ミラーハウス
裏野ドリームランドって知ってる?かなり前に廃園になった遊園地なんだ。廃園になった理由?きっとあんな山奥にあるのだもの。開園当初は結構来てたらしいけど、やっぱり不便だって事もあって経営不振で廃園になったんだって。
けど、それだけが理由じゃないらしいよ?
〜ミラーハウス〜
「向こうに廃園した遊園地があるから行ってみようぜ?」
「え?勝手に入っていいの?」
「やってないんだから、いいだろ?そうだ!ここはひとつ、肝試ししようぜ!」
と中学生のいとこの兄ちゃんは小学生の僕に肝試しを持ちかけて来た。僕は気が乗らない。
「肝試しって…肝試ししてろくな事ないじゃないか!呪われたり、おかしくなったり…」
「お前、怖い話の読みすぎじゃね?そんなの作り話だよ。第一にそんな怖い思いしたら、思い出したくもねーじゃんか」
「そうだけど…」
「だから証明しようじゃないか!まずは下見と行こうぜ。色々あるみたいだしよ!」
と、いとこの兄ちゃんは行く気満々。僕は気がやっぱり乗らないけど、外はとても天気がいい。明るいし、まぁ下見ならいいかと、いとこの兄ちゃんとその“裏野ドリームランド”に向かった。
夏の太陽に照らされた廃園はただの寂れた建物にすぎなかった。けど、取り壊されずに建物があった。遊園地の入場券の販売所があっただろう、誰もいない窓口の横に入り口があった。立ち入り禁止のテープが貼ってあった。
「やっぱり、よそうよ!立ち入り禁止って書いてるし、勝手に入っちゃ…」
「大丈夫だよ!防犯カメラもねーし!」
「…っ!」
といとこの兄ちゃんに腕を引っ張られて、立ち入り禁止のテープと柵を乗り越えた。その時、微かに聞こえたんだ。
ゴ×イエ⚫️…アリ▲と%…ゴザイ※ス…
窓口の方を振り向いたけど、何もなかった。
「おい!色々あるぞ!」
「う、うん…」
いとこの兄ちゃんは下見と言うより探検と言う感じだ。確かに寂れた遊園地。廃園になったのにアトラクションが残ってる。と、いとこの兄ちゃんがある建物を指差した。
「ミラーハウスだ」
「ミラーハウス?」
「鏡張りの迷路を抜け出すところだよ!夜来たらぜってー怖いぞ!よく鏡に映ったたくさんの自分の中に別なのがいる…ってよく聞くしな!」
「やめてよ!」
「何だ?もうビビってんのか?まだ明るいのに!ふふ!じゃあ、俺がまず行ってルート確認してやるよ!」
「え…?ちょ、ちょっと!兄ちゃん!」
僕は止めたけど、いとこの兄ちゃんはその入り口がぽっかり開いた“ミラーハウス”にズカズカ入って行ってしまった。僕はその入り口で待っていた。
「おーい!聞こえるか?」
「き、聞こえるよ!早く戻って来てよ!」
「ははっ!意外と中、暗いけど、楽しいぞ!俺がいっぱいる!こっちかな?いやいや、こっち…」
だんだんいとこの兄ちゃんの声が小さくなる。奥に進んでいるのだろうか?
