第一話 現実世界でもなければ地球でもないようです。(改訂版)
異世界転移かと思いましたが現実世界のようです。
現実世界のようですが地球ではないようです。
太陽系最外縁部、オールトの雲の中に存在する超巨大迷宮に放り込まれた探索者のドタバタ大活劇!!
目覚めるとそこは真っ白な空間だった。
窓も扉もない真っ白空間に高校生ぐらいの年頃の少年少女が十人、いや二十人以上いる。
全員が同じ真っ白い半袖シャツに真っ白なハーフパンツを着て、靴下をはかずに白いサンダルを履いている。学生さんの合宿か何かのイベントだろうか?
いや、学生さんの合宿なら俺がここにいる理由がない。
こんな若者向けの向けイベントに参加した覚えもないし、有無を言わさず叩き込まれる覚えもない。
なぜ俺がここにいるのか、その理由を考えてると体型の変化に気がついた。原因は不明だが体型が高校生の頃の体型に戻っている。
もしかすると現在の状況は噂に聞く異世界召喚だろうか。
そうなると俺がそうなのだから、この場にいる学生さん達も中身はアラサーあるいはアラフォーなおじさんとおばさんなのだろう、多分。
俺が召喚者ならば社会経験も分別も十分に無い十代のお子様を召喚して、世界の危機を救ってもらおうとは絶対に思わない。十分な分別もないのに魔王を倒す力のあるお子様とか、下手な魔王以上に危険な存在としか言いようがないからな。
お約束ではそろそろ神様なり女神様が出てくる場面なのだろう。
天井あたりにあるらしいスピーカーから流暢な日本語を喋る女性の声で状況の説明が始まった。
「こんにちは、皆さん。これから貴方達にオールトの雲に存在する、太古の超知性体が造った一辺が一万キロ、一千階層からなる立方体型迷宮を攻略していただきます。報酬は望むだけの寿命と迷宮内部で発見した物品で、惑星破壊用の対消滅爆弾などの危険物指定されてない物品です。諸般の事情で自動的な死に戻りはありませんので、十分注意して探索して下さい。我々迷宮探索者組合はあなた方の活躍を心から期待しています」
一辺の長さが一万キロの立方体なダンジョンかよ。
地球よりちょっと小さいぐらいだけどダンジョンというより、植民地な人工天体か世代交代型恒星間宇宙船だよな。
「日本に帰れるんですか?」
召喚されたメンバーの一人が迷宮管理者組合の代表に質問する。
俺もぜひとも知りたいが、話の規模からして地球に帰れるかどうかだけでは問題は解決しないよなあ。
「迷宮内部に地球周辺への転移可能な物質転送機がある事は確認されています」
地球周辺に転送可能と「日本に帰れる」との間にはかなり巨大なギャップがあると思うんだが、本当に大丈夫なのだろうか?
「時間の移動は可能ですか?」
やっぱり、時間移動がないと日本に帰える意味がないよな。
リアル浦島太郎とか洒落にならない。
「不可能ではないようです。過去に時間移動した探索者のパーティも確認されています。詳細は確認されていませんが、彼らの希望した通りの時間移動であった可能性は低いと思われます」
転移先の超巨大迷宮にはタイムマシンは存在するが、制御する方法は解らないということだろうか?
「なんで私たちがその迷宮を探索しなければいけないんですか?」
「近年発見された文書によるとこの迷宮内部には宇宙生成機が存在します。我々は宇宙生成機が悪用されないように管理する必要があります。少なくとも広義の太陽系の内部でビッグバンを起こさせるわけにはいきません」
「それならあなた方が探索すればいいでしょう!」
「私達が迷宮内部を探索できるなら貴方達を召喚していません」
言われてみればその通りではあるけど、迷惑な話だよなあ……。
「超光速航行可能な宇宙戦艦とかあるんですか?」
俺も聞いてみる。
やっぱり超光速宇宙戦闘艦は男のロマンだろう。
「その質問に対する返答は禁忌事項に相当します。ちなみに超光速機関の開発は超光速機関が生成するエネルギーを投射する最終兵器、いわゆる波○砲の開発とほぼ同義です。複数の銀河帝国を称する星間国家によって超光速機関の開発は規制されています」
マジで? 夢のない話だなあ……。
超光速機関が生成するエネルギーは質量がある物体を超光速で移動させるだけのエネルギー、簡単に言ってしまえば無限のエネルギーを生成するわけだから、規制さえるのは当たり前といえば当たり前の話なんだが。
あれ? 超光速機関と宇宙生成機って同義じゃないのか?
