謎の美女 距離
婚儀は簡易的かつ事務的に行われた。
もちろん、結婚パーティーなどは一切なかった。
宰相と言葉を交わすことさえなく、エレナが勇気を出してもあいづちの様な返事しか返ってこなかった。
エレナは、事務的な話をするフィルディアからだんだんと距離をとっていった。
離れた場所からフィルディアを見ても、フィルディアはエレナが離れたことに気づかず、感情が全く見えなかった。
婚儀の内容も知らされず、心細くなるエレナに一人の女性が近づいてきた。
赤いドレスを身にまとい、金色の髪をしたすごく美人な女性だった。
「ふぅーん。あなたが、ね。」
近づいてきた美女は、エレナのことをじろじろと見た。
「あなた、あのフィルディアをどうやって落としたの?」
優雅な動きでエレナの隣に座る。
「いえ、その、たぶん政略結婚のようなもので....」
「え?」
美女はきょとん、とした。
そして、大笑いし出した。
「あはははは!はははっ!おっかしい!」
しとやかな美女が爆笑する姿に、エレナも目を丸くした。
「ふーん、そう。そうね。私、リラ。仲良くしましょ?」
差し出された白魚のような手を、エレナは思わず握り返してしまった。
美女はそれだけで、部屋から出て行った。
「婚儀には誰も呼ばない」とフィルディアが言っていたことを思い出し、エレナは後で「そういえば、だれだったのだろう?」と疑問に思うことになる。
得体の知れない人物が侵入できるような場所ではないので、「フィルディア様と関係のある女性」とエレナの中で位置づけられた。
フィルディアは婚儀の後さえ、仕事で遅くに帰ってきた。
覚悟を決めてフィルディアに会いに行ったエレナは、
「もう遅いから寝ろ。」
と言われ、エレナとは別の部屋に入るフィルディアに驚愕する。
書面上は夫婦になっても、よそよそしさは変わらず、他人のような関係だった。
これからの新婚生活について悩んでいたエレナだったが、それからもフィルディアは全くといって良いほど屋敷に帰らず、「本当に結婚したのか?」と首を傾げてしまうほどだった。
エレナは、一度フィルディアの部屋に居座ったことがあった。
仕事で疲れたフィルディアは、エレナのことを全く相手にしなかったが、勝手にベッドに潜り込み、寄り添って寝た。
フィルディアは、エレナを振り払いはしなかった。
朝起きたエレナは自分の部屋に戻っていた。「ご主人様がエレナ様を運んでいらっしゃいましたよ。」とメイドに教えられ、喜んでいいか悩んだものだ。