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この世は優しくて甘い   作者: ニケ
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ルカが買ってきてくれた美味しい肉まんとピザまんを食べてほっと息をついた。抹茶入りのほどよいお茶の熱さが喉を通って優しく体を温めていく。張りつめていた気持ちが和らいで、カッカしていた頭が少しずつ冷静になるのを感じた。父親のことや清掃部長が怒られたことで感情的になっていたが、これなら落ち着いて話を聞けそうだ。



「美味しかった~~!隊長、まだスルメ食べてる。誰も横取りしないから、安心してよ。え?拗ねてるの?もう、しょうがないでしょー、あれが姉上なの」



コウも肉まんをゆっくり味わって一息つけたようだ。いつまでも機嫌が悪いリュウガをたしなめて穏やかに笑っている。深刻な顔をしていたレイをルカは心配して優しく声をかけた。



「大丈夫?顔が強ばってたから。衝撃が大きかった?」



「あ、はい。録音テープを偽装するなんて考えられませんからね。そんなことが起こっていたなんて。。。俺、顔に出てましたか?」



感情がすぐ顔に出るわかりやすい自分の性格をレイはあまり気に入っていない。相手に感情を悟られるとロクなことがなかったからだ。からかわれたり、急に態度を変えられたり。どんなに取り繕ってもすぐに嘘だとバレてややこしい事態を引き起こしていた。今だってルカに余計な心配をかけている。何度も克服しよう、変えようとしたが、どうしても変えられない。改めてうんざりした。



「うん。それがレイの良いところだから」



「え?」



自分の、言わばコンプレックスを簡単に褒められる。嫌な想いをしてきた根本を素直に良いと言われレイは不意打ちを食らったかのようにポカンとしてルカを見た。レイの顔にルカは楽しそうに笑っている。



「なんて顔してるんだよ。凄いなぁ、レイは。そんな顔もできるんだ。レイの良いところなんだから、大切にしてよ。認めるだけでもいいからさ」



「認めてはいますが、あまりいい思いをしてこなかったので。。。ルカさんこそ、穏やかで落ち着いてて羨ましいです」



コウのように変幻自在な自由さにも憧れるが、ルカのような誰でも上手く付き合える自然さにレイは強く惹かれた。自分にもこういう落ち着きと冷静さがあれば。ぶっ飛んだリュウガは論外だけど、あそこまで開き直れる図太さにも羨ましさを感じる。あれはあれでいい。逆に大人しかったり素直なら、気持ちの悪さが身体中を駆け巡るし、後でめんどくさい荒波が怒濤のようにやってきそうだ。リュウガやコウよりも誰とでも調和が取れるバランスのいいルカがいい。心の底から尊敬の念を込めてレイはルカに言った。



「俺も、ルカさんみたいになりたかったなぁ。ルカさんなら営業部だって、父とだって上手くやっていけたと思います」



「うーん、でも、それじゃあ、レイの良さが消えちゃうよ。それに、俺ではだめなんだよ、きっと。レイだから良かったんじゃない?」



「そうですかね」



レイは目を細めて不貞腐れた顔をした。どうしても納得できない。なぜこうも自分はスルスルと上手くいかないのだろう。成熟した器用な性格なら良かった。もっと生きやすかった。人と心が通わない寂しさも理解してもらえない苦しみも感じなくて済んだのに。



「俺、好きだけどな。レイの、感情がすぐ顔に出るっていうの。コウも好きだって言ってたよ。隊長は素直でいいって」



「。。。嬉しくないですよ。受け入れてもらえるのはありがたいですけど。そう言ってくれるの、皆さんだけですし」



「そうかなぁ」



ルカは誰かを思い出しているのか、しばらく視線を外しじっと考え込んだ。掘りこたつの温かさが足を通して伝わってくる。話が途切れたのでレイは目の前であーだこーだと言い合っているリュウガとコウを見た。さっきまで真面目な顔で深刻な話をしていたのに。言い合う二人が面白くて思わず笑っていると、隣でルカが指で数えながら一人一人の名前を読み上げた。



「まず、お姉さまでしょ。それから清掃部長、コンシェルジュのコバヤシさん」



「そりゃあ。。。皆さん優しいですもん。普通の人なら受け入れてくれませんよ」



「ふふふ、良いじゃない。周りがみんな優しい人ばかりになるよ。そんな人たちと自然に仲良くなるんだし。何か困ることでもあるの?」



優しくルカから聞かれてレイは困ることを頭の中で探してみた。だが、今の状況ではいくら考えても困ることが出てこない。強いて言えば営業部で上手くいかないことだ。感情がすぐ顔に出るので客に自分の気持ちがすぐバレてしまう。常にライバル視されて張り合っていた営業部ではよく同僚やチーム内で衝突することが多かった。今は競争する相手も足を引っ張り合う同僚もいない。レイは呆然とした顔で、ありませんと答えた。



