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こたつから出たルカは自分の机に座り、パソコンの電源を入れた。報告書を入力したデータは過去3年間のものならばパソコン内部に保管してある。資料室にもバックアップを取ったUSBメモリーがあるものの、とりあえず3年間の報告書が見たい。
「レイ、資料室でこの3人の報告書を探して持ってきて。気になったところや想いが強い部分はデータに入力してあるんだけど」
「もう一度見直すんですね。俺も一緒に見たいです。かなりの量になりますが。。。」
顔を曇らせたレイに構わないと軽く答えてルカはパソコン画面を見つめた。マウスを動かし過去のデータを取り出すと、一つ一つ丁寧に見直していく。気になる箇所をメモ紙に手書きで書き記し、激しくマウスを動かした。データを見るスピードが速い。あっという間に画面が切り替わっていく。
「あ、これ。そうだ。この部分、どうして?って思ったんだ。濁すように書いてた。だから、データも濁っちゃったんだよね」
「濁った?データが、ですか?」
不思議な表現だがとても興味を引かれる。レイは集中して作業するルカの横に寄り添い、画面上にあるデータを見た。ルカがマウスでわかりやすくラインを引いて、ここだよと指摘する。レイも見てみたが、ルカの言う濁りがよくわからない。自分なりに何度も読んで感じてみたが、他の文章と同じに見える。
「違和感があるんですか?」
「うん。この人は売上や商品について端的に短く特徴を捉えて書くんだけど、ここだけ本質とは別のことを書いてる。何かを隠しているような、そんな書き方をしている気がするんだ」
そういうものなのか。全くわからないレイは顔をしかめてルカを見た。ルカは思わず笑って、ごめんねと軽く言う。違和感を感じた報告書を先に持ってくるようレイに指示すると、またマウスを動かして別のファイルを開いた。
パソコンの画面が次々と変わり、ルカのメモ帳に日付と報告書のナンバーがどんどん書かれていく。レイはルカのメモ帳を受け取って素早く奥の資料室へ飛んで行った。
「どうして気づかなかったんだろう。この人、少しずつ売上成績が下がってたんだ。他の二人も。いや、待てよ。このお客様の名前、どこかで。。。」
ルカはパソコンに保存してある過去3年間のデータから特定した3人のデータのみを選び、一つ一つ新しいフォルダの中に入れていった。営業部全員のデータがパソコンに保存してある。その中から選び出すのは大変な作業で、同じ動作を何度も繰り返していく。所々ゆっくり見ながら同じ時期の報告書を見比べてみた。違和感を感じる箇所が増えたのは去年の6月頃だ。
「去年、営業部の成績はどん底だった。他の会社への転職が増えたり、良くない噂が流れたり。そういえば、不正に売り上げてるっていう批判もあったっけ」
ルカは3人それぞれのフォルダを作り、去年の6月からのデータを急いで振り分けた。一つのフォルダに膨大なデータが積み重なるように増えていく。6月分のデータ量だけで100以上にもなり、7月分を重ねて加えると200以上にもなった。
「とりあえず、ここから始めないと。。。6月始めの報告書では、お客様の名前はキサラギさん。大口のお客様はニシハラさん、か。。。」
会社の重役だろうか。同じ商品を20個購入している。家庭用のものではなく会社関係の商品なのでおかしな所はない。他の二人の報告書データを見ても同じ客ではないし、大量購入の報告もない。ルカは次に日付が近いデータを見た。
「次の日、売り上げたのは若手の人だ。同じ商品を別のお客様に売ってる。今度は30個。。。需要があったのかな?消耗品だとしても、こんなに売れるなんて。何に使うんだろう」