「にーちゃーーん!大丈夫?!」
お腹いっぱい力を入れて叫んだ。僕の反響する声の向こうで、
「…大丈夫だっつーの…!!」
小さく聞こえた。奥の方にいるらしい。と突然ガタンッと言う音が奥で聞こえた。
「にーちゃーん!!」
「…大丈夫…大丈夫…!道…かと思ったら…鏡…」
いとこの兄ちゃんの声が聞こえたからホッとした。
だけど、それから5分、10分、30分、1時間…いとこの兄ちゃんが出てこない。声は聞こえるのに出てこない。
「もう帰ろーー!ねぇ!出られないとか言わないでよねー!!」
「…大丈夫…大丈夫…!…ダイジョブ…!」
「大丈夫とか言って、出られないんじゃないのーー?」
「…ダイジョブ…出られる…!デラレル…!」
僕は不安になってきた。きっといとこの兄ちゃんの強がりで、迷ってるくせにそう言ってるんじゃないかって。僕は咄嗟にケータイを出した。いとこの兄ちゃんもを持っている。僕は電話をかけた。呼び出し中なのにいとこの兄ちゃんは出ない。小さくだけど、着信音も聞こえる。
「何で出ないんだよぅ…兄ちゃ…」
「デラレタ」
「?!」
遠くで鳴ってたはずの着信音が突然近くで聞こえたかと思ったら、いとこの兄ちゃんが目の前にいた。着信音が鳴りっぱなしだった。それにいとこの兄ちゃんは顔を下げてふらふらしながら出て来た。
「に、兄ちゃん?!」
「デラレタ…デラレタ!デラレター!」
といとこの兄ちゃんは僕を無視してフラフラとどこかへ行こうとする。僕はいとこの兄ちゃんの腕を掴んだ。
「兄ちゃん!帰ろ!どこに行くんだよ?!」
と僕が掴んだいとこの兄ちゃんの腕。確かにいとこの兄ちゃん。服も髪型も…けど、顔を見た瞬間、僕は手を離した。
「…デラレタ…!」
いとこの兄ちゃんは口を大きく三日月型にして笑った。いとこの兄ちゃん、じゃない。目、鼻、口、はいとこの兄ちゃんだ。だけど、何かが違う。違う!
「デラレタ!デラレタ!へへへ!デラレタァ!」
といとこの兄ちゃん“らしき”人はフラフラしながら森に向かって走って行った。僕は足が動かなくなって追いかけられなかった。連絡手段はあるだろうし…と、僕は親に連絡しようとケータイを見た。
“圏外”
「う、嘘だ!さっき、兄ちゃんに繋がったのに!!」
必死にどこへ移動しても“圏外”だった。仕方ないから、一度遊園地を出て、家に帰ろうと思った。
「あ、あれ?!」
必死に電波が届くところを探していたせいか、僕は気がつくと、何故か“ミラーハウス”の中にいた。たくさんの自分がいた。
「う、うわああああー!!」
僕が腰を抜かすと鏡の無数の、僕も腰を抜かしていた。とにかく、入り口に戻ろう!と振り向いたら僕たちと目が合った。手探りで鏡に触れながら道を探す。鏡の僕も同じく道を探している。
「ヤダよ!出たいよ!!帰りたいよ!!」
半ベソの僕の声が反響して、半泣きの僕がたくさんいる。向こう側にもたくさんいる僕。だけど、僕は見た。半ベソのたくさんの僕の中に、1人だけ笑っていた僕。
「出たいよ!!出たいよ!」
デタイヨ…デタイヨ…
と半ベソのたくさんの僕がまた1人、また1人、笑い始めた。
デタイヨ…デタイヨ…!デタイヨ!デタイヨ!
「うわああああーー!!」
映っているのは僕なのに笑っている。僕はもう半ベソどころか泣いているはずなのに、鏡に映る僕はみんな笑ってる。ドンと背中を鏡にぶつけた。
デタイヨ!デタイヨ!
振り向いたら鏡の僕が手を伸ばしていた。その手は鏡からニョッキリと出ていた。
「うわあああ!!やめてぇええ!!」
デタイヨ!デタイヨ!デタイヨ!デタイヨ!
たくさんの僕が手を伸ばし始めて僕を掴んだ。身動きが取れない。正面の僕が手を伸ばしながら、奇妙な笑顔で出て来た。
…デラレタ…!デラレタ…!デラレタ!!!
無数の僕は喜びながら出口に向かって走った。
僕は出口に出る事が出来た。“僕の体”はね。僕の体はどこへ行ったかは知らない。いとこにいちゃんもどこへ行ったんだろう?そして鏡にはお互いを写しあってるだけ。それより、ここはどこなんだ?いったい、僕はどうなってしまったのだろう。僕はどうなってしまうのだろう。でも確かな事は、出られない。このミラーハウスから。
出られない、出られない、出られない、出られない、
出ラレナイ…デラレナイ…デラレナイ…デタイヨ…デタイヨ…デタイヨ…
それから何日経ったのだろう…?
「ねぇ!出してよぉ!!どうなってるの?!出たいよ!!」
デタイヨ…デタイヨ…
新しい人が来た。この鏡から出られるかもしれない。女の人だけどいいや…出られるなら…出たいよ。
デタイヨ…デタイヨ…
デタイヨ…デタイヨ…
デレラレタ!!!!
デラレタ!!!!
初ホラーです。怖い話書くの始めてなので怖くないかもしれません…。