乱入
「どうして、もっと早くに教えてくださらなかったのですか?そうすればーー」
ドラゴンがフィルディアであることに気づいていればーー
エレナはドラゴンと一緒にお風呂に入ったことや、平然と着替えをしていたことも思いだし愕然とした。
恥ずかしくてフィルディアの方を向けなかった。
「あのときは魔力切れを起こしていた。不覚にも魔力封じをつけられていた。」
「魔力切れ!?」
魔力がゼロになると人は死に至る。
あのときのフィルディアは、魔力を消費しないよう小さい姿をとっていた。
「魔力封じはどうしたんですか?」
エレナが親戚に付けられていた魔力封じは王宮で取ってもらえたが、フィルディアほどの巨大な魔力の持ち主を封じる物であれば、簡単には外れない。
「魔力は随分前から復活している。魔力封じもとっくに外せていただろう。ーーしかし、そうすれば私は人の姿に戻っていた。」
「私にドラゴンであることを知られたくなかったのですか?」
さっきまで魔力封じの輪が付いており、すぐに人に戻らなかったことを思い出し、エレナは胸が苦しくなっていた。
「それは...」
フィルディアは口をつぐんだ。
「もう少し、エレナと共にいたかった。
そう正直に言えばいーんじゃないの?噛み跡までつけちゃって。」
「貴様っ!」
突然部屋にリラが現れた。
エレナはリラが現れたことよりも、リラの発言に気を取られていた。
エレナはフィルディアを見つめた。
リラを睨みつけていたフィルディアは、エレナの視線に耐え切れず、エレナの方を向いた。
フィルディアは、エレナの期待の満ちた眼差しを受けた。
フィルディアはそっぽを向いた。
そしてリラを見ると、鬼のように恐い顔で威嚇した。
「貴様はいつの間にこいつと....」
「こいつ?こいつってだあれ?」
フィルディアはイライラを隠せず、エレナを指差した。
「あなた、自分の奥さんの名前も言えないの?」
やれやれ、と首を振るリラにフィルディアの血圧が上がった。
「だから、」
エレナがちらりと視界に入った。
その瞳は悲しみに満ちていた。
フィルディアは驚いた。
「な、どうした、」
エレナはそのまま頭を下げた。
「あんた、本当に分かんないの?
あんた、この娘の名前、一回でも呼んであげた!?」
リラは綺麗な髪を振り乱して言った。
「そんなんじゃ離婚されちゃうわよ!!」
それを捨てゼリフにして、リラはドスドスと足音をたてていなくなった。
「すまない。」
フィルディアはエレナに近づいた。
エレナはまだ顔を上げない。
「エレナ」
パッ、と顔が上がった。
エレナの頬には涙が伝っていた。
「すまない、エレナ。」
フィルディアはもう一度謝った。
「いいんです、もう。」
エレナは、そっと抱きついた。
フィルディアもエレナの体を抱きしめた。