他の二人の報告書データを見ると小さな売上はあるものの特に目立った報告はない。その日アポを取った客の情報や欲しい商品、壊れた商品のクレームなど、当たり障りのないデータだった。
「次の日付のデータは。。。今度はこの人が同じ商品を大量に売ってる。変だよ。こんなに同じ商品が売れたら、どういうことなのか上役から指摘がくるはずなのに」
ルカは今まで見た日付のデータをそれぞれ画面上に出し、売上高を計算してみた。こんなに売上を出しているのに6月の営業部成績はどん底だった。それもおかしい。
「クレームがあって返品されたとか?だとしたら、報告書に上がってくるはずだし。。。他の人たちの営業成績が悪かったの?えっと
アルさんからの資料では。。。」
特定した3人の6月分の営業成績を見てみる。3人とも他の月より売上高は減っており、日付に従って売り上げた商品を探してみたが、アルの資料にはどこにも書いていなかった。実際には売り上げていなかったのか。それとも報告書に書かれた売上が営業成績に入っていないのか。
「架空だったってこと?だったら、なんで報告書に書いたんだろ?売り上げたのに、上司には報告してない。上役からも指摘がない。変だな」
このデータをリュウガやコウにも見てもらおうととりあえず保管する。結局同じ商品は全部で90個短時間で売り上げたことになっていた。総額にしておおよそ1000万円の売上だ。
「次のデータは。。うん、いつもの通り、端的にわかりやすく書かれてる。この人はどうかな?」
「ルカさん」
次のデータを見ようとするとすぐそばからレイの声が聞こえる。画面から視線を外して声の主へ向けると大量のファイルを持ったレイが心配そうにルカを見つめていた。ゆっくり机にファイルを置いて、休憩ですとやや強ばった声で言う。
「ありがとう、レイ。かなりあるね、ファイル。去年の6月から見てみたいよ」
「その前に一息いれてください。なんか、集中し過ぎてて怖いくらいでした。コウさんが言ってたの、わかる気がします」
もう少しだけ、と置かれたファイルに手を伸ばすルカを叱るように軽く睨むとレイはマウスをルカから奪い、強制的にパソコンをスリープ状態にした。暗くなった画面を残念そうに眺めながらルカは席から立ち上がる。体を動かしてみると肩の辺りが痛い。腰も固くてゆっくりと伸ばしながら背伸びをしてみた。
「もう1時間経ってたんだ。早いなぁ。レイ、変な箇所を見つけたよ。売上を上司に報告しないって、営業部であるの?」
「は?ないですよ。お客様に買ってもらったら、チームリーダーに伝えます。在庫確認して、納品日の相談もありますし」
ルカの机を簡単に片付けながら大量のファイルを綺麗に並べる。名残惜しそうなルカを見ながら寛ぎスペースを指差した。ルカは頷いてスタンドの電気を消しレイの後に続く。
「会社に帰ってきたら、チームのみんなとミーティングですよ。何が良かったか悪かったか。もう一度お客様にやったプレゼンを再現することもありましたね。それで報告書を書いて」
「部長さんには、直接報告しないの?」
「ええ。部長への報告はチームリーダーの役目ですから。確か、リーダーはチーム全員の状況をまとめて部長に報告してたはずですよ。自分の分と、チームの分と」
レイから座るよう促されてルカは大人しくこたつに足を入れてゆっくり座った。休ませるように瞼を閉じれば、暗闇の中でじんわりと目が痛くなってきた。目の前でお茶が注がれる涼やかな音がする。閉じた目が痛くてしばらくじっとしていると、温かいタオルのような感触が目の辺りを静かに覆う。人の気配がして机の上からコツンと軽い音がした。
「うわ!何ですか!?それ。隊長、作ったんですか?」
「ふっふっふ!俺特製、ふわふわホットケーキだ!!可愛いだろー。猫さんだぞ。こっちはウサギさん」
こたつの机にはほどよく焼かれたホットケーキが何枚か可愛く盛り付けられていた。生クリームの上にイチゴが乗せてあり、メイプルシロップがゆったりとホットケーキの上に流れていく。四角のバターが表面の熱で溶けてメイプルシロップと混ざっていた。
