



「うん。そうなったら、落ち込んでいた時期だもん。隊長やコウにも話すだろうしね。でもあの頃の営業部は本当に苦しそうだった」



6月頃の営業部の雰囲気は殺伐としていて、部署内でも分裂や決裂が多かったとコウが悲しそうにため息をついていた。リュウガも何とか上手くいってもらいたいと様々な部署にいる同期たちと協力していたようだ。



「次、7月分の報告書を見てみようか。いろんなお客様を回っているみたいだけど、特に変わったところはないようだね」



「あ!待ってください、ルカさん。6月に売り上げたお得意先に挨拶へ行った報告がありません。他のお客様のことばかり書いている」



レイはルカから受け取った6月分のファイルを急いで捲り、大量に売り上げた報告書の得意先を指差した。これだけ商品を購入してもらった得意先に足を運ばないのは営業部としてあり得ないとレイは言う。報告書には商品を買ってもらえなくても客の情報や好みを書いて提出するのが慣例だ。アポを取り会いに行ったのなら、書いているはずだ。



「俺、新人の頃、購入していただいたお客様に会いに行かなかったら、先輩にめちゃくちゃ怒られましたもん。行ったら行ったで必ず報告書に書け!って。だから、営業部みんな挨拶回りに行って報告書に書くはずです」



「そうなんだ」



ルカは7月分の報告書を最後まで見直してみたが、大量に売り上げた得意先の名前は見当たらなかった。妙に引っ掛かる。ルカは一旦ファイルを置いて、おもむろに席を立った。



「どうしたんですか?」



ファイルを見ていたレイが慌てて顔を上げ焦った顔をしている。ルカは笑って、資料室に行ってくると明るく言った。



「営業部の売上が劇的に増えたのは、12月から1月だ。その時期に、このお得意先の名前がないかな、と思って。まあ、8月、9月も見てみたいけど」



「なるほど。。。絡んでるのかもしれないんですね。ルカさん、じゃあ、俺は大量に商品を売り上げる前に、そのお得意先とどう関係を築いてきたのか、6月から遡って調べてみたいです」



「!そっか!商品をこれだけ購入するんだもの。それなりの付き合いがあって、定期的に回ってるだろうし、報告書にも書いているはずだもんね」



机の上にある6月分と7月分のファイルを二人で手分けして持ち、資料室へ歩いていく。他に気になる点はないか、とルカはレイに問いかけた。



「そうですね。。。俺のわがままですけど、こいつ。。いや、ライバルの。一生懸命だなって感じました。俺への闘志っていうよりも、仕事の成果にすごくシビアでしたから」



「報告書から伝わってくるでしょ。そうなんだよね、だから、俺、データ入力好きなんだ」



ルカは嬉しそうに笑ってファイルを持ち直した。大量に保管されているファイル一つ一つに営業部の社員が書いた想いがたくさん詰まっている。体にいろんな重みがずしりと伝わってきてレイも思わず優しく笑った。



「あーあ、俺、もうちょっとこいつのこと見ていればよかった。案外不器用なのかもしれないです。器用だって思ってたけど。勝負や結果ばかりにこだわってて、全然気づかなかった。恥ずかしいですよ」



「ふふふ、それだけレイも一生懸命だったってことだよ。いいじゃない。今からでも連絡取ってみれば」



ルカの提案にレイは渋い顔をして、それは出来ませんと絞り出すような声を出した。直接相手と話をするのはどうしても心が拒否してしまうようで、心が穏やかになっても嫌だと首を振る。だいぶ営業部を冷静に見れるようになったにしても、悔しさや競争心が根付いているようだった。



「生意気かもしれませんが、面と向かって褒めるのは。。。認めるのは悔しいです。俺だって、まだやれる!って威張りたい気分になります」



「ふふふ、そうなんだ。レイは営業部の仕事、好きだったの?」



重みを感じるファイルを持って資料室に着いた。丁寧に棚に戻しながらルカはどこか楽しげにレイを見つめる。ルカに改めて聞かれて、自分は営業部の仕事をどう捉えていたのかなとレイは考えた。好きだったのだろうか。好きとは何だろう。父親の会社に就職して当たり前のように営業部に配属されて。成果を上げることばかりで、好き嫌いなど考えたことがなかった。



いつまでも答えないレイを気にすることなくルカは持ってきたファイルを綺麗に並べて調べたい12月分と1月分のファイルを取った。なるべくじっくり見たいので、まとめて自分の机に持っていこうとする。レイはハッとしてルカから大量のファイルを奪い取るように持ち直した。



「これは俺が運びます。ルカさんは席に戻っていてください」



「ありがとう。大丈夫だよ。それより、レイは営業部の仕事、好きだったの?楽しかった?」



もう一度ルカから聞かれてレイはどう答えていいか、どうしても言葉が出なかった。好きと言われれば好きだったかもしれない。ライバルの報告書を読んで自分もまた得意先を回りたい気持ちになってくる。あいつがやるなら、俺もやってやる。そんな闘志が溢れてくる。これは好きだからなのだろうか。



