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賢者と勇者の冒険の書  作者: ナカバヤシトゥリ
第一章 賢者と勇者と盗賊の根城
1/16

左遷と賢者

 大賢者リィド=フォン=ヴェラーデ。

 齢十三歳にして魔法騎士学校を主席で卒業。

その後カルタガラ王国のエリート魔法騎士として魔物から国を守る仕事につく。

十六歳の頃、その知識と実力を買われて魔法騎士学校の教師役……いわゆる"大賢者"の役職につく。

 大賢者となってからも数々の優秀な騎士を世に送り出し、十九歳の今"没落貴族"にも関わらず新たな領主として土地を与えられるかもと噂されている。

 

 まさに大活劇。

 

 幼いころ両親が悪政を敷き、領地を失い、クズの子供というレッテルを貼られたのにも関わらずの大出世。

他の没落貴族が聞いて、己を奮い立たせることもしばしばだ。


 リィドには夢があった。

 

 両親が行った悪政という大失態を、自分自身が領主になり誰よりも素晴らしい政策を敷くことで取り返す。

汚名返上。名誉挽回。リィドは両親に付けられたクズという楔を解き放つために努力してきたのだ。


 だが、だがしかし。

 

「え、すみませんもう一回お願いします」


「だから、魔王を倒してきてください」


「え、あ。最近耳が悪くなったかな……? もう一度お願いします」


「失礼ですぞ!!大賢者リィド!!!」


 小さな密室の部屋。

中央には木のテーブルが置かれており、椅子は四つ並んでいる。

質素な部屋づくりだが、扉は一つしかなく、窓もない。

さらに防音性に優れていて、気密性が保たれている場所だ。


 その場には三人の人間がいた。

 一人は大賢者リィド、一人は政治によく関わりのある重鎮貴族のラカ。

そして最後の一人は、まだ幼いながらも完璧な政治を行っているルルド三世……カルタガラ王国の国王だ。


 その国王が聞き捨てならない命を、リィドに何度も投げかける。

リィドはその度に聞き返すがあまりにもしつこかったので、ついにラカに雷を落とされた。


「いや待ってくださいよ。そもそも魔王て。いませんよね? 魔王」


 この世界には魔物がいる。

だが魔王が魔物を作ったとか、魔物の親玉が魔王だとか、そんな話は一切聞かない。

 確かに魔物は生態がよくわかっていない。だからといって、その上に魔王がいると論じるのは早計ではなかろうか。

と、リィドはあえて口にしない。


 ただ簡潔にいないだろと伝えただけだった。

 

 だが反する国王は頑なだった。

 

「いいえ、居ます。神のお告げが降ったのです。まさに三時間と十分前の出来事でした」


「わりと最近だね国王様、めっちゃ最近じゃんね」


「ええそうです。だから私も驚いているのです……神のお告げはこうありました」


 幼き国王は、六歳程度の歳だとは思えないほど流暢に喋る。

そして同時に、ラカに右手を出す。

ラカはその手に羊皮紙を一枚握らせた。

 いわゆるカンペだ。

 

「えー。 その者奈落より着たれり、悪意の羽衣を身にまとい……えー、不死者の軍勢……うーん、世界の破滅……。大賢者と伝説の勇者の末裔に旅をさせよ!!!……とのことです」


「大分はしょりましたね国王様」


「ええ。お告げは長ったらしいものなのです。テンポが悪くなるのでここは流させていただきました」


「はい。お心遣い感謝します国王様。でも僕には大賢者の仕事がありますのでその命を達成することは困難です。なので隣でニヤニヤ笑っているラカ殿を一時的に大賢者と銘打って度に出させましょう」


 リィドはそう言ってラカを指差す。

一方のラカはえらく悪趣味な笑い顔を一瞬曇らせて、急いで首を左右に降る。


「いえいえ、それではお告げ通りにはなりませんでしょう。今から三時間と十分前、お告げを国王様が聞かれた時の大賢者はリィド、あなたなのです」


(畜生、一理あるな)


 リィドは唇を噛む。

このままでは本気で旅に出される。

一度旅に出たらどうなるか。知れたことである、大賢者のポストが他の人間に奪われ、夢だった領主生活が遠のくのだ。


 リィドには敵が多い。

 

