1章 世界を救ってその後2
「勇者よ。ご苦労であった」
髭をたっぷり蓄えたオッサンが上から目線で仰る。
このオッサンは王様……という訳でもない。大臣だ。
人の好いオッサンだが、いかんせん人使いが荒い。今回の件に限らず、世界のあっちゃこっちゃで日々勃発する大小様々な諍いを、勇者をアゴで使って解決させる糞爺だ。
「今日はさすがにもうないだろ」
労いに応えるでもなく、独り言る。
さっきので本日三件目だ。一件目はいつもの魔王復権連呼集団。二件目は痴情のもつれから殺し合い始めた魔術学院生の仲裁。三件目が追い剥ぎ紛いの山賊行為を働くならず者の成敗。
これら全ては事態が深刻化する前に解決される。
何故かというと、日の目を浴びる事のない王国の暗部、とある呪師が世界の隅から隅まで覗き、異常を察知する。世界中の楔を打ち込まれた場所へ特殊な魔術によって一瞬で移動する。そして俺が力尽くで解決する。
魔王が倒れて数年。世界の平和が保たれているのはこの勇者過労死世界監視システムによるところが大きい。
その呪師が口を開かなければ、俺の平穏は保たれるというわけだ。
「いや。数刻後にローレンシアのとある街道で大爆発が起きる。荒事は無さそうだが被害の大きさを考慮するとお主に出向いて確実に収めて貰いたい」
「やだ。もーむり。かえりゅ」
「駄々をこねるな」
このハゲ。殺すぞ。
「まだ猶予はある。先に現場へ行き待機するかこちらで一息入れてから行くかは任せる。時が来たら使いの者を寄越すから遠くへは行くなよ」
「勝手いいやがって……」