初任務
また時間の分からない朝が来た。しかし、今日は急がなければいけない…何故なら仕事の先輩と一緒に仕事をしなければいけないからだ。そう思って、いつもベッドの中で暇している時間を仕事に出かける準備へと回し自室を後にした。
先輩である死神―――イクスさんの部屋へ向かう廊下の途中で目的の人が向かっていた部屋から出てきた。
「おう、リン。昨夜は寝れたか?」
「いつも通りです。」
と他愛もない短い会話をした後、二人で宿舎塔の一番下まで降り任務を受ける為に隣にそびえ立つ塔の中にある通称『受注塔』…その名前こそそのままなのだがこう呼ばれているらしい…もちろん、正式な名前が各塔にあるのだが長すぎる為に各塔には誰がつけたか分からないが全ての塔は通称名称で呼ばれている。話は逸れたが、その『受注塔』に向けて歩き出した。
「どんな任務があるんですか?」
「多種多様だぞ。人探しから討伐任務まで…いろいろだ。」
「死神でも人探しってあるんですね…。」
「人探しと言っても生きてる人間も中にいれば、悪魔や天使・死神などの種族の中からの逃亡者を追跡するっていうことも人探しの任務の中に入る。討伐任務は、説明するまでもないが名前通り誰かを討伐する任務だ。」
彼は言葉にしなかったが、その討伐対象は全種族全員が対象に入っているのだろう。
「(おそらくは、悪事を働いたり危険人物とみなされると対象の中に入ってしまうのだろう)」
などと考えていると既に目的の塔へとたどり着いた。見た目では、下界では見慣れていた国会議事堂のような形でそれくらいの大きさしかなく、塔というよりは一つの大きな建造物のように見えた。
中に入ると、まず彼は受付と書かれているカウンターに親指で指差すようにして提案した。
「まずは、中に入って受けれる任務がないかどうか確かめようか。」
「はい。」
私は、彼の後ろについていくようにして受付へと向かった。
受付には、スーツ姿の女性が机に向かって座っていて私たちが近づくとその人はニッコリと笑顔を作った。
「あら、初めての方ですか?」
「はい、そうです。あっ、これ自分の端末です」
リンが自分の携帯を彼女に渡すと、受付嬢はその携帯をPCに繋ぎ中身を確認するとこちらを見上げた。
「なるほど、貴女がリンさんですね。こちらの説明を聞きますか?」
そう言われ私は、イクスさんを見ると頷いたのでその説明を聞くことにした。
彼女から話を聞いて、これらを要約してみるとこうだ。
①任務の受注条件は、二人一組であること。しかし、許可された者なら一人でも受注可能。
②受注すれば拒否はできない。
③任務の為に外部に出た場合、1週間を過ぎた時点でいかなる場合があろうとも死亡扱いとする。
④個々の任務毎のルールには絶対遵守
⑤任務ランクとして、A~Eの五段階ありAが最も難しくEが最も簡単な任務分けとなる。稀にA以上のランクが出現するときがあるが、これに関してはより大きな功績を上げた者のみに受諾許可が下りる。
以上五つが最低限のマニュアルである。…らしいのだが。
「質問いいですか?」
「はい、どうぞ。」
「任務毎のルールって、例えば・・・?」
「な~に、簡単な事ですよ。例えば討伐任務を受けたとしたら、討伐対象の首を持ち帰ってくる――」
「く…くくくく…くぅくぅ…首ぃ~~~~~~~~~~~~~~~!!!?????」
思わぬ単語が出てしまったために私は、周りの空気を一切読まずに絶叫してしまいそこにいた誰もがこちらを振り向いて、少し笑った後今まで自分が行っていた事を再開していた。隣にいるイクスさんは、「驚くのは当然だな」と呟いていたのを耳にした。
「おい、驚くのはそれくらいにしておけ。首を持ち帰ってくるなんてことは、討伐任務ではありきたりなことだからな。…なんだ?もう少し過激な例を聞きたかったか?」
「だってだって、首ですよ。生首ですよ!?というか、それ以上に過激なものが―――」
「そうだな。例えば、天使の返り血を浴びた両翼とか…悪魔のドス黒い心臓とか…他にも―――」
