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第十八話 誰とは言いませんが暗黒闘気に目覚めたようです。

 さらに四キロ歩くと予想通り道が右に曲がっている。

 この迷宮はおそらく一辺四キロの正方形なのだろう。

 問題は地下二階への階段がどこにあるかだが、簡単に行ける場所にはないだろうな。


「ここで一休みしてから地上に戻る。明日の分の水がないから絶対にね」


 弥生さんと吉田さんが地上に帰ると聞いて安心したようだ。

 やっぱり、地上に戻るまで数時間かかる迷宮の中は不安なんだろうな。


「誰かに助けてくれと言われた場合、どうするんです?」


 山田君はにっこりと笑いながら答えにくい事を聞いてくる。


「俺達に分けてくれる水があるなら助けてくれとはいわないだろう。水がないなら一緒に死んでくれという事だ。もちろん数百メートル先で戦闘が起きてて、僕らが加勢すれば勝てるのならもちろん加勢する」


 折角持ってきたんだから鍋とカセットコンロをリュックサックから取り出して、お湯を沸かす。


「せっかくだし、スープを作ろうか。非常時にはお湯沸かす余裕もないだろうし」

「匂いで何か呼び寄せませんか?」

「蟻とスライムなら経験値になるし、人間ならスープと情報を交換してもらう。どっちにしろ損はしないって」


 冗談っぽく言っていたら本当に視界の彼方に人間らしい集団が現れた。


「どうします?」

「いきなり攻撃してくることはないと思う。攻撃するつもりなら道の真ん中を堂々と歩かないだろうし」


 接近すると葵さん、桜さん、凛さん、唯さんの女性だけのパーティだと解ったが、いきなり弥生さんと吉田さんが戦闘モードに移行している。

 確かに葵さん達は美少女だけどもうちょっと俺と山田君の理性を信用して欲しい。


「こんにちわ、お嬢さん。ここで一休みしていきませんか?」

「ナンパなら遠慮する……が、そうではないみたいだな」


 敵意むき出しの弥生さんと吉田さんを見てナンパと思う奴はそうはいないだろう。


「コーヒーとチョコレートでもどうぞ」

「ありがたくいただくよ。で、こちらは何をすればいい?」


 女性パーティのリーダーの葵さん、黒髪ショートで巨乳の美少女、がいたずらっぽく笑いながら代償を訊いてくる。

 申し訳ないけれど、弥生さんと吉田さんを挑発するような言い方は真剣に止めて欲しい。


「ここから先で何を見たか教えていただければ」

「欲がないんだな」


 葵さんは意外そうな顔で答える。

 そりゃ俺だって「おっぱいを揉ませて下さい」とお願いできる状況なら多分お願いしてる。


「欲をかきすぎると大概ろくなことにならないんで」

「全くだ」


 大体、ガールフレンドや恋人は一人いれば十分なのに、なんで二人以上欲しがるかね?