「あはは!ほら、いいじゃない。変えなくて。受け入れてくれる人たちとのんびり楽しく暮らせば。顔に出ちゃうなら、思いっきり顔に出せばいいんだよ」



「それは。。。勇気がいるな。。でも、良いんですかね。悪いところは克服しないと、社会人として、なんというか。未熟っていうか、向上心がないっていうか。だめな気がするんです」



「そっかー」



顔をしかめながら不安そうに言ったレイの言葉をルカはのんびりと優しく受け止めた。受け入れてくれる人たちに囲まれても、コンプレックスは簡単に消えてくれないらしい。優しくされればされるほど、変わらなければ、克服しなければと自分を追い立ててしまう。悔しいような、苦しいような不思議な焦燥感がレイの心の中に沸き起こった。



「ちょっと、もー!隊長。またスルメ焼いてあげるから、機嫌なおしてよー。これから二人にあのこと話すんだからさー」



「。。。。」



「ほら、アルからもらった資料出して。そう、それそれ。もう、隊長、責任放棄しちゃってて、夕方までこんなんかも。僕から説明するね。。。ってどうしたの?ボウちゃん」



また感情が顔に出てしまった。心配そうなコウに、何でもないですと答えて押し黙る。ぶっきらぼうなレイにコウは吹き出したように笑い、機嫌悪いんだーと楽しげに言った。



「違います。俺は、俺に腹を立ててるんです。お二人に心配かけて、優しくしてもらって、知らないところでもいろんな人に助けてもらって。なのに、全然成長していない。克服していない。これじゃあ、同じことの繰り返しだ」



「そうかなぁ」



「そうですよ。いつまでも助けられっぱなし、迷惑をかけっぱなしじゃ嫌なんです。自分の足で立って、周りを助けられるようにならないと。感情だってちゃんとコントロールして」



「えー。。。」



コウは顔をしかめて、つまんないと呟いた。残念そうに隣のルカを見る。ルカは笑って、しょうがないよと穏やかに答えた。



「ボウちゃんはボウちゃんの考え方があるって思うけどさ、僕はそのままのボウちゃんが良いなぁ。反抗心剥き出しの、感情がわかりやすいブスッとしてるボウちゃん。昔はよくぼーっとしてたよね」



「す、すみません。失礼なことをして。。。」



「まあ、そりゃあね。失礼だよね。でも、それがボウちゃんでしょ。ぼーっとしたり、ブスッとしたり。データ入力さぼったり、掃除したり。仕事に一生懸命だったり、人想いだったり」



何と答えていいかわからないままレイは慌てた。そうだった。配属されてからずいぶん生意気な振る舞いをしていた。今さらだが恥ずかしい。子供っぽい昔の自分を引っ張り出して頭を無理やり下げさせたい。真っ赤になったレイをコウは優しく笑って話を続けた。



「感情なんてコントロールできるわけないじゃん。そんなの、人に心を無くせって言ってるようなもんだよ。成長なんてね、みんなで響き合って一緒に成長していくもんなんだから。ボウちゃんがボウちゃんの音を奏でないと、周りだって上手く音を出せないじゃない」



「そ、そんなもんですかね」



コウの言っていることはよくわからなかったが、それでも申し訳ない気持ちは変わらない。なんとなく自分は自分で良いと言われてる気がして、それではダメだと反発したくなる。反論しようと口を開きかけたレイをコウは睨んで止めた。



「とにかく、ボウちゃんは感情のままに突っ走ればいいの。顔にもどんどん出す出す!成熟した物分かりのいいボウちゃんなんて、つまんない」



「で、でも!!」



「もう、僕の言うこと聞かなかったら、ボウちゃんのこと、ブーちゃんって呼ぶよ。自分の良さを否定し続けるブーちゃん。ブーイングのブーちゃん」



「。。。ボウちゃんがいいです。。」



見守ってくれる先輩二人がこうも口を揃えて強く言うので、レイは感情を思いっきり出してコウに呼び名を変えないでくれと頼む。コウからボウちゃんと呼ばれるのは気恥ずかしい居心地の悪さもあるが、レイ自身とても気に入っていた。それをブーちゃんと変えられるのは嫌だ。素直に懇願したレイをコウは満足そうに笑っている。