「いや、待って…待ってください。せめて私が聞きたいと言ってから聞きたかったです。」
「どうせ、聞きたかったんだろ?なら、いいじゃないか。」
「そりゃあ…その…そうですね…?」
「ここで何十年も仕事をすれば慣れるさ。」
彼は、今まで見たことのない笑顔を浮かべてこちらを見ていた。その時、受付嬢が「そろそろよろしいでしょうか?」と咳払いをしながらこちらに言ってきた。
「あぁ、すいません。こちらだけで盛り上がってしまって…。」
「いえ、久しく転生者の方の新鮮なリアクションを見ていなかったので久しぶりに面白いものが見れました。」
「は…はぁ。」
受付嬢は、まるで肌が若返ったかのようにそれをピカピカと光沢のあるものに変化させうっとりとした顔をしていた。その顔はすぐに戻り、PCを叩き始めた。
「それでは、初任務という事ですね。」
「はい、そうです。私は、隊長さんに独断任務の許可を受けていますが仕事に慣れるまではイクスさんに同行してもらおうと思っています。」
「確認したところ許可は下りていますね。イクス副隊長がよろしければ、リン様とイクス様のツーマンセルを許可しますが…?」
受付嬢がイクスを見上げると、彼は迷うことなく縦に首を振った。
「分かりました。少々お待ちください―――」
彼女は、さらにPCを叩き始めた。それとは別にこちらに向かっている画面に自動的に電源が入り三つのジャンルが提示された。
“捜索” “討伐” “回収”
の三つが浮かび上がった。
「さて、リン様。今回は、どれになさいますか?」
私は、一度彼を見てから画面に表示されている三つの内“捜索”のアイコンに触れた。
「分かりました。―――検索結果が出ました。今回は、捜索任務ということなのでこちらの世界に来る際に道を違えてしまった魂の捜索及び保護をお願いします。」
画面を見ると、今回のターゲットとなる一人の男性の名前と顔写真が表示されていた。
「今回、この方を保護することが任務内容となります。ちなみに、ルールについてですが…ありません。」
「ないんですか?」
「しいて言うならば、対象を生かした…と言ったら変な言い方ですが魂を浄化しきらない程度でここまで連れ帰ってください。」
「そのまま地獄に引き渡せばいいんじゃ―――」
すると、その答えはイクスさんの方から帰ってきた。
「それは、ダメなんだよ。不安定になっている魂をそのまま地獄に引き渡せばそのまま浄化されるだけさ。」
「どういうことですか?」
今度は、受付嬢-ティナ-が答えてくれた。
「扉と目的の間を結ぶ道は何物にも干渉されないんですけど、道を違えると負の力が増します。魂は、肉体という容器に入らず同時に盾という存在もなく露出している状態です。つまり、負の力を直に受けてしまいます。時と場合によっては、魂そのものが“負”になってしまうため、地獄に送られると…どうなるか分かりますね?」
地獄での仕事は、主に現実世界-人間界-での罪を苦痛を伴う方法で浄化し、それが終わり次第元の世界へ転生することだ。罪とは“負”そのものであるためつまり…
「その魂全てが浄化されて無くなってしまうんですね。」
私が答えを出すと、それを聞いたティナさんとイクスさんは「それが正解だ」と言わんばかりに笑顔で返事を返してくれた。
「ここには、取り込んでしまった“負”のみを取り出すことができる機器があります。なので、対象は一度こちらに連れてきてください。」
ティナさんの話を聞いて、「分かりました」と頷き返事をした後にもう一つ質問を投げかけた。
「―――――それで彼はどこに?」
「不明です」
「不明?」
私が顔を顰めていると、隣にいたイクスさんがその理由を説明してくれた。
「任務自体は、様々な種族の誰もが発注することができるが任務それぞれの目的となるべき人物の詳細もその発注した者が分からない事であるならそれ以上の事は分からない。だから、依頼を受けた者はそれなりに情報収集なり捜索なりをしなくてはいけないのさ。」
