こころのありか
「り、リラが国王!?」
「ああ、ガルシオン・ガブリラ・ダンディ・シルバ国王だ。」
エレナはリラが王族であったことより、男だったことに驚いていた。
「で、でも国王、結婚してましたよね...?」
国王は隣国の姫と結婚し、息子を一人もうけている。
「国王としての義務はあいつの意思とは関係のないところにある。」
エレナは、心が女でありながら、男として女と結婚し子供を作った国王について考えた。
エレナには到底想像できない、国王の覚悟の現れだった。
「国王に嫉妬していた。」
エレナの涙はもう止まっていた。
「リラに...?」
「国王にハンカチを上げただろう。刺繍入りの。」
エレナは、梨を吹き出したリラにハンカチを渡したことを思い出した。
「でも、リラは女性で、」
「それは格好だけだ。中身は男だろう。」
「心が女性ですよ?」
フィルディアはエレナの言葉に不思議そうな顔をした。
「あいつは女好きだぞ?」
「え...?」
「あの格好はただの趣味だ。あいつは普通に女が好きで、よく別の女によそ見しては王妃に怒られている。」
エレナはなんだか体の力が抜けた。
「エレナ?」
「よかったです。フィルディア様に嫌われていたのかとーー」
「そんなことは..!!」
「そういえば、あれはなんの話だったんだ?」
「どれですか?」
エレナはきょとん、としてフィルディアを膝の上から見上げた。
「ーー私のことが信じられないと言っていただろう。」
「あ!」
エレナは姫とフィルディアの噂話を思い出した。
エレナの表情は一気に暗くなった。
「ーーその姫というのは、どんな格好か知っているか?」
「たしか、綺麗な金髪でいつも赤いドレスを着たーーあれ?」
エレナは「どこかで見たような、」と不思議に思った。
「国王だ。」
「あ、リラ!」
フィルディアとの噂にあった姫とエレナが見た女性は、リラのこと、すなわち国王のことだった。
「国王のアノ趣味を知っているのは私だけだ。だから必然的に私が護衛をせざるを得ない。」
国王は、リラの姿で出歩くことを好んでいた。フィルディアとエレナの婚儀にも、その姿を使いお忍びで訪れていたのだ。
「じゃあ、あのとき見たのも、」「見た?」
しまった、とエレナは口元を抑えた。
「どこでだ?屋敷から出たのか?」
「実は、」
エレナは王宮まで見に行ったことを正直に話した。
フィルディアは頭を押さえた。
「す、すみません...」
「いや、いい。」
「あの、どうして出かけてはいけないんですか?」
エレナはずっと、親戚との共犯が疑われているからだと思っていた。
「お前ーーいや、エレナは会ったことがないだろうが、私の親戚はああやって私の力を手に入れようと動く者が多い。」
エレナが人質になる可能性があったのだ。
「わ、私のことを守って...?」
エレナの瞳に涙がたまる。
フィルディアはそれを直視できなかった。
「も、もう寝ろ!」
スタスタと部屋から出ていってしまった。




