第九話 日替わり定食を食べました。
無事にとは言い難いが、何とかパーティが組めたので昼食を食べに行くことにする。
俺達はテーブル席はまだ恥ずかしいのでいつも通りカウンター席に座る。
如月ちゃんはふて寝しているので端末経由での注文ができない。
仕方がないので黒髪お団子ヘアで黒のワンピースに白いエプロンの標準型メイドさんに事情を話して口頭で注文する。
ふて寝している端末が珍しいらしい。
複数の標準型メイドさんが如月ちゃんを見に来たのが、すぐに蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
俺達には解らない方法で如月ちゃんに威嚇されたのだろうか?
標準型メイドさんが逃げ出すと入れ替わりに山田君と吉田さんが食堂に入ってくる。
吉田さんが弥生さんの隣に座り、女の子同士の話があると言って弥生さんと一緒に食堂から出て行った。
吉田さんはすぐに帰ってくるとは言っていたが、日替わり定食が来る前に戻ってこれるだろうか?
「今度はこちらからお願いする。僕達とパーティを組んで欲しい」
昨日は向こうからパーティを組もうと言ってきたんだ。断られることはないだろう、多分。
「もちろんオーケーですよ」
山田君が人のよさそうな顔に笑顔を浮かべて了承する。
これで地下二階に行って、蟻さんと戦えるだけの戦力が整ったはず……だといいんだがなあ。
「じゃ、これからよろしく」
「こちらこそ」
俺は山田君と握手してみる。彼は手に汗を掻いていない。
つまり、特に何か良からぬ事を企んでいるわけではないと思いたい。
「おまたせーー」
元気一杯な吉田さんが弥生さんが連れて帰ってくる。
「全員そろったところで自己紹介しましょうか。山田です。よろしくお願いします」
「吉田です。よろしくお願いします」
「睦月です。よろしくお願いします」
「弥生です。よろしくお願いします」
とりあえず、四人で定型通りの挨拶をする。そんなにおかしな奴はいない。
この面子なら特に問題は起きないだろう、多分。
「お待たせしました。日替わり定食です」
タイミングよく標準型メイドさん達が日替わり定食を持ってきてくれる。
今日のメニューはご飯、豆腐と大根の味噌汁、ハンバーグ、ミニトマトとキャベツのサラダである。
もしかして、メインディッシュは野菜炒めとハンバーグだけか?
「メインディッシュはハンバーグと野菜炒めの二種類だけですか?」
日替わり定食を持ってきてくれた標準型メイドさんにハンバーグと野菜炒め以外のメニューがあるのか訊いてみる。
もし、日替わり定食のメインディッシュがこの二つだけだとしたらモチベーションは駄々下がりだ。
「申し訳ありません。一か月後にメニューが増える予定ですので、それまで我慢してください」
標準型メイドさんの一人があまり申し訳なさそうに答えてくれる。
メニューが増えるのは一か月先になるらしい。我慢できるかどうかは増えるメニューによるが何が増えるんだろう?
お味噌汁の具の種類が増えるとか、お漬物の種類が増えるとか、通常のご飯とお粥が選択できるようになりますとかは勘弁して欲しい。
選択といえば洗濯も気になる。
「どんなメニューが増えるんですか?」
やはり、弥生さんや山田君達も食事には興味があるらしい。
「ご要望の多い麺類やカレーは優先されてますからご安心ください」
麺類とカレーが増えるのか! ならば一か月待てる!
ここのハンバーグも野菜炒めも十分美味いしな。
全員が日替わり定食を食べ終えたので、麺類とカレーが増えると聞いてみんなのテンションが上がっているうちに確認しておこう。
「これから地下二階に降りて蟻と戦ってみたいんだが、みんなはどう思う?」
「まだ二階に降りる必要はないと思います」
弥生さんの端末である卯月ちゃんが地下二階に降りる事を明確に反対する。
卯月ちゃんがまだというのなら慎重に事を進めるべきか。
しかし、如月ちゃんからの情報では蟻さんの戦闘力は人より低いらしい。四人いればなんとかなるだろう。少なくとも死人が出る事はないと思う。
「いずれは二階に降りるんだよな?」
「それはその通りですが、まだ早いですよ」
理由は解らないが、卯月ちゃんは俺達を地下二階に降ろしたくないらしい。
「せっかく他人より早くパーティが組めたんだから、地下二階を攻略すべきじゃないのか?」
「申し訳ありませんが、こちらもいろいろ事情がありまして」
地下二階に十分な数の蟻さんが準備できていないのだろうか?
