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過去回想―それぞれの苦悩

「こういうところって、元々没になったものを救済するのが筋なんじゃ…?」と今頃気付いたので、改稿後に没になった回想シーンを再利用。

本編読んでない人向けに簡単な事情説明も追加。



それは、まだあの頃のリムの旅が始まっていなかった、村での記憶。





勇者に選ばれたレグナムを王都に送り届ける日を数日後に控え、私は準備に奔走していた。

私が旅に出るわけじゃない。旅立つのは私の幼馴染で、勇者となってしまったレグナム本人だけ。

そのはずなんだけど…当の本人は「え?何か必要?」とか言っていた。その発想はなかった。

まあ私と、もう一人の幼馴染であるアリアも王都までは一緒に行くのでまとめて準備をしている。

レグナムは使い物にならないし、アリアも「任せる」とか言って手伝ってくれない。もう意味がわからない。

なんか私だけ馬鹿みたいに慌ててるような…ってダメダメ、ここで私まで手を抜いたら後できっと困る。

変なこと考えてないで真面目に準備しよう。そう思って再び手を動かそうとした時、人の気配を感じた。


「忙しそうだな。リム」

「…レグナム」


振り返ってみると、そこにはレグナムの姿があった。

誰のせいでこんなことしてるんだと言ってやりたくなったけど、さすがに止めておいた。

レグナムだって好きで勇者に選ばれたわけじゃないから。


「ごめんな。俺のことなのに」

「もう……謝らないでよ。私が心配だから勝手にしてるだけ」


ほら、そうやってすぐに自分のせいにする。そんなだから余計に私は構ってしまう。

できることはやっておきたい。考えられることは考えておきたい。そうすれば私が協力している証になるような気がするから。

私にできるのはその程度だと知っているから。




「あ、そういえば…アリア見なかった?」

「アリアか?えっと…」


話題を変えようと思って、もう一人の幼なじみについて尋ねた。レグナムはしばらく考えた後で思い出したようだ。


「確か、教会に行くのを見たな」

「教会…」






幼い頃に両親を亡くした私は教会で育てられた。

そこにいたのは優しい神官様と、孤児だったアリア。

二人は私を迎えてくれた。

しばらくすると、私と同じく両親を亡くしたというレグナムもやってきて、私たちは家族になった。

あの時から、私たちはずっと一緒だった。

成人してからは、レグナムも私も親が遺してくれた家で生活するようになり、アリアも私の家で一緒に暮らしている。

暮らす家は変わって、みんな少し離れてしまったけど…私たちが家族として暮らしてきた時間は消えたりしない。

だから私たちはこれまでも、そしてこれからも、家族なんだ、と。

ずっとずっと、家族と一緒に過ごしていけると思っていた。



――レグナムが勇者に選ばれるまでは。




「まあ、神官様にちょっかいでもかけにいったんだろ。あいつよくふらふらしてるし」