「そうそう、それ。ボウちゃんはそうでなくちゃ。これから言うことにも感じたままの考えを教えてほしいなー。遠慮なんかしないで」



「話そうとしていたクレームですね?」



コウは軽く頷くと朗らかだった顔を引き締めて真剣な顔つきになる。ちらりとリュウガを見て受け取った茶色の封筒から何枚かの資料を取り出した。資料には写真と名前、経歴や営業成績、何をいつ売り上げたか細かくまとめられている。資料の内容にルカとレイは顔が曇った。



「これ、営業部の資料ですよね。しかもかなり詳しい。金額も商品も。こんな貴重なものを。。。どういうことですか?」



「順を追って話すけど、怪しいクレームの内容はね、営業部で不正な売り上げがあるっていう告発みたいなものだったんだ。営業部長の降格と、不正を行った社員の解雇を暗黙に要求している。社員の名前はアル。おかしいでしょ?」



「バカな!」



レイはそれこそ憤慨した。営業部でとても優しく的確にアドバイスしてくれたのはアルだ。今でも営業部トップだが、昔もトップだった。予定が詰まって忙しいはずなのに、急な質問にも丁寧に答えてくれたり、怒った客を納得させたり無償で助けてくれた。



「絶対に違います。アルさん、そんなことする人じゃない。する必要ないし、アルさんだからお客様も納得して商品を買うんだ。何か証拠でもあるんですか!?」



「うーん。不正の証拠がないから、いろいろと作って告発してくるんじゃない?ぽっちゃり部長が指示したって言いたいみたいだけど、あり得ないし」



「当たり前です!!」



怒りのまま一気にお茶を飲み干して盛大に息を吐く。怒りで目眩がして頭がどうにかなりそうだ。呑気に隣で幸せそうにスルメを食べているリュウガを怒りのまま睨み付けると、リュウガはゆっくり視線を外して、降参とばかりに両手をあげた。



「ちょっと!隊長!!スルメ食べてる場合ですか!!さっさと真相を暴きますよ!!ああ!!もう!!腹を出して!!犬じゃないんだから!!」



「何か手立てはあるの?その声の主を探すとか?」



ふにゃふにゃになって、スルメのようにこたつにへたりこむリュウガを正すため躍起になるレイの隣でルカは静かに聞いた。ルカは営業部のアルと接点はないが、書籍部の仲間が大切に思っている。心配そうに見つめるルカにコウは頷き、ぜひともお願いしたいと目を輝かせた。



「うん。ルカにはこの資料を見て感じたことを教えてほしい。それと、これに関連した営業部からの報告書を倉庫から探し出して、文字から伝わってくる感情を書き留めてほしいんだ」



「文字から?」



「ルカは書いた人の想いを汲み取る才能があるでしょ?もう一度、やってほしいの。なるべく深く。すごく疲れると思うから、無理しないでほしいんだけど」



コウは苦しそうに顔をしかめた。夕方から予定していた資料整理は、この件が終わるまでお預けのようだ。



「大丈夫。やるよ、コウ。書いた人の想いを筆跡や感覚で受け取ってみる。ちょうど布団も机の横に敷きっぱしだし。寝たり起きたりしながらやるから」



ルカは明るく笑って自分の机の隣にある布団を指差した。お気に入りの部屋着もあるし、お風呂だって入ってきた。図らずとも準備万端だ。



「ありがとう。嬉しいー。アルはね、僕の大切な幼馴染なんだ。ぽっちゃり部長も大好きだし。真相を暴いて、陥れようとしてる奴等をギャフンと言われてやるんだから」



ルカに優しく笑ってコウは珍しく目を鋭く光らせた。託された資料の中に必ず犯人への道筋があるはずだ。絶対に逃すものか。



「隊長ー!!ほら、シャキッとしてくださいよ!!スルメを全部食べたからって気を抜いて!!」



「俺、ちゃんとやることやったも~~ん。後はレスポンスを待つだけだも~~ん」



レイの攻撃をのらりくらりと避けてリュウガはにやりと笑っている。真剣な顔でリュウガを立ち直らせようとしているレイがあまりにも必死で見ていて面白い。まるで子供を叱りつけるようなレイに、リュウガは口をとがらせながらも大人しく従った。


のんびり書きました~~。なんかまったり書いたなぁ。。どうぞお読みください♪

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