第十三話 何とか言いくるめられました。
日間宇宙〔SF〕ランキングで三位になりました。
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俺達は食事を終えた後、何食わぬ顔で迷宮に移動した。
とりあえず、地下一階をぐるぐると回り、見つけたスライムを弥生さんに潰してもらう。
一時間ほど地下一回を歩いた後、地下二階への階段の傍で座り込んで休憩する。
「睦月さん、ちょっとお話があります」
山田君にひっぱられていった先で弥生さんの事について質問される。
「弥生さん、大丈夫ですよね」
「逆に聴くけど、弥生さんが一番回復職に向いてるだろ?」
俺と山田君が壁役で後衛の弥生さんと吉田さんを守る必要がある。
攻撃魔法を使うなら先に行動する吉田さんの方が向いてるし、治癒魔法を使うなら弥生さんの身体能力の低さはメリットになる。
四人の中で最後に動くのがほぼ確定してるからだ。
「それはその通りですが回復魔法が本当に取れますかね?」
「取れるさ」
管理者である人口知性体が馬鹿ではない。馬鹿ではないのだから馬鹿な事はしないはずだ。
「何でそんなに自信があるんです」
山田君は胡散臭そうに僕を見る。
弥生さんと吉田さんが俺たちの方を見ていたのだが、俺と視線が合うと慌てて目をそらす。
「簡単な話だよ。さっさとパーティを組めと言っておいて、組んだパーティが機能不全に陥るような技能の割り振りはしないはずだ」
半年と言う訓練期間は安定した人間関係を構築するには十分ではない。
故に管理者たちパーティを早めに組ませた。
ならば、このパーティが持続するように努力するはずだ。
「なるほど」
山田君も納得してくれたらしい。
ランダムに技能を割り振るなら、技能割り振ってからパーティを組ませた方が合理的だからな。
「それに僕らは異世界転移で別の世界に連れていかれたわけじゃない。地球からオールトの雲の入り口当たりまで宇宙船で連れていかれる途中だそうだ。異世界転移よりはるかにコストがかかる以上、簡単にくたばるような状態で放り出す事はないさ」
異世界転移なら代替する人間はいくらでもいるけど、今回の巨大迷宮探査には代替する人間がいない。
「オールトの雲まで移動の方が異世界転移よりコストがかかる理由はなんです?」
「まず移動する質量だ。異世界転移なら移動するべき物資は人間と衣服と背負い袋一個分が人数分ぐらいだけど、この船の大きさはキロ単位で表現されるらしい。次に時間だな。異世界転移はほぼ数分以内に終わる。オールトの雲までの移動は半年以上かかるらしい。動く質量と時間が桁違いなのに異世界転移の方がハイコストなのは考えにくいと思う」
山田君は僕の説明を聞き終わり、おかしな点がないか確認しているらしい。
「個人的な意見としてはちょっと楽観的すぎるんじゃないかと思います。ですが、さっさとパーティを組めと言っておいて、組んだパーティが機能不全に陥るような技能の割り振りはしないはずだという意見には同意します」
弥生さんと吉田さんがこっちに歩いてきた。
「で、睦月さんが自信たっぷりなのはなんで?」
「さっさとパーティを組めと言っておいて、組んだパーティが機能不全に陥るような技能の割り振りはしないと僕も思う」
山田君が弥生さんと吉田さんに説明してくれる。俺が言うと説得力が半減するからな。
「有無をいわさずに人を誘拐するような連中の理性に期待してるわけ?」
そーゆー考え方もあるかな。
「じゃ、家の近所に1足す1を無限大にする機械があれば弥生さんと吉田さんはどうする?」
「1足す1を無限大にするってどーゆー意味ですか?」
弥生さんが真面目な顔で質問してくる。
「簡単に言えば、十円玉二枚入れたら十円玉が無限に出てくる機械かな」
「十円玉でも一億枚あれば十億円でしょ。お金持ちね」
吉田さんは素直に答える。
「でも、無限に出てきたら十円玉で溺れますよ」
「う……」
弥生さんに指摘され、吉田さんは十円玉に埋もれた自分を想像しているらしい。
「そのうちに世界が十円玉で埋もれて滅ぶだろうね」
山田君もフォローしてくれた。これで何とかなるだろう。
「俺達はその世界を滅ぼすかもしれない機械を誰かが悪用されない様に確保しにいくわけだ。如月ちゃんの上司は俺達が慌てふためいてる場面を見て退屈しのぎしようとしてる悪党じゃない。そう悪いことはしないと思うよ」
半分は願望だがな。
「如月ちゃん見て本当にそう思うの?」
「如月ちゃんは過保護な母親であって既知外じゃない。彼女は俺の安全第一で行動してくれてるよ。かなりエキセントリックな性格ではあるけどね」
「お姑様ってリアルでもあんな感じなんですかね?」
弥生さんがぼそりと呟く。弥生さん、アラサーか、アラフォーなのにお姑さんがいなかったのか……。いくら俺が空気読めないからと言ってそこに突っ込むほどの勇気がない。
「ネットでいろいろまとめサイト見たけど、姑としては如月ちゃんはまだまともな方だから」
あの手のまとめサイト見てみると、世の中には本当にいろいろな既知外がいると感心させられるよ。
「そうですよね。ちょっと息子想いが過ぎるだけですよね」
「如月ちゃんはそうかもしれませんが、卯月ちゃんはヤンデレらしいですよ」
山田君、君はなぜ笑顔でそーゆーデンジャラスな事を言う?
