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届かぬ心

「先ほどの布はお前が刺繍したと聞いた。」


エレナは思わぬ形でフィルディアの手に渡ったことに恥ずかしさを覚えた。

本当はフィルディアに贈り物として渡す勇気などなかったのだ。


「あれは、その...」

エレナは言いよどんだ。


「洗濯して返す。誰か男に渡すために縫ったのだろう。」


確かに刺繍は男性用だった。

女性用は専ら花の刺繍だからだ。

エレナは胸の奥が暗くなった。


仮にも夫がいるエレナが、他の男のために刺繍をすると思われているのだ。


エレナは悲しくなった。

「あれば、フィルディア様に、と...」

フィルディアはわずかに目を見開いた。

エレナは、それ以上の言葉を紡げなかった。


「あれは、処分してください。」

それだけを言い、部屋から出た。

これ以上いて、みっともない姿をさらしたくない、と思った。


フィルディアの顔は見ることができなかった。


一方フィルディアは困惑していた。

エレナの目尻に光る涙に気づいていたのだ。


フィルディアは腰を上げた。

エレナの私室に向かったのだ。

フィルディアとエレナは寝室も別だった。


フィルディアはエレナの部屋の前で立ち止まった。

部屋からはすすり泣く声が聞こえる。

フィルディアのそばを通る使用人は、エレナを心配に思っていた。


無口で冷血なフィルディアが、急に女性を連れてきたときは、使用人一同、誘拐を疑った。

それほど、フィルディアが屋敷に女性を連れてくることは珍しいことだったのだ。

しかも、そのフィルディアが、

「こいつをめとる。」

とだけ言って、仕事に戻ったときは、使用人一同飛び上がって驚いた。


「エレナ様、大丈夫かしら?」

「お屋敷から出すな、なんて、」

「エレナ様ともう少しお話したいわ。」

「ダメよ!旦那様に睨まれちゃうんだから」


使用人は、フィルディアの元に嫁いできてくれたエレナに、好意を持っていたが、フィルディアの命令により屋敷から出してはあげられなかったし、使用人と奥方様が個人的に仲良くなることは許されなかった。


エレナの家では、使用人と共に働くという異例なことが行われていたので、友達か家族のように接していたが、一般的な貴族の屋敷では、使用人は使用人、主人は主人であった。


「まだ若いのに、気の毒よね〜」

これが、使用人の総意だった。

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