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顔を伏せてはいないものの、下を向いて動かないレイを穏やかに見つめてコウも朝御飯を食べ終えた。手を合わせて箸を置き、重ねた皿をお盆にのせる。作ってもらったお礼に今度は自分が片付けようと体を動かしたら、レイが勢いよく顔を上げる。素早くこたつから足を出し、隣にあったお盆に手を伸ばした。コウに取られないようにお盆を自分の元へと引き寄せた。
「ボウちゃん、いいよ。ゆっくりしててよ。僕が洗うから」
「。。。。」
機敏な動きで立ち上がったレイを下から見上げて、コウはレイの袖を引っ張った。強く引っ張って、行くなと言っているのに、譲りたくないのかレイは大きく顔を左右に振りじっとコウを見つめた。
「。。。そんなに洗いたいの?もー、無理すると疲れるんだよ」
「。。。。」
「しょうがないなぁー。ルカ、一緒にお願い」
よく見るとレイの目元が少し潤んでいて流れた後もある。あまり顔を見せたくないようで、こたつに座っているリュウガも、洗ってもらうかーとのんびり呟いている。無理をするレイも心配だが、引き留めるのも悪い気がして、せめて一緒にご飯を作ったルカにそばにいてもらおうと声をかけた。ルカは快く頷いて、もう一つのお盆を持ち上げる。
「行こっか、レイ。良かったね、喜んでもらえて。そうだ、デザートにコウの生チョコ出していい?」
「いいよー!一緒に食べよー」
ルカは穏やかに笑ってキッチンへと歩いていく。レイも大人しくその後を付いていった。イライラしていた今までの様子が嘘のようだ。動作や表情は変わっていないが、レイを纏う空気が柔らかで、ゆったりと落ち着いていた。
「良かったー、ボウちゃん、なんだか脱皮できて。安心したみたい」
キッチンへと歩いていく二人の背中を見送ってコウは嬉しそうに笑った。手持ちぶさたに足をブラブラさせて、二人がいなくなった足元の空間を確認する。思いっきり足を伸ばすと、その先にはリュウガの足があって、意味もなく攻撃してみた。リュウガはにんまりと笑って、良かったなぁと呟いている。
「ねぇ、知ってる?隊長、脱皮ってね、命懸けなんだよ」
「何!?」
「自分の殻を破れなかったら、そのまま死んじゃうの。ほら、蝶もそうでしょ?サナギになって、生まれ変われなかったら、そのまま死んじゃう」
コウは煎れてもらったお茶を一口飲んでゆっくり息を吐いた。リュウガも何とも言えない顔でお茶を飲んでいる。キッチンからルカの笑い声が聞こえてきて、なんだか楽しそうだ。レイが何かを乗り越えてくれて本当に良かった。温かいお茶を味わいながらコウは穏やかな笑みを浮かべた。
「生きるのって残酷だよね。変われなきゃそのまま死んじゃう、だなんて。せっかく進化しようとしたのにさ」
「。。。。」
「進化しなきゃ、生きられないかもしれないけど、変われなきゃ前に進めない。今までの自分の何かを捨てなきゃ、変われないのに」
お茶が入っている湯飲みを両手で包み込みながら静かに息を吐く。穏やかな瞳に、ほんのり悲しい色をのせて、残酷だよねと小さく呟いた。
「まるで、得たものを捨てろって言われてるみたいだよ。生きるために。生きるために何かを得て、生きるために何かを捨てる。結局、生きるって得たり失ったり、そんなものの繰り返しなんじゃないかと思うときがある」
「。。。。」
「生きれば生きるほど、何かを得て、何かを失う。得たものも、いつかは失う。ねぇ、隊長。僕たちは何のために生きてるんだろう」
「。。。。」
「何のために得て、何のために失うんだろうね」