 確かにY染色体には己の遺伝子を可能な限り拡散せよ、と書かれてはいる。

 しかし、本能のままに生きる事はもはや人には無理な事だし、人生を充実させようと思えば多すぎる恋は問題を引き起こしこそすれ良いものではないと思う。


「レジャーシート出しますから座って下さい」


 葵さんがリックサックからレジャーシートを取り出して床に広げる。

 手持ちの暖かい飲み物から好きなものを選んでもらって、お茶菓子代わりの袋入りチョコレートで談笑する。


「この先もこれまでと変わらないわ。少なくとも私達が進んだ場所まではね」


 葵さんは俺達に悪意がないのを理解してくれたのだろう。

 さっきまでの男口調を止めて、普通のに話してくれる。


「どのぐらい進みました?」

「敬語でなくていいわよ。往復で三十分ぐらいかな」


 大体一キロぐらいまでは今の状況が続くらしい。

 まあ、状況が変わるとすれば地下二階に降りてからだろうな。


「ところで睦月さん達にお願いがあります」


 葵さんが真面目な顔でお願いしてきた。

 弥生さんの顔が引きつってるし、ちょっと嫌な予感がする。


「なんでしょうか?」

「地上まで送ってくれませんか? 襲ってこない方なら人数が多い方が安心ですから」

「絶対だめです!」


 非常に常識的なお願いだし、断る理由がないな、と思っていたら弥生さんは即答した。


「そーゆー事を言わないの。そのうちに俺達が助けてもらうかもしれないんだし」

「……解りました」


 そうは言うものの弥生さんは絶対に解ってないし、解ろうとすらしていないっぽい。

 これからはパーティ間の協力が大事なのに困ったものだ。


「山田君と吉田さんは日常的にアレを見てて平気なの?」


 葵さん達のパーティの一人、桜さん、セミロングで巨乳、が山田君に非常に失礼な質問をしている。

 ちなみに残りの二人、凛さんはショートで貧乳、唯さんはセミロングで貧乳と非常に解りやすい特徴がある。


「案外慣れるものです」


 山田君、その答えは酷いんじゃないか? 吉田さんもうんうんと頷いてるし。


「ふーーん。ヒトの精神って丈夫なのねえ」


 ヒトをどこぞの邪神の眷属のように言うのは止めて欲しい。


「山田君には吉田さんがいるし」

「勝ち組の余裕」


 凛さんと唯さんは非常に手厳しかった。


「この迷宮の攻略法は考えました?」


 さすが葵さん、パーティーのリーダーだけあって考えるべきことはちゃんと考えてるようです。


「要は水の運搬方法ですよね。ストレージも異次元収納袋もない現状で、どうやって十分な水を確保するか」

「目途はたってるんでしょう?」

「無いわけではないかな」


 転がせる水タンク以外の方法を考えてみようか。

 台車使って二十リットル入りポリタンクを六つ運べば百二十リットル。

 台車二つで二百四十リットル。四人パーティで一日三十リットル使うとして八日分。

 二日移動して消費分が六十リットル。

 到着した場所にに水百二十リットルを置いておく。

 二日かけて地上に戻って残り六十リットルを消費する。

 再度、二百四十リットルの水を持って地下二階に移動すれば六十リットル消費して百八十リットルと備蓄の百二十リットルを合わせて三百リットル。

 十日間の行動できる。計算上は四日下に移動して、六日かけて地上に戻る。

 実際には三日下に移動して五日で地上に戻る。

 余った二日分は予備に持っておく。

 こーゆー算段をしてるといずれは極地法、攻略パーティと荷物運びパーティで攻略する、を使わざるを得ないという結論に達しそうで怖い。

 誰のパーティが攻略パーティになるか、一悶着ありそうだしな。


「睦月さん?」


 考え事に集中し過ぎていたらしい。弥生さんの声で現実に引き戻される。


「あ、悪い。ちょっと考え事をしてた」

「攻略法ですか?」

「うん」

「何とかなりそうですか?」


 弥生さんだけではなく、葵さん達も何か期待してるっぽい。

 だが、現実は非情であるとしか言いようがない。


「無理っぽいな。デスゲームっぽく攻略しないと命がないというんなら極地法使ってでも攻略するけど、そこまで追い詰められてるわけではないしね」


 運営者の目的は迷宮のクリアではなく、各パーティがそれなりに成長する事だろう。ならば極地法で一パーティだけが突出して戦力を持つ事は望まないはずだ。


「極地法使うと誰が攻略するかで絶対にもめますよね」


 俺達のパーティがそこそこ強かったら問題なかったんだろうが、現実には下から数えた方が早い。


「交代で攻略するのも難しいだろうし、事実上、高橋さんのパーティ一択なんだけど、それはそれで嫌だしな」


 正直、男子だけのパーティの戦力が突出するのは絶対に避けたい。

 馬鹿な事をした奴には相応のペナルティがあってもその場の抑止力にはならないからな。


「そんなにはっきりって良いんですか?」


 山田君が苦笑しながら突っ込んでくる。


「高橋さんが悪いというわけじゃないけど、一つのパーティの戦力がが突出するのは良くないよ」

「睦月さん達のパーティがもっと強かったらねえ……。下手したら私達より弱くない?」


 桜さん、それは酷いですよ。

 幾らなんでも葵さん達より弱い事はないと思うけど、はっきりと否定しづらいのが辛い。


「いくらなんでもそれはないです!」


 弥生さんが反論してくれるのだが、できれば黙っていて欲しかった。


「でも事実上四対三でしょ?」


 やばい。桜さんが突いてはいけないところをつつき始めた。

 弥生さんの能力値を弄るのは絶対に止めさせないと後のフォローが面倒すぎる。


「うっ……」

「大丈夫よ、弥生さん。睦月さんが一人ナンパしたらこっちが四だし。問題ないわ」


 吉田さん、頼むからそんな危険な事を言わないでくれ。


「よーーしーーだーーさーーんーーー」


 弥生さんが地獄の幽鬼のような真っ黒い負のオーラを纏ってふらりと立ち上がる。

 弥生さんは本当に人間なのだろうか?


「弥生さんはもっと睦月さんを信用するべきです!」


 吉田さんも弥生さんの真っ黒な負のオーラに命の危険を感じたのだろう。

 しかし、弥生さんの暗黒闘気は収まらない。

 吉田さんを見殺しに出来ない以上、何とかする必要がある。


「睦月さん!」

「解ってるって」


 弥生さんは何を言っても聞きそうにないし、ここは実力行使するしかないようだ。

 読んでくれてありがとうございます。

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