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賢者と勇者の冒険の書  作者: ナカバヤシトゥリ
第一章 賢者と勇者と盗賊の根城
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商い通りと賢者

「賢者様!! あれはなんですか!?」


「うんあれはね、カング鳥って言ってよく生誕祭の食卓に並ぶ鳥だね」


「じゃあ賢者様!! あれはなんでしょう!? すごく可愛いです!!」


「うんあれはね、ルクルのローブって言って、ルクルという動物から取れる毛を使って作られた最高級の……」


 リィドとシアは今、王都の中心に位置する"商い通り"に来ていた。

 石畳で出来た道の左右には煉瓦で作られた家屋が並び、その横には木や布でできた露店が多数並んでいる。

様々な街や国から集まった珍しいアイテムや装備品、食料などが道行く人々の目を引く、まさに"商いの道"だ。


 シアも、その品物達に目を惹かれていた人々の内の一人だった。

 

 一方のリィドの顔色には早速疲れが見え始めていた。

 

「賢者様、次はあっちにいきましょう!!」


 この商い通りに来てからというもの、シアは常にこの調子である。

見るもの見るものが目新しくて、なんでもリィドに質問しているのだ。

 一方のリィドもそんなシアを蔑ろにできず、いちいち全てに答えているからだ。

 

 だがついにリィドの疲れも限界に達してきた。

 

「シア。シアちょ、ちょっと待ってシア」


 リィドがピタリと止まる、同時にシアも止まった。

 

「はい! なんですか賢者様!!」


 シアが目をきらきらと輝かせながらリィドに止まった理由を尋ねる。

悪意が微塵もない、本当に純粋に楽しいと思っているのだろう。

それがリィドにもわかる。わかるが、いつまでも何も買わずにうろうろするわけにはいかないのである。


「シア、聞いてくれ。僕達はやらなければならないことがある……わかるね?」


「……はい……っ! すみません賢者様、すっかり忘れていました……」


 うんうん、わかってくれたならいいとリィド。

 シアはぐっと手を握りしめてリィドの問に答えた。

 

「はい……! 旅に出るならまず……お鍋が必要じゃありませんか? うっかりしてました!」


 確かこっちにお鍋があったはずです!と移動し始めるシア。

そのシアを必死に「待って待って待って」と追いかけるリィド。


「待ってシア。違う。そうじゃない。そもそも僕達は、どういう旅に出るかわかってるかい?」


「はい、わかってます!! 賢者様と一緒に世界のいろんなところを見て回る旅です!」


「うん。違うね?」


 リィドがツッコミを入れると、シアは「え……」と詰まる。

今まさに旅の趣旨を間違えていたことを聞いて驚いているという風だ。


「え、確かマザーキルサが言ってたけど……国王の使いの人が来て、なんで旅に出るか教えてくれたんだよね……?」


「はい!! 教えてもらいました!! でもシアは難しい話がイマイチわからなかったので、賢者様と旅ができるということだけ覚えてました!! ……何か間違ってました……?」


 シアの目が少しうるむ。

 

「あ、いや間違ってない。間違ってないけどちょっとまってね」


 そう言ってリィドはシアに手で待てと指示する。

シアはそれを見て「はいっ!」とまるで忠犬のように言うことを聞き、静かにし始めた。


(待てよリィド、思考時間だ。どうも自体は僕が考えていたよりもっと深刻なようだ)


 リィドはこの"魔王退治"という旅に対して、目的が達成できるとは思っていない。

魔王の情報が一切ないのだ。いるかどうかもわからない存在を倒すことはできない。

 だがまたリィドが王都の重役として返り咲くには、何らかの手柄を立てる必要がある。

 リィドはそれを"伝説の勇者の末裔"とそのお供の大賢者が、各地の強力な魔物を倒して回ることで、名声を得ようとしていた。

完結に言うとこうだ。勇者に手柄をたてさせ、それを側で支え育てた大賢者という図式を思い描いていたのだ。


 だが当の勇者は少女だった。しかもそれまでの保護者のお墨付きであるほどドジらしい。

 つい雰囲気に飲まれてマザーキルサにシアのことを任され、それを二つ返事ではいと頷いてしまった。


(だけどこの知識ゼロ、常識もなさそう、更にドジ……そんな少女を連れてこれから手柄を立てれるのか……?)


 さらに戦闘経験も皆無だと、リィドはキルサから聞いている。

ますます絶望的だ。


(よし……"この旅にはこの子はついてこれません。僕は彼女が傷つくところを見たくないのです"的な言い訳をしてまたマザーキルサに預けなおそう……。シアはなんとか言いくるめて……)


 可愛いし、健気だが自分の目標のためには仕方がないとリィドは自分を説得する。


「よしシア、大事な話が……」


 その話をシアにしようと決心したところであった。

シアがリィドの目の前に、鉄製の鍋を突き出す。


「賢者様! 勝手に動いてすみません! でも良いお鍋があったので、もってきました!!」


 そしてその後ろからは、店主が鬼の形相で迫ってくるのが見えた。

リィドは嫌な予感がしてシアに質問する。


「シア。もしかして、お金ってわからない?」


「お金……えーっと、見たことはあります!」


「そっかぁ、見たことはあるかぁ」


 リィドはそう言うと全力で店主に向かっていき、頭を何度も下げた。

店主はしっかり見ていてくれよ保護者さん! とリィドに怒るが「何分箱入り娘で……」というと、案外すんなりと許してくれた。シアの可愛さも功を成したのだろうかとリィドは思った。


(……まずそんなことより、常識を少しでも教えていかないとな……。マザーキルサも気の毒だし……)


 そう思い、先ずはシアにお金のことについて教える決意をするリィドだった。

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