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噛み癖

外に静けさが戻り、使用人たちも寝静まるころ。

フィルディアは部屋の外に人の気配を感じた。

「ーーだれだ。」


フィルディアの眠りが浅いことを知る使用人は、夜中部屋に近づくことはない。

特に、今日のフィルディアは目が冴え、眠れていなかった。


ぎぃ、と扉がきしみ、開く。


「ーーエレナ、か?」

知った気配だった。


「..................」


「ーーどうかしたのか?」

暗闇で相手の姿が見えないおかげで、フィルディアも素直に話かける。


「....ね、眠れなくて.......」

エレナは、最近ずっとドラゴンと共に寝ていたせいで、一人では眠れなくなっていた。


フィルディアは起き上がった。


「ーー来い。」

言い方はぶっきらぼうでも、声色は優しかった。

エレナは手探りでフィルディアの方へと近づいた。

手を引かれ、フィルディアの隣に腰掛ける。


静けさを破ったのは、エレナだった。

「ほ、本当にフィルディア様があのドラゴンなんですかーー?」


エレナは、ドラゴンがフィルディアに戻る瞬間を見ていなかった。


「ああ。ーーー私が、ドラゴンだと嫌か?」

「そ、そんなわけありません!ーーーむしろ、」


私のことが、とは言えなかった。

フィルディアが自分に関心がないことは分かっていた。

それでもやはり悲しかったのである。



フィルディアは、エレナに近づいた。

「お前には婚約者がいたな。」


エレナには寝耳に水だった。

「いえ、そんな話は....」

身に覚えがなかった。


「父親から聞いたことがないか。」


確かに、エレナに結婚の話が出るたび、

「お前の相手はちゃんと考えてある。」

と言っていた。


「いえ、ですが、一度も...」

エレナは婚約者らしき人物に会った覚えはなかった。

婚約者とパーティーに出た覚えもない。

もし、その婚約者が叔父のような人物だったら。

エレナは想像して顔をしかめた。


「いや、会ったことがある。」

「どうしてフィルディア様が知っておられるのですか?」

エレナは不思議に思った。


「その相手が私だからだ。」


エレナは驚いた。


「フィルディア様が!?」

「そうだ、いつもお前の父に結婚を迫られていた。」

「で、ですが、フィルディア様とお会いしたことは....」

エレナの記憶にフィルディアはいなかった。


「いや、会っているのだ。お前は小さかったから覚えてないのかもしれん。」

エレナは昔のフィルディアを覚えていないことをもったいなく感じた。

それと同時に、フィルディアが結婚を決めた理由が分かった。

エレナは納得したようにうなずいた。


フィルディアは眉をしかめた。

「それと、お前はなにか勘違いしているようだが、お前を妻にした理由は一つしかない。」

「父に頼まれたから、ですよね...?」

ギロッと睨まれ、肩がビクついた。

「違う。ーお前に会ったときから決めていた。」

フィルディアはそっぽを向いた。


それは、まるでーーー


「ーーまるで、一目惚れのような言い方ですね?」

エレナはおかしくなり、ふふっと笑った。

「なにがおかしい。」

怒られると思ったエレナだったが、フィルディアは腕を組んだだけだった。


「ーー否定なさらないのですか?」

「なぜ否定する必要がある。」

フィルディアはまたそっぽを向いた。

その頬が僅かに染まっていることに気がついき、エレナは思わずフィルディアに飛びついた。

「な、なにを!?」

フィルディアは驚き、エレナを受け止めた。


エレナは硬いフィルディアの腕に抱きとめられていた。

フィルディアもおそるおそる手を回した。


「そろそろ、部屋に戻れ。」

いくらか話した後、フィルディアはエレナを促した。

エレナは動かなかった。

フィルディアは、明日になればまた仕事へいってしまう。

今日くらいは、と思ってしまった。


フィルディアはため息をついた。


エレナは、ああ、またうんざりとさせてしまったーーーと、肩を揺らした。


「ーーこれなら、いいだろう、」


フワリ、と風が吹いた。

エレナが隣をみると、フィルディアはいなかった。


そこには、ドラゴンがいた。


エレナは、ドラゴンのフィルディアと眠りについた。


次の日、増えた噛み跡に気づき、首を傾げることになるが。

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