「。。。もしかして、営業部の仕事、好きじゃなかったのかもしれないね」



「え?」



まだ何も言ってないのにルカは穏やかに笑いながらのんびりと言った。普段と変わらない様子でレイが見たかった4月分と5月分のファイルを棚から取り出している。レイの中で急に焦ったような落ち着かない気持ちが溢れてきた。なぜか否定しなくてはいけない気がして、レイは慌てて、好きでした!と咄嗟に言った。いつもより大きな声になり、静かな資料室に異様なほど響いた。



「す、好きでしたよ!ほら、成果を上げたり褒められた時なんて、すごく幸せな気持ちになりましたし。こいつに勝った時は先輩たちと祝杯をあげたり」



「うん」



「それに、お客様から怒られてもまたがんばろうって思えたし。仕事なんだから、嫌でも苦しくてもやらなくちゃって」



「ふーん」



聞いていたルカはどこか必死で訴えるレイを横目で見ると取り出したファイルを綺麗にまとめた。なんだか取り残された気持ちになってレイは渋い顔で押し黙る。妙に心がもやもやする。すっきりしない苦しさになぜかイライラしてきた。



「俺、なんでこんなに嫌な気分になってるんですかね。さっきまで穏やかで優しい気持ちだったのに」



「。。。自分の気持ちに嘘ついてるからじゃないの?俺はレイが営業部の仕事、好きだったようには思えなかったよ」



調べたいファイルはすべて棚から取り出した。沈んだ顔をしているレイに、行こうと明るく言ってルカは資料室を出ていく。置いていかれたような寂しい気持ちになって、レイはルカの後に続いて歩き出した。資料室の電気を消すと急に周りが暗くなり悲しい気持ちになる。とぼとぼと元気のない足取りで付いていけば、ルカは振り返って吹き出すように笑った。



「もう、レイ。わかりやすいなぁ。ほら、そんな顔しないで。6月から遡って調べるんでしょ?アルさんを助けなくっちゃ」



「。。。その前に、俺を助けてほしいです。ルカさん、俺、営業部の仕事、嫌だったんですかね?苦しくても、きつくても、やらなきゃって思ってました」



明らかに落ち込んでいるレイをルカは自分の席へ促すと持ってきたファイルを机の上に置いた。スリープ状態だった画面を立ち上げて保存しているフォルダをクリックする。そこにはルカが入力したデータがたくさんあって、ルカはその中の一つを開いた。



「凄いです。。とても見やすい。手書きでは文字に癖がでて読みにくいものもある。これなら、すごく便利だ」



「お客様の名前を検索すれば、名前の入ったデータ丸ごと出てくるから情報が無駄なく手に入るんだ。でもね、このデータ。検索されなきゃ、このまま埋もれちゃうんだよ」



ルカは開いたデータを閉じてもう一度フォルダの中にある大量のデータをレイに見せた。今まで報告してきた営業部の情報がまるで海のようにフォルダを埋め尽くしている。レイは何も言わず大量に並ぶデータを見つめた。



「誰かに必要とされれば、表に出るんだろうけど。検索されなかったら基本的にこのフォルダの中にある。あるのに表に出ないから、ないみたい。眠ってるようでしょ」



「。。。。」



「褒められもしないし、綺麗に入力したって表彰されることもない。むしろ、当たり前って素通りされる。間違えて入力したらものすごく責められるよ」



ルカはマウスを一旦置いて持ってきたファイルを取った。12月分のファイルを捲って書かれた報告書を慈しむように撫でた。



「それでも、すごく楽しい。誰にも認められなくても褒められて感謝されても、楽しい。それとは別に、すごく楽しいんだ」



レイは何も言えなくなって口を閉ざした。ぼんやりと画面上のフォルダを見て、大量のデータを見つめる。ゆっくりマウスを動かしてスライドさせれば、綺麗に並んでいるデータが波のように動いた。1日の報告書の数はどれくらいだろう。一枚の報告書を大切に入力していく。丁寧に入力しても雑に入力しても、検索されるまで目を向けられない。レイにとって想像もつかない世界だ。



それなのに、ルカは楽しいと言う。



「凄いな、ルカさん。俺、無理かも。誰かに反発して、誰かに闘志を燃やして、やっぱ、誰かに認めてほしいし褒められたい。そうじゃないと、仕事なんてしたくない」



「ふふふ」



「仕事なんて辛いしきついし、頭を下げないといけないし。。。自分のペースを恐ろしく乱してくる人たちと接しないといけないし。。。いつも相手の機嫌をとって本音も言えないし。。。」



自分の気持ちをそのまま言ってみたが、なぜか仕事に対して不平不満ばかり出てくる。仕事が好きなはずなのに、嫌な気分になって心がまたモヤモヤしてきた。



「。。。これって、俺、営業部の仕事、好きじゃなかったんですかね?」



負けを認めたくない、と顔に書いてあるレイにルカは何も言わずただ面白そうにケラケラと笑った。

書きました~~。なかなか書けず。。。今日は美しい図書館に行ってきますよ!では、どうぞお読みください♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