レグナムの声で我に返る。いけない、また変に考え込んでしまった。

幸いレグナムは気付かなかったみたいだったけど、今後気をつけなきゃ。


「ん…そうだね。アリアは教会を出てからもよく行ってるみたいだし、今日もそんな感じなのかな」


私は――記憶にはないとはいえ――幼い頃に住んでいた自分の家に住んでいる。

だけどアリアは、アリアにとっての自分の家は、神官様のいるあの教会なんだと思う。

私に気を遣っているのか、何も言わずに教会に行っているみたいだし、時々ぼんやりしながら教会の方角を見てることがある。

それはきっと私が立ち入っていいことじゃないだろうから、なるべく気付かないふりをしてるけど…やっぱり、私の家じゃ駄目なのかな…。

ううん、アリアが答えを出すまで待とう。私が悩んだって何も始まらないし。

だから今はそっと……しておきたかったんだけど、荷造りについて確認したいことがあったのを思い出した。

うーん…まずは行って様子を見よう。アリアの邪魔になりそうなら帰ってからでもいいし。




「それじゃ私、教会に行ってくる。レグナムはどうする?」

「俺は……いいよ。まだ家でやることあるし」

「そっか」


王都からすぐに帰ってくる私たちと違って、レグナムは当分帰ってくることはない。

レグナムはレグナムで、思うところもあるんだろう。

……あまり深くは考えないようにする。

このまま考えると、私は別の答えにたどり着いてしまいそうだから。







教会に足を踏み入れる。神殿に比べれば小さいこの教会でも、礼拝堂は村人全員が余裕で入れる広さだ。その大きな礼拝堂をぐるりと見渡しても誰もいなかった。

ここにいないということは、神官様の部屋かな?

勝手知ったる教会の中をつかつか進んでいくと、扉が少し開いた神官様の自室から話し声が聞こえてきた。やっぱり神官様もアリアもここみたいだ。



「だからさぁ、どうにかしてってお願いしてるんじゃない」


室内からアリアの声が聞こえた。言葉は「お願い」なのにどう聞いても「命令」にしか聞こえないのは私の耳がどうかしているのか。


「そう、言われてもね。私はしがない一神官でしかないんだよ」

「そっちがしがない神官ならこっちはただの村娘よ!だからお願いしてるのに」

「アリア、お願いはもっと下手からするものだよ」


神官様が苦笑いをしながらアリアの相手をしている。私の耳がおかしいんじゃなかったようで安心した。

盗み聞きをする趣味もないのでそろそろ部屋に入ろうと思った。



「このままじゃ、リムまでいなくなっちゃう」



その言葉が聞こえるまでは。

これは、誰の声?

理解できるまでに時間を要するほど、私はこんなにも弱々しいアリアの声を聞いたことがなかった。

何かが移動するような音が聞こえ、私は我に返った。気付かれたかと思ったけど、違ったようだ。神官様が移動した音だったみたいだ。


「アリア」

「やだ……レグナムもリムもいなくなったら、あたし、一人になっちゃう。何もできないあたしだけ、残されちゃう」


アリアはどうして、私までいなくなると思っているんだろう?