「これ、本当に隊長が作ったんですか?てか、何でこんなに可愛く。。。」
「レイ!!デザートは盛付けも大切なの!心がワクワクして楽しくなるのがデザートなの!ただ食べるだけじゃないんだからね!」
予想外の力説にレイは力の抜けた返事をし、リュウガと皿に盛り付けられたホットケーキを交互に見る。この人からこれができるのか。あまりにもギャップがありすぎて、どんな顔をしていいのかわからない。
「隊長、何でもできるんですね。盛付け、どこで覚えたんですか?」
「ふふん、俺、ケーキ屋さんでバイトしてたもん。簡単なお菓子は作れるのさ。時間があれば、手の込んだお菓子も作れるのさ」
ルカの目を覆っていたタオルをゆっくりと外しリュウガは勝ち誇った顔でにやりと笑う。用意していたもう一つの蒸しタオルをルカの目に当てて、食べなはれとレイに言った。
「食べるの勿体ないですよ。どこから食べていいか。。。耳?顔?」
「みんな頑張ってるからなー。もう、俺、おでん仕込んじゃった。夜食はおでんね」
「おでん!?作ったんですか!?この短時間で!?」
食べようとしたレイが驚いてリュウガを凝視する。コウといい、リュウガといい本当に器用だなと感心する。一緒に味噌汁を作った時、ルカも手際がよかった。なぜこうもここの人たちは家事能力が高いのだろう。
「さて、ルカ。目はどう?ゆっくり開けてごらん」
覆っていたタオルを取ってリュウガはルカの顔を覗き込む。何度か瞬きをしてルカは静かに息を吸ってゆっくり吐いた。視界がはっきりして頭が軽くなっている。目の辺りの痛みもだいぶ治まったようだ。
「楽です、隊長。ありがとうございます。わぁ!今日も可愛いなぁ!」
「うんうん。良かった良かった。さあ、食べて食べて。んで、何か気になることがあったんだね?」
蒸しタオルをお盆にのせてリュウガはルカを見た。ルカはホットケーキを一口食べて、先ほどデータを見ながら感じた違和感と報告されていない売上を伝える。話を聞いたリュウガの目が鋭く光り、それで?と先を促す。ホットケーキを食べながらレイは資料室から6月分の報告書を持ってきたことを伝えた。
「休憩したら報告書をもう一度見直す予定です。見落とした部分があるかもしれないので」
「うん」
「それと、7月までデータを見比べてみます。営業成績が伸びたのは12月から1月くらいでしたよね?」
ルカの問いかけにリュウガは、そうだと頭を縦に振る。特定した3人以外の資料を封筒から出して何かを考えている。いつもの長考に入ったのか一点を見つめたまま動かなくなった。
「それにしても美味しいです、このホットケーキ。厚さといい、柔らかさといい、絶妙で。隊長、特技いっぱいありますね」
「若い時にたくさんアルバイトしてたんだって。隊長がケーキに囲まれてるの、見てみたかったかも」
データのことは気になるが、根詰めてやっても大切なものを見落としてしまう。リラックスした状態が一番力を発揮できるとリュウガから強く言われていたルカは、軽く体を動かし甘いホットケーキを食べた。レイもそう言われたのか、焦る様子はない。
「食べたら、報告書のファイルを見るよ。レイも一緒に見る?」
「はい。気になることがあったら、言ってもいいですか?」
レイに、もちろんと優しく笑ってルカは小さく切ったホットケーキを一口頬張った。甘く優しいメイプルシロップと生クリームが口の中に広がり、ゆっくりと体へ溶けていった。
少し進んだかな。。。何も考えずに書きましたー。なんか、今までうまく書こうってしてたんだなぁって気づいて、あ、私、下手だわぁー、もう好きなように書こう、とぼんやり思いました。よろしかったらお読みください♪いつもありがとうございます(*^^*)




