フライングゲット
プロットを作らず本番一発で作るやり方は、なかなか時間がないとできません。
ちょっとずつ更新しますので、ご容赦願います。
「籠馬くん、上がっていいよ。お疲れ」
店長にそう言われて、僕こと籠馬ヒロは朝から昼頃まで二時間くらい入っていた、いつもの書店バイトを切り上げた。
軽い挨拶を済ませて、二階のせせこましい事務所に入ってタイムカードに打刻してから、ほっとひと息ついてエプロンを外す。
それから真っ先にロッカーに入れていたスマートフォンを出して、LINEにメッセージがあるかチェックする。一件だけあったので人差し指で画面を押す。
アイコンに可愛い猫の写真を使っている、登録名は『うい』。
『バイト終わった?』
とだけあるので、僕は『終わったよ』のメッセージのあとに、ウサギのような白いゆるキャラが『これから行くぜ!』とか息巻いているイラストのスタンプを押した。
それからすぐに上着を羽織ってマフラーを巻き、アウトドアリュックを背負ってバイト先を出た。
店の前に停めていたシティサイクルの鍵を差し込んでいると
「来ちゃった」
背が高くスラッとした綺麗な女性が、微笑んでやって来た。
その表情は、普通の男ならK.O.されかねない可愛いものだ。
「……別に待ってればいいのに」
だが僕は半分呆れながらシティサイクルの鍵を解錠して、スタンドを蹴るように跳ねあげた。
「……で、今日もうちの前まで行くのか?」
「うん」
焦げ茶のムートンブーツで僕の隣をとてとて歩く彼女に、道行く男どもは釘付けだ。
僕はそんな男どもから、羨望と嫉妬の目で見られている。
----コイツの正体を知らないから。
僕の隣を歩く、この上なく綺麗な女性は、僕の《オタメシカレシ》である。
彼は名古木憂、性別は男性。
ここまで状況証拠が揃っていて、嘘つけ!と言われるかもしれないが、僕はホモではない。
彼とは行きずりの関係というか、わけのわからんうちに契約しちゃってクーリングオフは不可とか言われて持て余している、つまるところわけがわからないのだ。
彼は僕と恋人になりたいらしいのだが、出会いの大晦日から一ヶ月くらい経った今でも、とりたてて恋人らしいことはやりたがらない。
毎日こうして会って、僕の家の前まで付いてきて終わり。
キスくらいは覚悟していたのに、なんだか拍子抜けだ。
別にしたいわけじゃないんだけどね?ココ重要。
今日もそんな感じで終わるのかなーなんて、考えながら自転車を押して歩いていたのだが。
「ヒロ。来週の日曜日って空いてる?」
唐突の質問に、僕はきょとんとしてから答えた。
「え、バイトあるから、昼過ぎなら……」
「初デート、しよ」
「……え?」
人生初デートのフライングゲットです。
というかなんで今更になって、初デート?
初デート!!!
どこに行ってもらおうかね?