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オタメシカレシできました

堂々とホモを書きました。いたって日常系です。

指先が偶然触れた、その瞬間。

ビリリとなにかが反応した。

あとから思えばこれが、恋だったんだ……なんて。

イマサラ、遅いんだよね。


僕、籠馬(かごば)ヒロは、就職活動に失敗して駅前の大手書店でアルバイトをしている、実家暮らしの彼女いない歴=年齢のオタク男子だ。

背が低くて童顔なところ以外とりたてて特徴的な外見ではなく、華々しい高校生の妹弟と比較されがちな長男である。

趣味はネットゲーム、友達はみんなオタク男子。携帯の連絡帳に入っている女性は、母と妹と従姉妹。

こんな僕だから、妹には「実はホモなんじゃないか」とからかわれる日常生活である。

そりゃあ僕だって可愛い女の子と付き合ってみたいとか、年齢相応の性への興味はありますよ。

単に出会いがないだけですよ。

専門学校生だったときは課題とバイトでいっぱいで、サークルに入るとか、人脈を広げるようなことはしなかった。

友達とはいまだに繋がっているけれど、全員男。別にホモじゃない。

だからこんなことが起こるなんて……想像もしていなかった。

年末のバイト中、レジに入っていたら綺麗な長身の女の子が、僕をやたらチラチラ見ていた。

ただの自意識過剰なのかなって思っていたら、その女の子がレジに文庫小説と一緒に、小さな紙片を僕の手に握らせる。

こんな片田舎の書店だから、年末だからって特別忙しいわけではないので、女の子が店から出たらすぐに折りたたまれた紙片を開いた。

『お店の前で待っています。お仕事が終わったら、来てください』

それだけ。名前も書いてなかった。

知らない子だし、別に無視してもいいのかもしれないけれど、この寒空の、しかも夜に女の子が……と考えると、彼女になにかあったら後味が悪いなって想像する。

ここ最近、二十歳代の女の子が殺される事件が多いし。

だから僕はレジ締め作業をいつもより早く終わらせて、店長へ挨拶をしたらすぐに彼女が待っているという店の前に出てきた。

僕のアルバイト先である書店は片田舎駅のロータリーに面していて、普段はひと気が多いのだが、日付が変わろうという年末の今は、ほとんど誰もいなかった。

彼女とはすぐに会えた。

改めて見ると、彼女の美しさはとても目立つ。

僕よりも背が高く、手足が長くて細くて絹のような長い髪。そこいらのモデルよりも綺麗な女の子だ。

側には小ぶりのカートが置いてあって、そういえばビッグサイトのお祭りは今日が最終日だなぁなんて思い出した。

三日目(最終日)は美少女作品がメインに扱われているので、女性で参加する人はあまりいないときいているが、行く人もいるのだろう。

僕は主にライトノベル作品が好きなので、行くとしたらもっぱら二日目である。

「えーと……僕になにか用ですか?」

にこにこ微笑む彼女に、僕はたどたどしい言葉をかけた。

異性免疫のない僕にしては上等である。

すると彼女は、女性にしてはやや低くハスキーな声でこう言ってのけた。

「キミ、彼女とかいるの?」

「……はぁ、いませんが」

というか、そもそもいた時期がないけどねっ!

なんていつもの自分のキャラらしくない、ハイテンションなセルフツッコミを脳内で済ませながら、彼女の次の言葉を待つ。

「ふぅん。もしかしてオトコノコが好きな子?キミ、カワイイし」

「え、いや……の、ノーマルを自負していますが……」

自分に彼女ができる未来なんて、想像したことはないけどとりあえず二次元では幼なじみと委員長タイプの女の子が好きだし、ノーマルだよね。

やや雲行きの怪しいルートに、僕は漠然とした不安を抱える。

彼女はその細いおとがいを左手で包み込んで、小悪魔のように微笑んだ。

「お試しで私と付き合ってみない?そのつもりで呼び出したんだけど」

「…………?」

彼女の言葉を耳に入れて、脳が回らない。データ読み込みが遅々として進まない。

どういう展開だこれ。これなんてギャルゲー?

カチコチに固まった僕をよそに、彼女はなにかに気づいたらしい。

僕の手を引いて、歩き出した。

「まぁ、見てから決めてもいいよ。というか、この方が話がわかりやすくていいし」

見る?なにを?

彼女に連れていかれたのは、最近建て直して綺麗になったトイレだった。

地元の山の木を切り出して使っているので、木の匂いがとても漂う。

そのトイレの、男性用の個室に入る彼女に待たされている。

女性って、こんな自然な流れで男性用トイレに入れるんだ……怖。

とか考えていたら、個室からイケメンが出てきた。顔立ちは中性的の部類に入るが、服装はメンズだしコートの上からだけど胸は明らかに平らだ。

というか不思議に思ったのは、そのイケメンが出てきた個室は、僕を待たせている彼女が入った個室なのだ。

そしてイケメンの足元には、彼女が引いていた小ぶりのカートが鎮座している。

「そういえば名前をきいてなかった。なんていうの?」

イケメンがものすごく聴き覚えのあるハスキーな声で、自然と尋ねるので、僕は流れで答えた。

「……籠馬、ヒロ……」

「ふぅん、ヒロ。ボクは名古木(ながぬき)名古木(ながぬき) (うい)。よろしくね、ヒロ」

「あの……」

「なに?LINEのID交換しておく?」

差し出された右手を無視して、僕はおそるおそる喉から声を絞り出した。

「いったいなにを、よろしくするんですか……?」

現実が怖い。

いや、自宅に届く企業からの不採用通知より怖いものなんて、もうわからないんだけど。

僕はこの現実を受け止められるのかが、保証できない。

家電を買うときの安心五年保証が温かいだろう?

今それが、人生における安心二十六年保証が、付いてないんだってようやくわかったんだ。

イケメン……もとい憂が既視感のあるにこにこした微笑みを見せて、決定的な発言をした。

「お試しでボクとお付き合い。よろしくね、ヒロ」

詰んだ。

ホモ!!!!!!!!!!!!!!!!!

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