泥棒?
「はぁ」
学校からの帰り道、朝のことを思い出し、溜め息をつく。
変な少女に出会ったおかげで間に合わなかったな。
まあ、間に合わなかったと言っても三分ぐらいだったから遅刻は見逃してはくれたが、あくまで特別に遅刻を無くしてもらった訳で、少し気にしてしまうのだ。
それにしても、自動販売機を使いこなせない人がいるとは思わなかったな。
よくよく考えたら一万円札しか持ってないのも不自然だし、どっかのお嬢様かな?
でも、それにしてはそういう家系の口調という感じもなかったし、子どもに近い感じもしたんだよな。
考えてもしょうがないけどやっぱり気になる......
「おかえりなさーい」
「あ、どうも」
考え事をしてるうちにいつの間にかアパートのすぐそこに着いていたらしく、そのアパートの隣に住むおばちゃんにいつもどおり声を掛けられ、僕もそれにいつもどおり応える。
それにしても、考え事をしてたらもう家の前か。
相当気にしてるたのがよく分かるな。
自分の家の玄関を開け......え?
「鍵、閉めなかったっけ?」
いや、閉めたはずだ。
記憶を辿ったけどいつもどおり上下にある鍵を両方掛けたはずだ。
泥棒が入るのは考えられない。
鍵が開いてるならピッキングされた傷が残るはずだ。
それに、中に入ってもパッと見だが誰かが入った形跡はない。
恐怖心に似たものを感じながらもリビングの方へ近づき、部屋全体を見渡す。
「......やっぱり誰もいないよな」
ホッとするのと同時に気味悪さを感じながら、荷物を椅子の上に置き、机の上にポケットの中からカイロを取り出しコートを脱ぐ。
そして、コートを荷物を置いた椅子に掛ける。
いつもなら自分の部屋のハンガーに掛けに行くのだが、不思議とそれすらもやりたくなくなってしまい、腰を掛け、そのまま机に突っ伏す形で眠ってしまった。
とにかく、なにもしたくなかったから。
『ゴンッ!!』
なんだ今の音?僕の部屋から?
大きな音が聞こえ、目が覚める。
まさか、本当に泥棒が入っていたのか?
僕が帰ってきたからとっさに僕の部屋に隠れた?
寝起きというのもあり、考えがまとまらないがとりあえず自分の部屋へむかい、ドアの前で中の音を聞いてみる。
......何も聞こえない?
中に入らないとダメか。
「入るか」
一人呟いて決意を固め、静かにドアを開け、それと同時にゆっくりと慎重に自分の部屋に入る......が。
「は?」
思わず声が漏れ、変に力の入っていた肩を下ろす。
僕が目にしたものはベッドの上にある布団。
しかし、どう見てもそれは掛け布団の真ん中が膨らみ、ゴソゴソと動いている。
まさか、隠れたつもりかよ......
「出てきなよ」
静かに、布団の中に呼びかける。
しかし、布団の中から出てくるような動きはなく、「スースー」と息が聞こえるだけだ。
......布団をめくるしかないか。
さてと、布団を掴むと同時に飛びかかって来ないかと緊張感が僕を支配しかける。
でも、このまま放置するわけにもいかないし、やるしかない。
よし。せーの!
布団を握る手に力を入れて、一気に布団を自分の方へ持っていく。
それと同時に飛びかかられないように後ろに下がり、布団を床に落とし身を守る体制になる。
「......はぁ?」
身を守る体制を戻し、緊張の糸が切れ、呆れたような声を思わず出してしまう。
僕が布団をめくって見たものは丸くなって寝ている少女だったのだから。