美女
次の日には、昨日のようなエレナははおらず、冷たい眼差しにもエレナはめげなかった。
「フィルディア様、あの、」
「今は忙しい。」
「フィルディア様。」
「なんだ。」
「フィルディア様!」
「ーーなんだ、用件があるなら言え。」
「あの、お茶でもーー」
「忙しい。」
「フィルディア様!」
「ーー今度はなんだ、」
「...今日はフィルディア様と共寝してもよろしいでしょうか?」
「ーーならぬ。帰りは遅くなる。」
だんだんと会話が続くようになってきた。
全て断られていることより、フィルディアから返事があることが大切だった。
エレナは、その度胸の奥がほっこりとするのを感じていた。
「あら、よかったじゃなーい。」
エレナの隣には美女が座っていた。
「適当に返事しないでくださいよ。」
「だって信じられないんだもの。優しい宰相?なにそれ?って感じ。」
宰相は、氷のように冷たく厳しい、と噂されている。
「す、少しだけですけど...」
美人はけげんな顔をし、梨を口に運んだ。
「ふーん?で、なにが問題なの?」
梨が次々となくなる。
「フィルディア様なんだかよそよそしくて...」
「ふぅーん?」
机の上の梨がシャクシャク食べられていく。
エレナはもう一つ梨を手に取ると、しゅるしゅると剥いていった。
「あれ以来まともにお話もできてないんですよ?」
切られたそばから次々と減っていく。
「この梨美味しいわねえ。」
「ちょっと!リラさん、真剣に聞いてくださいよ。」
エレナは美女から梨を遠ざけた。
「分かったわよ。分かったから梨をよこしなさい。」
リラと呼ばれた美女は、エレナから強引に梨を奪い返した。
「それで?」
リラはシャクシャクと新しい梨を食べ始めた。
「そ、それに聞いてしまったんです。王族の姫とフィルディア様がお付き合いなされてるって....」
リラはブッ、と梨を吐き出した。
「げほっ、けほ、はあ?」
美女の見た目と相反する行動だった。
エレナはそれを見なかったことにして、ハンカチを渡した。
「どこで聞いたの?そんなバカな噂。」
「バカなって...沢山の人が見てるんですって。王宮から出てきた美しい姫とフィルディア様が出かけるところ。仲良さげに会話してたところとか。肩に手を添えていた、とか。」
エレナは剥いた梨をフォークでグサッと刺した。
「へ、へえそう...」
リラは目線をキョロリと泳がせた。