いや、まあ、その辺は置いといて、亜光速な宇宙戦闘艦なら存在するんだろう。
それはそれで渋い。
バーサード・ラムジェットとかは星間物質の密度が低すぎて実用化できないそうだし、どうやって恒星間空間を移動してるんだろう?
推進剤を船内に抱え込む形式でないのは間違いないだろうけど。
いやいや、現実逃避している場合ではない。
本来ならば勝手にしろという案件だが、望むだけの寿命という報酬は非常に魅力的だ。
単なる不老不死であれば死ぬためには面倒なアレコレが必要だろうが、望むだけの寿命ならば死ぬのにそれほど面倒な手間もないだろう。
「最初に貴方達の能力値を確認して下さい」
女性の声で音声による案内が終わると、床の一部に俺の能力値と注意事項が表示される。
ちなみに俺のステータスはというとそう悪くはないが良いわけでもない。
近くにいる人達の能力値も似たようなものだ。
種 族 転移者(日本人)
性 別 男性
年 齢 十五歳(修正後)
体 力( 5)中の中。平均的。戦闘はお勧めしない。
知覚力( 5)中の中。平均的。戦闘はお勧めしない。
魔 力( 4)中の下。平均未満。
注:転移者はカルマ値(非公開)が一定以下の人間が選ばれています。
不特定多数からランダムに選ばれている訳ではありません。
精神が不安定な方、協調性が低すぎる方は選ばれていません。
特定の薬物、嗜好品に依存する方は選ばれていません。
特殊すぎる性的嗜好の方は選ばれていません。
全員が我が身が大事で、他者に配慮する普通の人間です。
他者に対し悪事を働かない事を保証するわけではありません。
気を取りなして周囲の人間を観察する。
確かに頭の悪そうな奴とか、エゴが肥大してそうなのが顔に出てる奴はいない。
全員が黒髪で標準体型、主人公のクラスメイトにいそうなモブっぽい人々だ。
「速やかにパーティを編成して下さい。ソロでの活動は推奨しません」
……いきなり来るべきモノが来てしまった。
とりあえず近所にいる女子にお願いしてみよう。
初対面の相手とお話しするのは苦手だが、現在の状況では是非もない。
「僕とパーティを組んでいただけませんか?」
にっこりと笑いながら、目の前の女の子をパーティに誘ってみる。
こんなことになるなら地球にいる頃にもっと真面目にナンパの練習をしておくんだった。
「パーティの運営方針を教えて下さい」
黒髪セミロングで身長百六十センチ前後、眼鏡の似合いそうな真面目系地味子ちゃんは少々意識高い系の質問を返してきた。
ちょっと嫌な予感がする。
「もちろん生存第一です」
もちろん命あっての物種である。死んだら花見もできないしな。
「男女平等についてどう思われますか?」
どうやら、この子は本来の意味でのブス、食ったら死ぬぞ系の女性っぽい。
無意識が関わるな、と警鐘を鳴らすのだが、戦闘を継続するにせよ、撤退するにせよ、それなりの形式を整えておく必要がある。
「突き詰めれば女性も平等に戦って死ねということですよね」
俺としては正直に言っただけだが、お話している地味子ちゃんはあまりお気に召さなかったらしい。
しかし、権利マシマシで義務控えめという肉多めでご飯少なめの牛丼のような男女平等は維持が難しいだろう。
外見通りの十五、六の少女ならばともかく、中の人はおそらく三十を越えているのだから夢を見るのは止めて欲しい。
「ありがとうございます。即答はできませんので、もうちょっと待ってくださいね」
「解りました」
地味子ちゃんに軽く頭を下げてから退散する。
こーゆー異世界に転移させられると人間の権利というモノは天が与えたものではなく、人が戦って勝ち取ったものだとつくづく思う。
「やっぱり異世界行ったら性奴隷のハーレムだよね」
「ですよねー」
周囲で為されているお気楽な会話から判断すると、男性陣には最初からこの場にいる女性が眼中にない輩も少なくないらしい。
俺だって全くそっち方面に期待していないわけじゃない。
女性の数が男性より少なくなるわけだ。
だがしかし、俺たちが転移するのはファンタジーな異世界ではない。
オールトの雲の内部に存在する惑星サイズの超巨大迷宮だけどな。
例え遺伝子操作で作られた謎生物とナノマシンによる魔法なファンタジーでもファンタジーに変わりは無いだろう、多分。
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