第七話 パーティを組みました。(改訂版)
如月ちゃんとたわいのない会話をしながらスライムを潰す作業をしていると、背後についてくる暇な奴がいるらしい。
特に悪意とか殺気は感じないので放置しておく。
「四匹やったたし、地上に戻ろうか」
「そうしますか」
「もうちょっとスライムが増えないのか? 一時間でスライム一匹じゃ歩いてるのか、迷宮探索してるのか解らんからな」
「どちらかというと今は歩いて体力付けてもらってるんですけどね」
如月ちゃんが正直に現状を説明してくれる。
必要なだけ歩ける体力を付ける事は冒険者の基礎能力だから損にはならない。
「なら仕方がないか」
地上にもどって、食堂に入る。
まだ人の少ないカウンターに座り、和風朝食セットを注文する。
こーゆー一仕事終えて帰ってきた時に、食事のメニューが朝食セットしかないのは非常に寂しいものがある。早めの改善を期待したい。
標準型メイドさんが食事を持ってくるのを待っていると三つほど席を空けていつもの女の子が座わる。
この子とはよく会うのだけど、まだこちらから距離を詰める時間ではないだろう。
会ってからまだ二日しか経ってないしな。
「こんばんは。調子はいかがですか」
俺は彼女に対して特に悪意も敵意も覚えてないので、穏便に話しかけてみる。
都合のいいことに彼女との間には誰も座っていない。
「今のところ、可もなく不可もなくという感じです」
「僕もそんな感じかな。お互いもうちょっと頑張らないとね」
「はい……」
女の子はうつむいたまま黙り込んでしまった。
タイミングいいのか悪いのか、標準型メイドさん、黒髪お団子ヘアで黒いワンピースに白いエプロンを装備した美少女型端末、が和風朝食セットを持ってくる。
「お待たせしました」
別の標準型メイドさんが女の子の前に朝食セットを置いた。
とりあえず、食べる前に手を合わせていただきますをしてから、夕食の和風朝食セットを食べる。
結構美味しいとは言え、ご飯とお味噌汁と目玉焼きとお漬物では夕食としては量が足りない。
コンビニで保存食を買って寝る前に食べよう。
女の子もはむはむと和風朝食セットを食べているわけで、明日のお昼あたりにもう一回チャレンジしてみようか。
そうこうしているうちに、元気のいい少女とその女の子に引きづられた少年が食堂に入ってくる。
「お隣良いですか?」
女の子に引きずられていた少年が隣に座っていいかと訊いてきた。
女の子と一緒に行動してるなら特に問題はないだろうと思うので承諾する。
「どうぞ」
「すいません」
彼はカウンターに座り、端末を使って注文する。
ちょっと気の弱そうな普通の少年だ。
異世界転移二日目にして彼を引きずってきた少女のお尻にしかれているのだろう。
「ちょっと強引な所はありますけどあの子はいい子ですよ」
「そうですか。末永くお幸せに」
リア充、爆発しろ。
「ありがとうございます。そうなると良いんですけどね」
そう言って少年は苦笑する。
おそらく、彼は日本にいた頃はかなり苦労していたのだろう。
少々不憫に思わないでもないが、他人のプライベートには出来るだけ踏み込まない方が面倒がなくていい。
彼の名前は山田君というらしい。
相方の気の強そうな……元気のいい少女は吉田さんだ。
いろいろ話をしたので、食堂から出ると空の照明が暗くなり始めている。
夜になるにはもうちょっと時間があるだろうが、皆それぞれ野宿の準備を始める。
「今日から野宿は男女別です。男性の方はこちらに集まってください」
冒険者ギルドのメイドさん達が食堂の前で男子を呼び集める。
女子は保安上の問題から明るいコンビニの前で野宿しろと標準型メイドさんから指示が出る。
男子から不満の声が出ないわけではないが、女子は結構ブーイングしてる。
暗くなってから女子に夜這いを仕掛けた勇者達による一騒動あったが、それ以外は平穏無事な夜が続いた。
ネットどころか灯りさえない夜は辛くて長いから、女子のところにナンパに行こうという連中の気持ちは解らないでもない。
実際、山田君は男子の指定された野宿場所にいない。今頃は吉田さんとよろしくしているのだろう。
というわけで、寝る。
「睦月さん、起きて下さい。朝ですよ」
昨日と同じく端末……如月ちゃんに起こされる。
とりあえず、サバイバルシートを畳み、背負い袋にしまって、朝一の作業のために最寄りの迷宮に向かう。他の男女からは奇異な目で見られるがあまり気にしない。
迷宮内部の水場で顔を洗い、四時間ほどかけてスライムを四匹潰して地上に戻る。
食堂で日替わりランチが始まるまで後一時間ほどあるからコンビニで買い物でもしようか。
三日目だし、替えの下着も必要だからな。
コンビニに移動して商品を見てみる。食品、飲料、雑貨、衣服、武器などが整理するつもりがなさげに混在している。
とりあえず替えのパンツ買って、人のいない場所ではき替えよう。
如月ちゃんの説明ではコンビニから持ち出せば自動的に買った事になる。
レジに並んでいる人間は注文した商品の受け取りとか、特別な処理の為らしい。
「お、おはようございます」
彼女は何やら緊張しているらしい。
俺も緊張していないと言えば嘘になるが、まだ三日目、パ-ティが組めないと焦る段階ではないはずだ。最悪、野郎同士で気楽なパーティという手もある。
「おはようございます。ちょっと時間をもらえる?」
「はい。結構です」
「僕とパーティを組んで欲しい」
我ながら単刀直入な言葉だが、こーゆー事は誤解の余地の生じない様に言うべきだと思う。
「よろしくお願いします」
女の子はぺこりと頭を下げて快諾してくれた。
これで少なくともぼっち生活とはおさらばだ。
「こちらこそよろしく」
俺がそう言うと彼女はにっこりと微笑んだ。
社交辞令の類でも嬉しいものは嬉しい。
「僕は睦月です。君の名前は?」
「どうせですから睦月さんがつけて下さい」
理由はいくつか考えられるがこーゆー事はあまり追求しない方がよさそうなので、彼女の希望通り名前を付ける事にした。
新しい人生を新しい名前で始めるのも悪くはないだろう。俺もそうしたしな。
「それじゃ、弥生さんで」
「ついでにこの子の名前もお願いします」
弥生さんが麻布の袋から取り出した弥生さんの端末まで名前をつけて欲しいと言ってきた。
「僕がつけていいの?」
「はい。よろしくお願いします」
弥生さんの端末ちゃんが望んで、持ち主の弥生さんも同意してるなら問題ないか。
「じゃ、卯月ちゃんでいいかな」
「はい。睦月さん、弥生さん、これからよろしくお願いします」
卯月ちゃんがなぜか担当者の弥生さんより先に俺の名前を先に呼んで挨拶するが、男を立ててくれたんだろう、と好意的に解釈する。
卯月ちゃんは常識的な子っぽいしな。