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第十九話 キャンプでカレーを作りました。

 あの後、俺達はなんとか無事に地上に戻り、葵さん達のパーティと一緒に食堂で打ち上げと称する飲み会をやった。

 ついでに攻略の肝になるであろう水の運搬と保存について話あっていたら、加藤さんのパーティと木村さんのパーティが混ざってきた。

 加藤さんとこも木村さんとこも男女二人でウチのパーティと同じ編成だ。

 これで高橋さんのパーティ以外全てのパーティがそろった事になる。

 攻略に関する話は意外にもとんとん拍子に進み、シャワーやトイレ用テントの設置、飲料水や食料の備蓄などが決まった。

 今回で決まった事が確実に実行できるなら地下一階や地下二階で遭難することはなくなるだろう。

 地下二階で遭難しないと言うことは地下三階の攻略に目途が立ったとも言える。

 極端な意見では現在のパーティを男子六人、女子五人を二組のパーティに再編して、極地法で攻略しようという案も出た。

 しかし、攻略パーティが窮地に陥った場合に救出する方法がない。

 遭難したパーティを救助するためには救助するパーティが遭難したパーティが遭難した地点まで往復する水と遭難したパーティが地上に帰るための水が必要になる。

 地下三階で四人が遭難し、別の四人が救助に向かうと水の消費量が四人で一日三十リットルに抑えても二百七十リットルの水が必要になる。

 十分な準備をすれば運ぶ事は不可能な量ではない。

 だが、戦闘しながら台車でこれだけの量の水を運ぶのは難しいだろう。

 結局、この迷宮は強さだけでは攻略出来ない。水を輸送し、管理する知恵と極地法を実行するための統率力とその裏付けになる人徳が必要になる。

 おそらく、深階層になればさらに戦闘能力が必要になるのだろう。

 つまり、知恵と統率力と人徳と力、全てが揃った冒険者でなければ攻略できないやたらハードな迷宮である。

 こんな面倒な迷宮を攻略するより、浅階層で無難に生活のためのポイントを稼いだ方が面倒がない。

 これだけ馬鹿でかい迷宮なんだから獲物に不足はないはずだ。

 臨時攻略会議が純粋な飲み会に移行したあたりで、俺達は撤退した。

 翌朝。


「おはようございまーーす」

「……おはようございます」


 いつものように食堂で山田君と吉田さんに合流する。


「いつもよりツヤテカですね、弥生さん」

「ありがとうございます」


 弥生さんも嬉しそうに答える。

 他のパーティーも興味深そうに俺達を見ている。


「大丈夫、睦月さん」

「大丈夫、多分」


 弥生さんがいつもよりツヤテカな結果、俺がシオシオなわけだがサボっているわけにはいかない。

 今日中に地上の拠点と水の輸送と調理が可能かどうかを確認する必要がある。

 とりあえず俺はご飯がお粥になった和風おかゆ朝食セットを頼む。

 弥生さん達はいつもの和風朝食セットを注文する。


「今日は休んだ方が良くないです?」

「大丈夫。今日は入口にテント張って、水運んで、地下一階の適当な場所でカレー作るぐらいだから」


 長期間、迷宮内部で生活するならば食事は重要な要素だ。

 最初の迷宮のように潜っている時間が数時間なら携帯用非常食とチョコぐらいで十分だが、数日間泊まり込むとなると出来るだけ地上と同じ食事が望ましい。

 迷宮に潜る十分な目的があれば、例えば三泊四日の迷宮探査で数十万儲かります、食事が不味いぐらいは我慢するだろう。

 しかし、俺達が攻略する迷宮では三泊四日潜って儲けは数万円程度でしかない。

 生活に不自由するほど少ないわけでもないし、生命の危険もほぼ無いのだからローリスク・ローリターンは仕方がないと言えば仕方がない。


「カレー……ですか?」

「野外活動で食べる食事と言えばカレーだろう」


 迷宮探査が野外活動と言えるかどうかはアレだが、嫌いな奴が少なくて野菜を沢山取れるカレーは理想的な料理だと思う。

 匂いは歯磨きしておけばなんとかなるだろうし。


「いや、それはその通りですが……」

「カレーが嫌いな奴は少ないし、甘口にしておけば食べられない人もいないだろ」

「えーー、甘口ですか?」


 山田君は甘口は嫌いらしい。

 俺もできれば辛口がいいんだが、辛いカレーが嫌いな人がいるかもしれないしな。


「疲れてる時は甘口の方が美味しいらしいよ」


 腹が減ってればなんでも美味いから心配しなくても大丈夫だろう。


「当然ニンジン抜きですよね?」


 弥生さんが小学生のような事を言うのだが、賛同者は意外に多かった。


「わざわざニンジン入れる必要はないですよね」

「あんまり美味しくないし」


 山田君と吉田さんもニンジン抜きが良いらしい。困ったものである。


「山田君達もニンジンが嫌いなのか?」

「出された料理に入っていれば食べますけど、入れて下さいとお願いするほど好きではないですね」


 俺もニンジンが好きでたまらないとか、ジャガイモみたいにカレーには必須だとは思わないのだがビタミンAが豊富だしな。


「睦月さん達は本当に余裕だなあ……」

「迷宮攻略始まってまだ二日目だし」

「迷宮攻略は遠足じゃないよな」

「迷宮内部での食事は大事だろう。四日間携帯用非常食とか無理だから」


 他のパーティの人もいろいろ言っているが、毀誉褒貶は世の習いなので気にしないでおく。

 朝食を食べ終わた後にコンビニでテント二つと小型テント二つ、台車二つ、転がすタンクが在庫切れだったので、二十リットル入るポリタンクを七つ。ガスコンロに薬缶、折り畳みテーブル、包丁、使い捨ての食器を買っておく。