「つまり、任務を受けるのは自由ですが難易度に関係なくそれなりに調べなければいけないんですね?」
「そういうこと。」
彼からの答えを聞いてから、画面に映し出された男性をもう一度見る。すると、どこかで見た人だった。
「あれ…この人は…?」
「ん?見覚えのある人だったか?」
「はい、どこかで会った気がします。」
そんな会話を聞いた受付嬢は、PCでその男性について調べてくれた。
「この男性は、リンさんがこちらに来るときに一緒にいた霊体ですね。記録では、地獄の門をくぐったそうです。」
「だが、辿り着けてない…。こりゃ、こちらのミスだな。どんな事情であれ、あちらに辿り着くまでは門をくぐらせた者もしくはその種族が責任を持って処理しなければな。」
「私をここまで導いてくれた隊長さんの後処理か…、でも、初めての任務として文句ないわね。」
「とりあえず、この男性が辿ったと思われる道のりを捜そう。ティナ、俺とリンに他種族の領域への侵入許可の受諾をよろしく頼む。」
「それは、大丈夫。この任務の受諾申請を出したとき一緒に申請しておいたから、あとはリンさんがこの任務を受けると言ってくれればすぐにでも許可が下りるはずよ。」
ティナと呼ばれた受付嬢は、こちらに向かっている画面を指差しながら言った。すると、そこにさらにアイコンが現れ――
“受諾”と“拒否”
の二つの選択肢が現れていた。私は、迷わずに“受諾”のアイコンにタッチした。
「ありがとうございます。―――任務の実行許可と多種族世界への侵入許可ともに下りました。御健闘を…。」
「こちらこそ、ありがとうございます。では、頑張ってきますね…ええと、ティナ…さん?」
「ええ。頑張ってきてね。」
私は、「はい」と答えながら片手をあげて挨拶をし、イクスさんもまた片手を挙げていた。
その後、私と彼は“受注塔”から外に出て“扉”に向かって歩いていた。私がここに来た時説明を受けたが、この世界には三つの扉がある。
一つは、地獄へと通じる扉―――――――――――
一つは、天国へと通じる扉―――――――――――
一つは、下界…つまり人間界へと通じる扉―――――
これら三つの扉があり、通常は死神が使用することはなくこれら扉を使用するのは死んだ生物たちである。死神が天国か地獄かを選定するのでその場で選定できなかった場合一度この世界に引き込みここでどちらの世界に行くべきかを選ぶ。選んだ結果、対応している扉に入って行く…こういう仕組みなのだ。
今回の任務では、その場で選定されたはずの人間の魂の捜索だ。最後の記録では人間界から直接地獄の門を通ったという…しかし、扉の奥にある地獄そのものへは到着していないという地獄の役人である悪魔たちからの報告があったためにこの任務が作成されたのだという。そして、それを受けたのがその場にいて扉をくぐるのを見届けた私ということだ。
最後の記録で地獄の門をくぐったという事なので、私たち二人はこの世界から下に見える黒く染まった扉に向かうことにした。
しかし――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あの、質問なんですけど…」
「どうした?」
「あの扉まではどうやって行けば?」
私から見て下に見える扉を指差しながら質問をした。すると、彼はここから私たちの目の前に立っている塔に目を向けた。
「扉に向かうには、天国だろうが地獄だろうが人間界であろうがこの塔の中を通らなければいけない。ここにも長ったらしい正式名称があるんだが、俺らは“ジャッジメントタワー(Judgement Tower)”と呼んでいる。」
「直訳で“裁きの塔”ですか。」
「そんなところだ。今回は期限こそないが、依頼内容からして目標は極めて危険な状態だろう。」
「戦闘の可能性も…?」
「あるな。心してかかれ。」
「了解です。」
したことのない返事の仕方をした後、彼の後について“裁きの塔”へと向かった。