ちなみに如月ちゃん達がしゃべってないのは自重してくれているんだろう。
決して、艦内ネットワークに実況中継してるのではないと信じたい。
信じてるからな、如月ちゃん!
「それよりそろそろ降りようか」
「そうですね」
あんまり休憩にならなかったが、地下二階に降りる。複数のパーティが協力してくれたので、地下二階に落とし穴はない事が解ったらしい。今必死で造ってる最中かもしれないけどな。
巨大蟻とスライムをゲシゲシ殴ってると慣れてくるのか、戦闘での大体の感覚が解ってくる。
蟻さんは俺と山田君でも一撃で確実に殺すのは難しい。
半分ぐらいは後ろから弥生さんか吉田さんの二撃目が必要な事が多い。
これなら治癒魔法取れなくても弥生さんの残留に問題ないだろう。
「あんまりかっこよくないけど、鍬って便利よね」
「柄が長いから睦月さん達の背後から攻撃できますし」
弥生さんと吉田さんもとりあえず鍬の便利さに気がついてくれたらしい。
今は他のパーティも一揆かよ、と言っている連中がほとんどだが、そのうちに刃物の維持を諦めてツルハシや三本鍬を使っているパーティの方が多くなるだろう。
砥石はコンビニで手に入るが、砥石を使って研いでくれる職人さんまでは売ってない。
メンテがまともにできないから刃物はどんどん寿命が短くなって、頻繁な買い替えが必要になる。
そのうちに安くはない刃物を頻繁に買い替える事を諦めて、ツルハシや鍬などの打撃武器を使うようになるだろう。比較的安い枝打ち用の鉈でも弥生さん達が使っている安い鍬の倍以上する。
そこそこ本格的な剣鉈になれば十倍以上するから使い捨てにはできるわけがない。俺も剣鉈は見栄といざというときのために一本欲しいけどね。
地下二階も比較的順調に回っていると、当然欲が出てくるわけで。
「地下三階に降りてみませんか?」
「それってマンガでよくある脇役パーティが全滅するパターンよね」
山田君が地下三階に降りようと言い出したが、すかさず吉田さんが止めてくれた。
「さっき掲示板読んでみたんですが、地下三階がアンデッド・コープス、いわゆるゾンビですね。地下二階で問題ないなら地下三階も問題ないようですよ」
山田君がやたらとさわやかな笑顔で提案してくる。
「弥生さんでも問題ないのか?」
「僕らが頑張れば死ぬことはないんじゃないですか?」
何かが怪しい。いつもの山田君はこんなお気楽な事を言う奴じゃない。
吉田さんも視線を合わせようとしないし、弥生さんも下を向いて鬱モードに入り始めてる。
「今すぐ地下三階に降りると決まったわけじゃないし」
とりあえず、吉田さんがフォローしてくれるんだが、山田君の視線がおかしい。
「でも、いずれ降りるんですよね」
「弥生さん、一つ覚えておいて欲しい事がある」
「なんでしょうか?」
「いい男はふらつかない」
そして、僕達はもう一度キスをする。
「睦月さん、世界の半分を敵に回したね」
「いいじゃない。もう半分は味方になるから。それよりも、山田君。私に何か言う事はないの?」
「とりあえず、あの二人が正気に戻るまで周囲の警戒しておこうか」
「山田の馬鹿!」
読んでくれてありがとうございます。
恥は捨てました・・・。