分岐堂書店の日常
お久しぶりです。
なかなか思いつかなくて放置してました(´・・`)
また頑張ります!よろしくお願いします!
「石黒さん待ってください、大いなる誤解です!」
そう言いたいところだが、残念ながら誤解なんかじゃない。
あの日、僕は確かに『彼女』(彼氏?)とデートしていたのだ。
石黒さんは妙にニヤニヤして、弾丸トークよろしく質問攻めにしてくる。
馴れ初めは?初キスした?どこまで進んでる?A?B?C?
ここでお客さんが来てくれたら、うまくはぐらかすことが出来るんだけど、悔しいことにいまは誰もいない。
大丈夫かよって心配になるほどに、客足がない。
どう切り替えそうか悩んでいると、
「石黒さん、ヒロ先輩困ってますよぉ」
「あはは、ごめんごめん。若者の恋バナ大好きだもんで」
石黒さんはそう言って、2階の仕事に戻っていった。
僕は胸をなで下ろして、助け舟を渡してくれた彼女に礼を述べる。
「ありがと、愛ちゃん」
僕のお礼に対してツインテールを揺らして、「いいえぇ」なんて呑気で可愛い笑顔を浮かべる。
彼女は後輩の沼城愛ちゃん。
大学一年生で、授業の関係があって夕勤の僕とよくシフトが重なる。
だからというか、いちばん歳が近いというのもあるかもしれない。ここ最近はオフでもよく電話したり、たまに出かけてお茶したりする仲である。
「それで」
ずずいと、愛ちゃんは僕に迫ってくる。その鬼気迫る表情に、僕は思わず小さな悲鳴をあげそうになる。
「彼女さんとはどこまで進んでるんですか!?」
「あ、愛ちゃんまで……!?」
愛ちゃんって、石黒さんみたいなタイプじゃないと思っていたのだが……。
というか、いつもと違って怖い。
「つ、付き合ったばっかだから、とくに進展とかないよ」
そう答えると、愛ちゃんの表情がみるみる輝きを取り戻した。
「なんだぁ。じゃ、あたしも頑張ろ」
「なにが?」
「なんでもないですっ」
可愛らしく踵を返し、愛ちゃんは二階のコミックコーナーへと戻っていった。
たまに愛ちゃんの気持ちがわからない。
というか彼女とは、年が明けてからの付き合いになるのだから、当たり前かもしれない。
どうして急に愛ちゃんが僕と仲良くしてくれるようになったのか、僕にはなにも心当たりがなかった。
前から仕事のフォローをよくしてくれて、お菓子を快くプレゼントしてくれる優しい子だと知っている。
それがどうして急にLINEのID交換を頼んできたり、悩み相談と称して二時間にも及ぶ長電話をしたり、バイト先の近くにあるドーナツショップで駄弁ったりするまでに好かれたのか。
童貞で彼女いない歴二十六年の僕だからこそ、言おうじゃないか……勘違いしてもいいのかな?
「浮気のニオイがする」
「!?」
いつも通りに僕の退勤に合わせて待っていた憂が、出会い頭に眉根を寄せて睨んできた。
厳しい視線だ。返答次第では崖から突き落とされるかもしれない。
だが僕は、
「な、なんのことだよ!」
自販機で買ったホットコーヒーで噎せながら、憂に反論の視線を浴びせる。
実際に、僕には浮気の心当たりなどない。
言い寄る人間は相変わらず憂だけだし、好きな子なんていない。
……気になる子はいるけど。
だけど愛ちゃん可愛いしなぁ。
年齢=彼女いない歴の僕なんかには、まさに高嶺の花だよ。
(憂は彼女としてカウントしたくない)
憂がしつこく詰め寄るそのとき、携帯の着信を知らせるバイブが鳴った。
上着のポケットから取り出してみれば……。
愛ちゃんからだ。
「誰から?」
同じく自販機で買ったホットココアを口に含んでから、憂はさらに厳しい視線を向けた。
相変わらずの詰問に対して、僕は素直に答える。
「バイト先の子だよ!」
さっき別れたばっかりなのに……なんだろ?
また遊びのお誘いかな?
特に深く考えもせず、メッセージを開くと……。
『明日のバイトの後、時間ありますか?
大事な話があるんです(><)』
大事な話……?
ここで発揮する恋愛脳は、こう言っている。
これは告白だ、と。
僕だけではなく、憂も同じ結論に至ったらしい。
般若のような顔をしている。
憂に浮気を疑われているタイミングで、なんてメッセージを寄越すんだ愛ちゃん……!