その塔の中に入ると、その中には上へ向かう階段・下へ向かう階段があり、出入り口の同じ階に扉が一つ見えた。そして、それらの手前にはいくつものゲートがありおそらくこのゲートで入出場者の管理と選定をしているのだろう。こころなしか、上へと向かう階段は白く光り下へと向かい階段は暗く染まっていた。
「なんか、空港のゲートみたいな造りですね。」
「転生者はみんなそんなことを言うが、そんなに似てるか?」
「そうですね。」
「さて、今回は下に向かうぞ。」
私たちは、ここより下に向かうためにゲートを通り、階段を使って下へと向かった。
どれくらい降りたか分からないが、ゲートを通って降り始めてから既に10分は経っただろうか…。それでもまだ、扉が見えてこない。
「すいません、これどれくらい続くんですか?」
「もう少しかな。気付かない?俺たちが下に降りる毎に段々と暗くなっていくのに…」
「じゃあ、もう少しってという事ですね。」
それからも下に見えてくるであろうと扉を目指して階段を降り続けていくと辺りは暗く染まってきて、目に見える何もかも全てが暗く染まって何も見えなくなり、私の隣を歩く彼の足音を頼りに、それについて行こうと唯々-ただただ-歩き続けた。
しばらく歩き続けると、私より少し先を歩いていた彼の足音が聞こえなくなったので私も歩きを止めた。しかし、瞼から透けて見えるのは暗闇しかない所を見るとここもまだ暗闇ということが分かる。
「リン、そっちの壁についているスイッチ押してもらっていいかな?」
「スイッチ…ですか?」
そう言われて、私はその壁を手探りで探してみると、左の方に壁らしきものがあった。どうやら、真っ暗闇の中を目を歩いているうちにどこかの部屋の中に入っていたようだ。その壁を上下左右に手探りで探すと何やら突起のようなものがあったので、それを押してみた。
―――すると、ずっと真っ暗闇だった世界が一気に白く明るくなった。
明るくなった部屋を見渡したが、どっからどうみても単なる部屋にしか見えなかった。
「あの…ここは…?」
「ここは、関所と地獄を繋ぐ通路の中間地点…つまり世界と世界の繋目さ。云わば、魂の休憩所かな。」
「地獄への道のりなのに、休憩所ですか…。」
「俺たちも一応魂だけの存在だが、何にも成りきれていない魂は裸同然で影響を受けやすいことはティナからも聞いたよな。」
その問いかけに私は首を縦に振った。
「ここまでの道のりは暗闇だったと思うが、あれは“負”が見せる闇さ。だから、こんな休憩所を設けて扉をくぐるまえの状態に近づけようとするのさ。そして、ある程度ここで過ごしてもらった後改めて地獄へご案内~…ってな。」
「じゃあ、こことは反対の…向こうに見える扉をくぐるとさっきみたいな真っ暗闇なんですか?」
「そうなるな。ちなみに、天国へ向かう道中はここと真逆の状態…つまりとても白く眩しい道のりなのさ。…しかし、今回は対象をこの道中…もしくは異回廊で見つけることだ。この扉の出入り口にもゲートがある。そこの履歴を見てみよう。」
「はい。」
私と彼は手分けして関所側と地獄側のゲートを調べた。ゲートそのものは、死神が魂の整理の為に製造されたもので配布されている端末を使うことでいつどの魂が通ったか調べることができる。なので、私も関所側からのゲートの履歴を調べる為にゲートのすぐ脇の台座に端末を置くとその台座横のディスプレイが起動した。私が関所に来たのは、約一週間前くらい…
「(考えてみると、いつここに来たんだっけかな…?)」
そう考えながらも、ディスプレイを見ながら対象となる人物の魂を捜すためにキーボードを叩いた。検索エンジンを人間の魂のみに限定し、対象の詳細を書き足すとそれに見合った人物が表示された。その中から、対象を捜したすのはとても簡単な事だった。何故なら、その検索でかかったのはその男のみだったからである。
「イクスさん、こっちのゲートに履歴が残っていました。」
と地獄側のゲートを調べている彼に向けて言った。