手元のお茶から視線を外し、コウはぼんやりと前を見つめた。さっきまでルカが朝御飯を食べていたが、目の前の場所には誰もおらず、コウの視線を受け止めるものはない。リュウガにも答えを求めていないようで、沈黙にも気にすることなくボーッとしている。考え込むリュウガを見て、コウは少し力なく口元を上げた。
「ごめんね、隊長。変なこと言って」
「いいや」
コウの言葉に軽く答えるとリュウガは真剣な顔になった。何やら本気で考え込んでいるらしい。リュウガの真剣な顔は、それはそれで恐ろしくコウは体を少しずつ引きながらリュウガを見た。
「た、隊長。そんなに本気で考えないで。。!!なんか、嫌な予感がする。。!!!」
「。。。。」
空気が重い。リュウガの眉間にどんどん深いシワが刻み込まれていく。まるで周りのものがリュウガの眉間のシワに吸い込まれていくような錯覚を覚え、リュウガの瞬きもしない目は一点を見つめて動かない。見えないものがリュウガのそばを漂い、異様な空気を放っていた。
「た、隊長!!ちょっと!!何かしゃべってよ!!その空気、僕一人じゃあ太刀打ちできないよ!!!」
「。。。コウ。。。」
瞬きをしない目は怖い。力強く見開いた目もこれまた怖い。地獄の底から這い出てきた、そしてそこから深い暗闇へと引きずり込まれそうな低い声でコウの名前を呼んだ。隣でゆっくりと視線を合わせてくるリュウガをコウは恐る恐る横目で見た。
「本気で、真剣になって考えてみたが、わからん」
「。。。。」
「わからんぞ!!コウ!!世の中には難しい問題もあったもんだなぁ」
「ああ、そ、そう。。。」
短時間で抱え込んだものを一気に吐き出すのように、リュウガは大きなため息をついた。がっくりと首を下にして小さな声で、わからんわからんとぶつぶつ言いながら悔しそうな顔をしている。こたつの中で足をバタバタと激しく揺らし、心から悔しがっているようだ。そんなリュウガを見ていると、なんだか笑えてくる。コウは少し笑って、ごめんねと明るく呟いた。
「謝るなよ~~、コウ。俺はな、悩みを打ち明けてくれた気持ちが嬉しくて、本気で考えてみたんだぞ。力を尽くしたんだ!!なのに、俺の考える集中力が3秒しかもたなったんだよ!!!」
「うん」
「それでもだな!!俺はその3秒に命を懸けてみたんだ!!ほら、脱皮が命懸けって言ってたろ?だから、俺も命を懸けてみたんだよ!!そしたら、3秒しかもたなったんだよ!!!」
「うん」
言い訳などしたくないが、せめて自分の全力を知ってほしい。必死の形相で詰め寄るリュウガの言葉をコウは楽しそうに聞きながら受け取った。答えがわからなくてもこうして本気で受け止めてくれる人がいる。自分のわけのわからない変な気持ちも真剣に考えてくれる人がいる。頷きながらコウは幸せだなぁとのんびり思った。
「あ、待てよ、コウ。今回は3秒しかもたなったが、次はもっと集中できるかも。。。気が向いたら、さっきの話をまた聞かせてくれ。気分が乗った時でもいいぞ」
「えー。気が向く時と気分が乗った時ってどう違うの?それに、さっきの話、僕自身が忘れるかもー。だって、どうでも良くなっちゃったんだもん」
「何!?」
顔全体で、しまった!とショックを受けているリュウガを見ながらコウはまた楽しそうに笑った。もしまた悲しい気持ちがやってきて、意味のない感情が溢れてきたら。リュウガやルカに話してみよう。今度はレイにも打ち明けてみよう。
「チャンスは一度きりということか。。。」
「ふふふ」
心底悔しそうな顔をしているリュウガにコウは優しく微笑みかける。もしかしたらまた来るかもだよ。囁くように伝えるとリュウガが嬉しそうに顔をほころばせ、チャンスはくる!!と力強く目を輝かせた。
書きました~~。今日、とにかく9999をバンバン見まして、書かなきゃ!!!と言って書きました。よかった~~。どうぞお読みください♪




