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第十二話 後の事は後で考えます。

 睦月君の一人称は通常は「俺」ですが、素の状態では「僕」になります。

 とりあえず誤解を解いてから再び蟻さんを探して、地下二階をぐるぐる回ってみる。

 スライムはやっぱり地下二階にもいるわけで、弥生さんと吉田さん用の安全な攻撃対象として便利に使わせてもらっている。

 スライムへの攻撃結果を見るに、吉田さんはフォームの改善で何とかなりそうだ。

 問題は弥生さんで、本格的な筋トレが必要らしい。

 如月ちゃんはあんな使い物にならない女はさっさと見放しましょう、とか無茶な事を言ってくるのだが、そんな血も涙もない事ができるわけがない。

 風の噂では如月ちゃん達は裏ではかなりエグい事をやっているらしいからな。

 地下二階をぐるぐる回っているうちにランチタイムになったので地上に戻ることした。


「今日はハンバーグだったっけ? 野菜炒めだったっけ?」

「野菜炒めだとおもいます」


 残念な事に今のところ日替わり定食のメインディッシュはこの二種類しかない。

 数量限定ではないので、ダブルと称して二回喰う奴もいる。

 夕食が和風朝食セットしか選択肢がないので仕方がないと言えば仕方がない。誰だってすきっ腹抱えたまま寝るのは嫌だからな。

 俺達は四人パーティを編成したこともあり、テーブル一つを占領して昼食を取っている。


「睦月さんと弥生さんの能力値教えてくれませんか?」


 山田さんは誕生日を訊くように気軽に訊いてきた。


「如月ちゃん、俺の能力値を表示して」

「わっかりました。表示します」


 名前  睦月

 種族  人

 性別  男性

 年齢  15

 体力 ( 5)

 知覚力( 5)

 魔力 ( 4)


 正直、魔力以外はそう高いことも低いこともない戦士系な能力値だ。


「じゃ、僕らも表示しますね」


 如月ちゃんの画面に山田君と吉田さんの能力値が表示される。


 名前  山田

 種族  人

 性別  男性

 年齢  15

 体力 ( 5)

 知覚力( 5)

 魔力 ( 4)


 名前  吉田

 種族  人

 性別  女性

 年齢  15

 体力 ( 4)

 知覚力( 4)

 魔力 ( 5)


 山田君の能力は俺の上位互換だ。吉田さんの能力値はちょっと残念だ。

 体力と魔力が入れ替わっていたら男子並な能力値なのにな。


「あの……弥生さんの能力値は?」

「見せないとダメでしょうか?」


 山田君が恐る恐る尋ねるが、弥生さんは自分の能力値を見せたくないらしい。


「私達が見せたんだから見せるのが当たり前だと思うけど」


 吉田さんもそんなにきつく言わなくてもいいじゃないですか。


「卯月ちゃん、見せてあげて」

「解りました」


 名前  弥生

 種族  人

 性別  女性

 年齢  15

 体力 ( 3)

 知覚力( 3)

 魔力 ( 4)


 弥生さんの能力値はかなり酷いな。


「正直に言うけど、弥生さんは止めさせられる前に止めた方がいいんじゃない?」

「如月ちゃんもそう思います」

「僕もどちらかというと吉田さんの意見に……、睦月さんの気持ちも解りますけど……」


 山田君がすまなさそうに口を開く。


「ごめんなさい。食べ終わるまでは待ってください」


 弥生さんがか細い声で言う。


「そりゃ僕らも鬼じゃない。弥生さんが憎くて言ってるわけでもないから」


 山田君がさっさとフォローしろと目で言ってくる。


「山田君、迷宮探索に絶対必要なクラスが何だか解るかい?」

「今はそーゆー事を言ってる場合じゃないでしょう」


 山田君はどうやら本気で怒っているらしい。俺はいい仲間を得たようだ。


「迷宮探索には回復職が絶対に必要だ」

「それがどうしたんです。弥生さんが回復職になるとでも言うんですか」

「僕はそう思ってるよ」

「本気で言ってるんですか?」


 山田君と吉田さんは俺とは違う意見らしい。山田君が疑惑のまなざしで尋ねてくる。


「能力値とスキルのコストの合計は全員ほぼ同じはずだ。回復魔法は他の技能より高コストだろうから、回復魔法を取れる人間は能力値が他人より低い人間に限られる。簡単に言えば、俺達はアヒルの子で弥生さんは白鳥のヒナだと思う」


 俺が管理者なら能力値とスキルのコストが全員ほぼ同じになるように配分するからな。

 山田君と吉田さんが顔を見合わせてから、弥生さんに頭を下げる。


「ごめんなさい。思慮が足りませんでした」

「ごめん。僕も思慮が足りなかった。許してほしい」


 山田君と吉田さんの方はこれで問題なさそうだ。


「私が足を引っ張ってるのは事実ですから。回復職になれたら頑張りますからそれまで我慢して下さい」


 相変わらずか細い声で弥生さんが答える。

 面倒な事に悲劇のヒロインモードから抜けてないらしい。


「弥生さんが回復職になってからお世話になる事の方が多いだろうから気にしなくていいから。……痛いよ、吉田さん」

「他の女に鼻の下伸ばす山田が悪いに決まってるでしょ」


 吉田さんはご機嫌斜めらしい。

 これでめでたし、めでたしなら何の問題もないが、面倒なのはこれからだ。


「先に言っておくけれど、僕が君を選んだのは最初に声をかけた縁と、君が僕を選んでくれたからだ。君が回復職になるだろうと思ったのは能力値を見せてもらってからだし」


 残念なことに弥生さんは信じてくれなかった。


「本当ですか?」

「僕は予知能力者じゃない」

「どんくさい女だと思ったんでしょう」

「それは否定しない。でも……」


 吉田さんが立ち上がり弥生さんの傍まで歩くと、弥生さんの頬を手加減なしに平手打ちする。


「あんた馬鹿? ここで悲劇のヒロイン気取って睦月さん逃がしたら一生後悔するわよ。解ってんの?」


 吉田さんの平手打ちで弥生さんの思考も悲劇のヒロインモードから通常モードに切り替わったらしい。


「これで私と山田の借りはチャラだからね」


 そう言って吉田さんは席に戻る。吉田さん、ナイスフォローです。超感謝しますですよ。


「面倒な女でごめんなさい」

「気にしなくていい。そーゆーとこも好きだ。愛してる」


 弥生さんが目を瞑ってキスを待つ。俺も目を瞑り唇を重ねる。


「愛の力って偉大よね……」

「ここが食堂のど真ん中だという事を忘れさせるぐらい偉大だよね」


 山田君の現実的なな感想は吉田さんのお気に召さなかったらしい。

 山田君は吉田さんの強烈な肘鉄を脇腹に食らって己の迂闊さを反省している。


「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとうございます」

「おめでとう」


 食堂に居合わせた人達も拍手して俺達を祝福してくれる。

 やはり、人の善意はいいものだと思う。

 後の事は後になってから考えよう。

 読んでくれてありがとうございます。

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