如月ちゃんなら適当な事を言って誤魔化すだろうけど、真面目な卯月ちゃんには無理なんだろうな。
「僕としては僕達の生殺与奪の権を握った人達の機嫌を損ねるような事はしたくないですね」
俺としては他人の都合を尊重しない連中の都合を尊重する気はない。
だが、山田君はやたら慎重だ。いや、パーティを組んで行動するという事はこーゆー事なのだろう。
「ぐーぐー。地下二階の調整はまだ終わってないですからね。下手に降りると蟻さんにたかられて死にますよ、ぐーぐ-」
音声の発生源は弥生さんの端末である卯月ちゃんだが、メッセージは明らかにふて寝している如月ちゃんからだ。
ということは如月ちゃんは卯月ちゃんより上位の権限をもっているのだろうか?
「まだ地下二階には降りない方がいいみたいね」
吉田さんは如月ちゃんのいう事を素直に信じたらしい。
俺は半信半疑で、弥生さんは騙されないぞと言う顔をしている。どうやら俺の前途は多難らしい。
「如月さんのいう事を全部そのまま信じるのはちょっと……」
うわ。弥生さんが口にだしちゃったよ。
「如月ちゃんの言ったことの真偽はともかく、僕は地下二階に降りない事による逸失利益を補填してくれれば問題ないよ」
俺自身も少々エグいと思うがパーティを早めに組めば利益ある。
利益があることが周知されればパーティを組もうか、組まないでおこうか悩んでいる奴の背中を組む方に押すだろう。
俺達だけが得をする話ではない。卯月ちゃん達にとっても利益のある話だから問題ないだろう。
「解りました。これから一週間、あなた方四人の食費と宿泊費用はこちらで負担します」
卯月ちゃんは予想以上に気前が良かった。
食費と風呂代が無料になればと思ったが、宿泊施設の利用料も無料にしてくれるらしい。
ま、どんな宿泊施設なのかはまだ使った事がないので解らないけれど。
これで一週間は野宿せずにすむ。
「今後の行動についてちょっと相談がある」
地下二階に降りるまで時間も出来たし、当面の生活費も確保できた。
地下一階でスライム狩った分がそのまま手元に残るわけだから、装備も充実するだろう。
「何でしょう?」
「まずパーティの行動様式だけど、相手を威圧しながら行動するアメリカンスタイルでいくか、相手に認識させずに侵入するジャパニーズスタイルでいくか。どっちが良いと思う?」
「メリットとデメリットを教えて下さい」
山田君が訊いてくるが、おそらくは弥生さんと吉田さんの為だろう。
彼自身は理解しているような気がする。
「アメリカンスタイルってのは強者のやり方だな。相手を威圧しながら行動する。自分の位置を隠したりしないからジャパニーズスタイルよりは楽だと思う」
「でも、私達って強くないですし、スライムは威圧されるほど頭がよくないと思います」
弥生さんと吉田さんはアメリカン・スタイルが気に入らないようだ。
「ジャパニーズスタイルは音を立てずに忍び寄って、相手に声を出させずに襲撃する。当然、無音で歩ける必要もあるし、意思疎通もハンドサインだけでする必要がある。つまり、非常に難しい」
正直、素人四人組に軍隊や治安維持組織の特殊部隊並の事をしろというんだから不可能に近い。
しかし、いずれは出来ないと本番の迷宮で生きていけない気もする。
「ようするに、騎兵隊とニンジャですね?」
山田君はやっぱり解っているらしい。
「ニンジャの方が向いてるような気がする」
「私もそう思います」
「じゃ、ニンジャ・スタイルでいいんじゃないですか」
「今のところはいずれはそーやるんだな、程度でいいから」
割とあっさりと決まったが、実際に行動するのはしばらく先だろう。
そんなに簡単にできることでもないしな。