 残念ながら、高橋さん達が使っている転がせる水タンクは売り切れだそうだ。

 後はカレーの材料として、カレールー五皿分、ジャガイモ五個、玉ねぎ小二個、ニンジン小二個、ソーセージ二百グラム。

 御飯は炊くと失敗しそうなのでアルファ化米のパックを買っておく。

 食堂でポリタンクに水を詰めてもらい、荷物一式を台車に載せてごろごろと運ぶ。

 今回は軽量化の為、プロテクタの類は身に着けてない。

 荷物が増えた分時間がかかったが、無事に迷宮の入り口に着く。

 空いている場所にテントを張り、折り畳みテーブルを広げて、カセットコンロを設置する。


「面倒だからここでカレー作ろうか」

「賛成します」

「賛成です」

「賛成です」


 みんな体を動かしてお腹が減ったらしい。なぜ、君たちは期待に満ちた目で俺を見る?


「カレー作ってくれるんですよね?」

「頑張ってください。期待してます」


 弥生さんと吉田さんはカレーの調理を完全に他人事だと思っているらしい。

 もしかして、これが伝説のメシマズ……。


「任せてといて。美味しいの作るからね」


 とりあえず、俺は黒い疑惑を振り払ってカレーを作ることにする。


「手伝いましょうか?」


 山田君は手伝ってくれるらしい。


「じゃ、ニンジンを切ってくる? 僕はジャガイモ剥くから」


 ピキッと空気が凍った。


「ニンジン……、入れるんですか?」


 吉田さん、そんなこの世の終わりのような事を言わなくてもいいじゃないですか。

 弥生さんは座り込んで泣いてるし。


「ニンジンはビタミンAが豊富だよ」

「ビタミンならサプリがありますよ」


 山田君、君もニンジンを入れるのがイヤなのか……。


「解りました。ニンジン入れませんから、山田君は玉ねぎ切って」


 俺以外はニンジンが嫌いなら仕方ない。サプリも野菜ジュースもあるしな。

 一時間後、いい感じにカレーが出来上がった頃に、高橋さん達が地上に戻ってきた。カレーの匂いに釣られたのだろうか。


「うまそうだな?」

「食べますか?」


 ここはカエーを食べさせて恩を売っておいた方が良いだろう。

 高橋さんは彼らしか知らない情報をたっぷり持っているし。


「悪いな」


 リーダーの高橋さんと参謀役の伊藤さんはカレーだけを食べ、他の四人はカレーと御飯を食べた。

 ついでだから卵スープとコーヒーも作っておく。

 二日間迷宮探査した後のカレーはやはり美味いらしく、お代わりを要求されたがないので断った。


「おかわり……はないのか?」

「ないです」

「無理言って譲ってもらったんだ。しかたがないさ。で、何が聞きたい。さすがに全部は答えらねーぞ」


 高橋さん達はカレーを食べ終えると代価を訊いてきた。

 そのあたりは最強パーティのリーダーを自任しているだけの事はある。


「地下二階の階段までどのくらいかかりますか?」

「一番教えたくない情報だが、迷宮内部でもう一回カレーを食わせてくれるなら教えてもいい」

「カレーの良いんでしたら二回御馳走してもいいですよ」


 地下二階への階段に関する情報と代償としてならカレーライス二回は安いものだと思う。


「できれば御飯はパック物じゃなくて炊いてもらいたいんだがな」


 伊藤さんは御飯にこだわりがあるらしい。


「炊くのはいいんですがアルファ化米より美味しい保証はできませんよ」


 高橋さん達は見たところ迷宮内部の酸素不足に対応した装備はもってない。

 つまり、酸素は十分にあるという事でカセットコンロが使えない事はないだろう。


「慣れればなんとかなるだろ。カレーは美味かったし」


 そう簡単に慣れるとはおもえないんだがな。


「地下二階への階段は外周部の通路に沿ってほぼ四時間歩いた先にある。他のパーティには言うなよ」

「解ってます」

「じゃ、うまいカレーを食わせてくれよ」

「努力しますよ」

「それじゃ、俺達は食堂で昼めし食ってくる」


 よほど腹が減ってるのか、まともな食事に飢えてるのか、高橋さん達は足早に食堂に向かって歩き始める。

 さて、これからどうすべきか……。

読んでくれてありがとうございます。

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