誘拐
「ん....」
エレナは頭痛がして目が覚めた。
「あ、目が覚めたー?」
指で髪をくるくる触る女。
(ここどこ...)
エレナは辺りを見回した。
「怖くて声もでないの?」
女はウフフと楽しそうに微笑む。
(この人は....)
屋敷に侵入した一人である女のことを思い出した。
「本当いいザマ。すぐにフィルディア様は気づくわ。私と結婚するべきだったって。」
「どうして、こんなこと....」
「どうして?あなたのことが嫌いだからよ。あなたがいなくなれば、きっとフィルディア様も目を覚ますわ!」
女はエレナを凄まじい形相で睨みつけた。
「...あら?もしかして、もう飽きられたの?」
ウフフと女が笑う。
「仕方ないわよね。きっとすぐに離縁されるわ。」
「そんなこと、ないです。フィルディア様はそんな無責任なことしません!」
「じゃあ、私がそうなるようにしてあげるわよ!」
女が合図を送ると、数人の男が影から出てきた。
「...いいわよ、好きに遊んで。」
エレナの体がこわばった。
「や、やめーーー」
エレナの悲鳴のような声を無視して、男たちはエレナを押し倒した。
「さ、触らないで!」
エレナは必死に抵抗したが、男たちは手を離そうとはしなかった。
ビリビリビリ、と音を立てて服が破られる。
(...ごめんなさい、フィルディア様....)
「...なんだ?噛み跡付いてんじゃねーか。」
エレナについた噛み跡を男が撫でた。
「どんな男とヤってんだよ。」
ゲラゲラと品なく笑う。
エレナの目に涙が溜まる。
「こんなボロボロにされるなんてよ、その男からも愛されてねーんだな。」
男はニヤニヤと締まりのない顔を、エレナに近づけた。
男に覆いかぶさられたエレナは、目を閉じた。
「ふぃ、フィルディア様、助けて....」
その時、エレナの上から男が一人吹き飛んだ。
「な、なに!?」
女も男たちも慌てふためく。
ぶわり、という風圧と共に、エレナの上に影ができた。
(フィルディア様...)
飛んできたフィルディアは、エレナの前で姿を戻した。
フィルディアの瞳孔は開いていた。
「エレナーー」
「...み、見ないで、....」
エレナは、男たちに触られたことよりも、フィルディアにこんな姿を見られたことが嫌だった。
フィルディアは嫌がるエレナを抱き上げると、後から到着した部下に任せて、その廃屋か
ら出て行った。




