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第十六話 根拠のない希望は諸悪の根源です。

 翌朝。

 目を覚ますと吉田さんが朝食の準備をしている。

 手際よく水筒の水をアルミ鍋とガスコンロで沸かし、インスタント・コーヒーを入れる。

 朝食のメインは俺と山田君は乾パンで、弥生さんと吉田さんはシリアルバーだ。


「おはよ、睦月さん」

「おはよう、吉田さん。いつもありがとう」

「それは言わない約束でしょ」


 山田君が苦笑して見ているし、弥生さんはくーくーと狸寝入りしている。


「おはよーございます」


 不寝番を手伝ってくれた女の子達が目を覚ました。


「おはよう。コーヒーとポタージュとどっちがいい?」

「いいんですか?」

「不寝番手伝ってくれたしね」


 やっぱり、決まった宿泊場所に複数のパーティで泊まる意味は思ったより大きいかった。

 迷宮の中で泊まり込むなら五人目と六人目のメンバーが必要だな。


「コーヒーをお願いします」

「二人ともコーヒー?」

「はい」

「弥生さんもさっさと起きて。今日はお客さんがいるんだから」

「……はい」


 弥生さんがのっそりと動き始める。


「周囲見てくる」

「いってらしゃい」


 山田君は万が一に備えてお留守番だ。

 隣の部屋と向かいの部屋に人がいない事を確認してから元の部屋に戻る。


「両隣の部屋が開いてるから」

「じゃ、お先に」


 吉田さんが走り出した。山田君も律儀に付き合うらしい。


「ちょっと失礼します」


 女の子達も走っていく。


「くーくー」


 弥生さんがまた狸寝入りを始めているので、おはようのキスをしてから吉田さんの淹れてくれたコーヒーを渡す。


「おはようございます、ご主人様」

「我慢してたんだろう、行っておいで」

「……はい」


 弥生さんも部屋から飛び出していった。

 その間にレジャーシートを畳んだり、撤収の準備を始める。

 リーダーっぽい事をやらしてもらってるから雑用もしないといけない。

 あいつは楽をしてると思われると言うこと聞いてもらえなくなるからな。

 そのうちに不寝番を手伝ってもらった女の子達が帰ってくる。彼女たちもレジャーシートや寝袋を纏め、撤収作業を終えて地上に戻る。


「やっぱり迷宮内部で野宿するなら六人いるな」

「二組で不寝番だと前後になりますからキツイですね」


 山田君も同意見なのはありがたいんだが、弥生さんと吉田さんは反対っぽい。


「女の二人組は却下ね」

「おちおち寝てられませんから」


 もう少し俺と山田君を信用してくれてもいいような気がするんだが、気のせいだろうか?


「男二人も却下だな」

「ホモだったらおちおち寝てられませんし」


 管理人が特殊すぎる性癖の奴はいないと言っていた以上、特殊な性癖の奴はいるだろう。

 快楽殺人する馬鹿はいないだろうが、同性愛者ぐらいはいる可能性が高い。


「ホモの人だってむやみに喰っちまう人ばっかりじゃないでしょ?」


 だと良いんですが、世の中にはいろんな人がいますからね。


「ノンケでも構わずに喰っちまう人だったらどうするんですか?」

「それはそれで美味しいと思いませんか?」


 吉田さんが夢見る乙女な笑顔でろくでもない事を言う。

 どうやら本気らしい。


「うほっ……って、思いません!」


 ……やっぱり、腐ってるのか、この二人。


「そろそろ撤収するよ」


 話が変な方向に走り出す前に終わらせよう。


「はい。ちょっと待って下さい」


 弥生さん達が慌てて寝袋などを畳み始める。


「行きがけの駄賃で二階に降りてみますか?」


 地下二階を軽く回るだけならそう時間もかからないし、問題ないか。


「俺はいいと思うけど、吉田さんと弥生さんはどう思う?」

「軽く流すだけなら問題ないと思います」

「私も」


 弥生さんと吉田さんも問題ないので地下二階に降りる事になった。

 地下二階を一回りし、扉を蹴り開けて、中の巨大蟻とスライムを叩く簡単な作業である。

 弥生さんも慣れてきたのか、小柄な働き蟻なら危なげなく処理できるようになってきた。

 そのうちに蟻も何とかなるだろう。

 地下二階を一回りしたので地上に戻って、食堂で和風朝食セットを食べる。

 食堂では俺達以外にも女子だけのパーティと男子だけのパーティが朝食を食べている。

 隣のテーブルの男子だけのパーティの一人がぼやいている。


「どこかに美少女落ちてないかなあ……」

「どこかにいい男……って、そんな我儘はいいませんから、普通の男の人は落ちてないかな」


 野郎どもは馬鹿丸出しだが、女性はかなり切実そうである。


「睦月さんはどう思います?」

「美少女なら探せば落ちてるんじゃないか?」


 美少女は外見さえよければ少々おバカでもどんくさくても美少女だ。

 しかし、普通の男はブサイクチビデブバカコミュ障甲斐性なしのどれかに引っかかればダメだから条件が厳しすぎる。


「普通の男は落ちてますか?」

「無理だな。諦めた方がいい」


 俺は正直に答えたのだが、なぜか対面の女性のパーティと弥生さん達の機嫌があからさまに悪くなる。


「美少女と普通の男の人でどこが違うんですか?」


 弥生さん、なんでそんなに必死なんですか?

 ああ、過去にいろいろあったんですね。

 解ります。


「美少女は容姿が良ければ大概の事が許される。少々頭が悪くてもおバカ可愛いですむし、どんくさくてもドジっ子可愛いですむ」


 山田君が声を押し殺して笑い始める。


「普通の男の場合、容姿、身長、体重、知力、体力、性格、経済力の全部が普通である必要がある。上下二十五パーセントを切った残り五十パーセントが普通だとすると、二の七乗は……百二十八。だから、女性が求める普通の男は百人に一人いるかいないかだ」


 女性陣の間でどよーんとした暗雲が漂い始める。


「吉田さんも早めに妥協して良かったね」


 山田君は自分でそう言ってるけど結構優良物件だと思うんだけどな。


「だから、顔が妥協できるならそこで妥協した方が良いと思うよ。やっぱり、一人は寂しいからね」


 連絡がつくような場所に家族や親戚がいる状況じゃないからな。

 早めに仲間とか彼氏彼女とか、新しい人間関係を作っておかないと困った事になるのは目に見えてる。

 女の子のグループは腐敗が進んだゾンビのような雰囲気で出て行った。


「もう少し希望のある言い方はできなかったんですか?」


 弥生さんは少々ならず不機嫌である。


「世の中に根拠のない希望ほど性質の悪い物はないよ」


 なぜ希望がパンドラの箱の一番底に封印されていたのかといえば、希望こそが一番危険で性質の悪いモノだったからだ。


「それはその通りですけど……」

「普通の男がいると思ってるから現実と妥協できないわけで、普通の男がいないと解れば現実と妥協するんじゃないかな?」


 俺の予想では来週ぐらいにはゾンビになってる女の子達からカップルが何組かできているはずだ。

 美少女落ちてないかな、と言っていた連中だって全員フツメンでチビデブはいない。

 性格に難があると言えば難があるが、そこは妥協すべきところだろう。


「でも、本当に美少女って落ちてるんですかね?」

「どんな綺麗な花の種でも何の世話もせずに綺麗な花が咲くわけがないよ」


 千里の馬は常にあれども伯楽は常にはあらずか。

 いい女を育てられるだけの暇と金をもった男が一般的な社会で絶滅したのかもしれないけどな。

お疲れさまでした。

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