外伝―戦士たちの出会い(2)
女戦士・セルファ視点。
幕間レベルの短さですが割愛するとわかりにくそうだったので投稿。
「なぁ。この試合だけ魔法の使用可とかできねーか?」
目の前の男は、あろうことかそのようなことを主催側に提案してきた。
こともなげに、気の置けない友に軽い頼み事でもするかのように。
その提案を聞いた私は耳を疑ったが、口を開けている主催側を見るにどうやら私の耳がおかしいというわけでもないようだ。
「な、な、何を言っているんですか!魔法は使用不可だと事前にお伝えしたはずじゃないですかー!」
「いいじゃねえか、ケチくせえ…俺はよ」
何故彼がこのような提案をするのかわからなかった。
彼はその強大な膂力で大剣を振るう戦い方をする男だ。
勝ち抜く様も観察してきたが、魔法を使うような仕草は見られなかった。
いや、使う必要がなかっただけで、彼も魔法を使うのだろうか。
状況がわからず黙って見ていた私の目を彼の目が射抜く。
「全力のこいつと戦いてーんだよ」
すっ、と剣を突き付けられたような視線だった。
口元が愉しそうにゆがんでいる。
剣とは愉悦のために目指すものではないと私は思う。思うのだが――口元に触れてみると、私の口角も上がっていた。
意識して表情を戻す。確かに私も全力での試合に興味はあるが、決め事は守られるべきだ。
「そのような気遣いは無用です。
私は剣のみで貴方に勝利してみせます」
「そうは言われてもなぁ。俺は全力でやって全力で勝ちてーんだよ。
他の奴らは……ほれ。手ぬるそうだしよ」
他の参加者たちに手ごたえがないというのは、失礼かもしれないが同意見だった。
彼らには勝利を渇望する心も、相手に敬意を払う精神も、不可欠であろう剣の技量さえも欠けていた。
予選を勝ち進む中で絶望したものだ。私が目指していた騎士とは、祖母が語ってくれた憧れの場所とは、このようなものだったのかと。
女である不遇により当時の騎士団に入れなかった祖母。
時代が移り変わり、最近になってようやく女の身でも騎士団に籍を置くことが許されるようになったと聞く。
狭き門であることに変わりはない。けれど、道があるのならば私は騎士になってみせる。
私の夢であり、祖母の夢でもあるのだから。
そうして目指した憧れの場所は――このようなもので。
騎士に絶望しかけた私だったが、一人の男の剣技によって心の曇りが晴れる。
その男は大剣使いだった。
隙も多く、その間に攻撃を受けることもしばしばだったが、向かってきた攻撃ごと相手の身体を弾き飛ばすその姿には衝撃を受けた。
あのような戦い方もあるものかと驚いたが、さらに驚いたのは彼が打ち負かしてきた人々と食事へと向かう姿を見た時だ。
彼のせいで騎士への道が断たれたというのに、彼を中心に皆が笑っていた。
対峙してみて確信できた。
彼には強さだけでなく、人を惹きつける魅力がある。それは私が望む精神の在り様とは異なるかもしれないが、私には持ちえないものだ。
切り結んだ相手と友誼を結ぶ。それは言葉にするほど簡単ではない。
それだけではない。
目の前にいる彼を見て確信する。
彼は心の底から勝利を渇望している。私と同じように。
だから私は彼に勝ちたい。
彼は、私の理想の騎士の在り方だからだ。
「――お気持ちは、まぁわからなくはないんですけど。規則は規則ですから…」
「規則を守るのも騎士としての務め。それがわからない貴方ではないでしょう?」
剣を抜き、構える。後は開始の合図を待つのみ。
彼もしぶしぶと言った様子で剣を構える。
「本当に残念だぜ…せっかく全力でやれると思ったのによ」
「いいえ、貴方は全力で応じざるを得ません」
「ああ。頼むぜ」
魔法を使わない私では、彼に決定的な一撃を与えるのは難しい。
けれど私は勝利を諦めはしない。
勝利を渇望する。それこそが、私の目指す騎士の在り方。
おばあちゃんが昔騎士を目指してたら胸熱だな、と思って書いた記憶があります。