旅に出るのは勇者であるレグナムであって、私は必要ないのに。

私の「どうして」は解消されなかった。

だけど、別の疑問は氷解した。



「どうして……あたしだけ魔法が使えないんだろう」



アリアの言葉を聞いて、少しだけ納得した。

それ以上聞いていられなくて、部屋からそっと離れて礼拝堂まで戻ってきた。





「あ、リム。アリアには、……どうした?」


礼拝堂にはレグナムの姿があった。レグナムは私を見てすぐにいつもと様子が違うことに気付いたようだった。私が落ち込んだりしているとレグナムは昔からすぐに気付くんだ。


「……魔法なんか覚えなければよかった」


さっきのことを思い出して、ぽつりと、本音が漏れた。

魔法を使えて良かったと思うことはあっても、使えなければ良かったと思ったのは初めてだった。


「どうして?」


レグナムは優しく問いかけてくる。いつもそう。私の愚痴を優しく聞いてくれるんだ。


「アリアを……傷つけたから」


だから私は話してしまう。言葉が止まらない。

後悔が、悔しさが、口をついて出ていく。


「アリアは、私まで旅に出ると思ってる」

「え?」

「どうしてそういう勘違いをしているのかはわからないけど……自分は魔法を使えないから一緒に行けないと思ってるみたい」

「ああ……」


私の説明でレグナムも納得した。

私は……全属性中途半端だけど一応魔法が使えて、レグナムは剣だけでなく魔法も使える。けれど、私たちの中で唯一、アリアだけが魔法を使うことができなかった。


「……こんな中途半端な魔法しか使えないなら、いっそ使えなければ良かったのに。そうすれば、アリアを傷つけることもなかったのに」

「才能だからな。そればかりはどうしようもない」


私の言葉にレグナムは苦笑する。確かにその通りだ。私だって決まってしまってることに文句を言うのは筋違いだと思う。


「そうだね……うん、わかってる。きっとね、知らなければ良かったんだ。家に魔法書なんてなければ、こんなこと言わなくて済んだのにね」


幼い頃に亡くなった両親のことを覚えてはいない。けれど、魔法に関わっていたであろうことは家の蔵書たちが教えてくれた。

好奇心で満ち溢れた子どもの頃、適当に本を選んでは魔法を試して覚えていった。神官様もまさか私たちが魔法書を読めるとは思っていなかったんだろう。神官様が気付いたのはおよそすべての魔法書を試し終えた後だった。

私の家の魔法書さえなければ、こんな田舎の村で魔法に触れる機会だって一生なかったに違いない。偶然あったそんな本のせいで幼なじみを、親友を傷つけてしまったかと思うと悔しいし、申し訳ない。


「リムの家に魔法書がなかったとしても、遅かれ早かれ魔法に出会ってたと俺は思うよ」

「?どうして?」

「俺たちの中で一番好奇心が強かったのはアリアだ。アリアが本気で魔法書を欲しがったら、いずれ手に入れる方法を思いついただろうさ」

「それは……」


そう考えると、確かに否定できない。アリアには交渉の才能がある。村にやって来た商人相手に対等に渡り合えるほどで、この村では欠かせない存在になっている。

そんな彼女が本気を出せば魔法書のひとつやふたつ……それこそ王都に行けばいくらだって手に入れる機会はあるだろう。




「ちょっと二人とも。なーに辛気くさい顔してるのよ」


振り返るとアリアがいた。

いつものアリアだ。さっきのは幻だったのかもと思えてくるほどいつも通りだった。

慌てた私はとっさに言葉が浮かばなかったけど、レグナムが誤魔化してくれた。


「何って……アリアが準備しないからだろう。リムが困ってる」

「レグナムに言われる筋合いないわよ。でも悪かったわね、リム。こっちは計画失敗したからあたしも大人しく準備手伝うわ」

「計画…?失敗…?」


何のことだろうと首をかしげていると、アリアはちょっと困ったように視線をそらしながら言った。


「あー…神官様を脅して治癒魔法教わろうと思ったんだけど、駄目だってさ。あの人かったいわよねー」


アリアが視線をそらすのは恥ずかしがっている時のしぐさだ。本当は私たちに隠しておきたかったのかもしれない。


「治癒魔法か。考えたなアリア」

「まぁ、ね。でも失敗したから無意味だけど」


レグナムはすぐに納得できたみたいだけど、私にはよくわからない。


「どうしてアリアが治癒魔法を学ばなきゃいけないの?神官様になりたいの?」

「馬鹿言わないでよ。神官になりたくないから治癒魔法だけ教えてくれるよう頼んだのよ。……他の魔法は駄目でも、治癒魔法が使えたらあたしだって役に立つでしょ」


後半はアリアにしては小さい声だったけれど、ちゃんと聞き取ることができた。アリアも自分にできることを探していたみたいだ。それがまさか治癒魔法だとは思わなかったけど。

ただ、どうしても消えない疑問がある。


「ねぇ、アリア。私は残るのに、アリアもレグナムと一緒に行くの?」

「は?」


そこで「意味がわからない」なんて顔をされても困る。レグナムも苦笑してる場合じゃない。


「だってあんた、どう考えても……」

「?」

「いや、いい。今にわかるだろうしね」


アリアはそう言って教えてくれなかった。今にわかるだろうという言葉を受けて私も言及しなかったけど、その言葉の意味は旅を終えてもわかることはなかった。




本編読んでない人向けに追加するようになったいきさつ。


ブックマーク人数:6人(現在8人)

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フラグ管理 4users(現在もry


いろんな可能性を考えて、途中で放棄した。

うん、わからないほうがいいよね!

※投稿直後に5usersに増えてるのを確認した。誰だ空気読んだの…!

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