「OK.ちょっと待ってくれよ。こっちももう少しで終わる。……よし、OKだ。」
調べ終わった彼が私の方へ向かい歩きながら言葉を発した。
「地獄側のゲートにも対象が通過した履歴が残っていた。」
「ということは、この部屋から地獄への道のりで消失した…ということですね。」
「そういうことになるな。俺たちには、異世界への侵入許可が下りている。もしもの時は侵入することもできるだろう。」
「じゃあ、ここにいても何もすることは無いでしょうから先に生きましょうか。」
「よし、この先に向かおう。」
私も私の端末をゲートから外し、彼の後に続いた。そして、彼が扉を開けその先に進もうとした時私に振り返った。
「ここから先も真っ暗闇だ。しかし、同時に地獄が管理する通路でもある。君にもここから先の様子を見てほしい。」
「でも、本当に真っ暗闇で何も―――」
すると、彼はクスッと笑った後右手を前に出し何かの呪文を口にした『フラッシュソルト』と―――――
その言葉を発すると、今まで真っ暗闇だったその通路は一瞬白く包まれ辺りが明るくなった。明るくなったその通路を見た私は一瞬言葉を失った。何故なら―――――――――
地面には、様々な生き物の骨が散乱し壁には無数の骨格標本らしきものが掲げられていたのだから――――
「いつ見ても悪趣味だな…。」
「まさか、こんな道を歩いていくんですか?」
「そうだよ。」
彼はそう答えながら、骨で埋め尽くされた通路に足を踏み出すと骨が砕ける「バキッ」という音が響き渡った。
「ほんっと~にここを歩いていくんですか?」
「勿論だ。ほら、早く来ないと置いていくよ。」
私は、半ば仕方なくその道を歩くことにした。
私たち二人は、対象を捜しながらバキバキと音が鳴る廊下を進んでいた。
「見つかりませんね…。」
「もしかしたら、地獄側の不手際かもな…。」
「イクスさん、ここは一度地獄に行ってみてはいかがでしょうか?多分、ゲートは存在しているんでしょ?」
「そうだ。地獄だけでなく天国にも現世へ戻るにも世界から世界へ飛ぶときには必ずゲートを通る。…よし、リンの言う通り一度地獄へ向かってみよう。」
そう言いながら、二人で地獄へ向かった。
しばらく歩いていくと、天井がどこにあるのかも分からないほどとても高く両側の壁も今までの通路と違い開けていて、私の目の前にはとても大きく暗黒に満ちた大扉が聳えていた。
「わぁ、大きいですね~。」
「これがいわゆる“地獄の門”と言われるものだよ。」
「でも、こんなに大きいのが必要なんですかね…?」
「それは、悪魔にでも聞いてくれ。どうせ、威厳がどうのこうのって言うんだろうな…。リン、確認だがここまでの道すがら対象人物の反応はあったか?」
質問されて再度自分の端末を確認した。これらの死神が保有する端末には様々なシステムが備わっているが、その中の一つに指定物を探索するシステムがある。今回は、このシステムを使用していた。
「いいえ、ここまでではそんな反応ありませんでした。」
「やっぱり、中に入らなきゃダメか…。」
彼は、頭を掻きながら面倒くさそうに言いながら扉に近づいていった。私もその後について行くとその扉には何かカードのようなものをスロットさせる機器が取り付けられていた。彼は、自身の端末を出しそのスロットに端末を通すと、機械音が鳴ったと思うとその扉からロックが解除される音が聞こえ「ギギギ…」と重い音を上げながらゆっくりと扉が開いていった。
「じゃあ、今俺がやったみたいに扉を開けて入ってきてくれ。」
と言い残し、彼は扉の奥へ消えていきその後すぐに扉が素早く閉じた。おそらく、端末をスロットすることでいつ入ったとか侵入許可を得ているかなどを確認する為なのだろうと思った。そして、私もその扉に近づき自らが持つ端末を彼と同じようにスロットすると先程のように扉がゆっくりと開き、私もその中に進んでいった。そして、私のすぐ後ろで「バン!」と大きな音をたてて扉が閉まった。