籠の中の鳥、望まぬ結婚
しかし、エレナの平穏な毎日は脆くも崩れ去った。
「お前には嫁に行ってもらう。」
幼い頃に母を亡くし、仕事一筋だった父も亡くした。
葬儀には大勢の親族が現れ、エレナはホッとしていた。
今まで一人の親族とも会ったことがなかったエレナは、親族が一人もいないのではないかと心配していたのだ。
エレナは父や母の話をしようと、親族に近寄った。
しかし、エレナに向けられたのは冷たい視線ばかりだった。
誰一人としてエレナに声をかける親族はいなかった。
「お前も良い年だ。嫁に行って我が家の役に立て。」
葬儀で初めて会った叔父がそう言った。
エレナは喪に服すことも許されず、すぐに嫁にいかされることとなった。
何が何だか分からぬままに、エレナが相続するはずだった財産も屋敷も、使用人たちも全て奪われた。
そして、叔父の屋敷に連れてこられた。
物置小屋のような、ホコリの溜まった部屋に押し込められ、ご飯も満足に与えられなかった。
せめてここから逃げたそうとしたが、屋敷に結界をはられ、逃げ出すこともできなかった。
エレナは屋敷で自由が許されず、一人外を眺めて毎日を過ごした。
そして、ついに婚姻を結ぶ日となった。
久々に会った叔父は、エレナを一瞥すると、ドレスに着替えるように命令した。
エレナは、母の形見であるドレスを着せられ、見知らぬ男と二人きりとなった。
男は下品な目でエレナを舐めるように見回した。
男は城で働く貴族であった。
エレナの腕には魔力封じの輪がつけられ、抵抗することを諦めるしかなかった。
それがなければ、男一人退けることくらいはできた。
普段なら魔力がなくても抵抗していたであろうエレナだったが、何日間も食事をろくに食べておらず、憔悴していた。
なされるがままのエレナに、男の行動はますます熱を帯びた。
男は何度もエレナに話しかけたが、決して必要以上のことは答えなかった。
丸々とした男の手がエレナに触れようとしたとき、部屋の外で激しい物音がした。
部屋の外で見張りをしている叔父の雇った護衛と、誰かが言い争いをしている。
しかし、エレナの元まではなんと言っているか聞こえてこなかった。
その中で一際大きく、グオゥ、と獣の鳴き声が聞こえた気がした。
ふと、隣に座る男を見ると、その顔面は真っ青になっていた。
エレナは首を傾げた。
エレナは必死に、扉の外の音に耳を傾けた。
しかし、結婚式のため呼ばれていたであろう親族と護衛たちの声などが重なり合い、なにが起こっているかわからない。
エレナは不安になった。
また、叔父がなにかしでかしたのではないか、と。