 没落貴族からの大出世劇、これは庶民や没落貴族が聞けば楽しい話である。

だがすでに貴族として君臨している人間は違う。

まさかあのクズと名高い悪政を敷いたヴェラーデ家のせがれが大出世などと、あってはならないことだ……と思う人間も多々いる。

かくいうこのラカもその一人であり、リィドはそれをよく知っていた。


(お告げだって言ってるが、実のところはコイツらが一枚噛んでるんだろうな……)


 そう思うが、それを言っても証拠がない。

それどころか、国王のお告げは絶対なのだ。


 そんな思考の合間を縫って、国王が口を開いた。

 

「大丈夫です。伝説の勇者の末裔は、とてもできる方だと聞かされてます。きっとリィド、あなたの力になるでしょう」


「まってください国王。まず伝説の勇者の末裔とやらが、この国にいるということ自体が初耳です」


「はい、そうでしょう。私も今から二時間前くらいに知りました。これもお告げの通りです」


 そんなにふわふわしたお告げがあるわけないだろと思うリィドだが、口をつぐむ。

これ以上の問答は効果がないと判断したからだ。

 なにせ、国王の目はキラキラと光り、ラカの目はギラギラと燻っているからだ。

 

(国王様はお告げを信じていて、ラカは計画がうまくいったことに喜んでるって感じだな……畜生、嵌められた)


 リィドは下を向く、だがすぐに国王達に向き直る。


(ここで終わってたまるか、僕はいつだって前に進んできた。今もマイナスなことを考えてるヒマはない)


 リィドは今までも同じように貶められてきた。

だがその度に這い上がり、成果を上げ、国王に結構無礼な口がきける地位まで上り詰めたのだ。

今回もどうかして成果を上げればいいだけだ。


 リィドは早速思考を回す。

回した結果、リィドは国王にたかることにした。

 

「国王様、その旅の事拝命いたします。ですが、先立つものがなければ旅などできません。何卒お慈悲を」


 両手を合わせて国王様に祈るポーズを取るリィド。

一方の国王は、こくこくと二回頷いて「いいでしょう」と返した。


「大丈夫ですリィド、用意してありますから。アレを持ってきてください!」


「かしこまりました」


 国王が命じると、ラカが直ぐ様部屋を出る。

しばらくすると大きな赤い箱を持って、リィド達のいる部屋へと戻ってきた。


(お、大きいぞ! これは超強力な装備が入っているに違いない、そうに違いないぞ!!)


 リィドは目を輝かせる。

 魔王はいなくても、なんとかして手柄をたてたいとリィドは考えている。

その為には、強い装備や資金がいくらあっても足りないのだ。


 いかんせん、伝説の勇者の末裔もどんな人物なのか未知数だ。

 ここは確実に力を手に入れておきたいというのが彼の思惑だ。

 

「あけても?」


「はい、もちろんです!! さぁ、それを手に取り旅へと出かけるのです。大賢者リィド!!」


「では早速……」


 隣で笑っているラカが気に触るが、リィドはそれをスルーし、宝箱に手をかけた。

思い切り上蓋を開く。なんか格好いい効果音が流れたが、それもスルーしリィドは中身を拝見した。


「…………。これがあれば魔王なんてイチコロですよ。ではいってきます」


 リィドは箱の中身のものをかき集めてとると、口早に国王に言葉を投げつける。

その後部屋を出ようとするが、すんでのところで国王から呼び止められる。


「あ、大賢者リィド! 伝説の勇者の末裔は、ロロ大聖堂にいるそうですので迎えにいってあげてくださいね。出国した後は、定期的に報告書を送るように。では検討をいのっていますよ!」


 国王はぶんぶんと両手をふってリィドを見送った。

ラカは同じく右手をふっているが、その左手は口元を抑えていた。笑いをこらえているのだ。


「はい、いってきます。はい」


 畜生覚えてろよラカ!!と、右手の拳を握って決意するリィド。

その右手の中には、先程宝箱からかき集めた「銀貨六枚」が握りしめられていた。

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