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Heart State  作者: 鈴羅
16/24

始動

 私―九条 真希―は、人間界にも地獄にも天国にもどの世界にも近くそれらへの行き来を管理する《関所》にある私たちの衣食住を管理する建物の一室にいた。ベッドで寝ていた私はふと目が覚めてこれまでのことを振り返っていた。

私が死んで…ゼロさんに連れられてここに来て…死神になるために現世で生きた自分を殺して私に関わる記憶も全部消して…リムに出会って…どれくらい時間が経っただろう。多分、そんなに時間は経っていないのだろうがとてつもなく長い…長い時間を過ごしてきた気がする。


 そんなことを考えていると、さらにふとこんなことを思い出す。それは、この世界に住まう種族《死神》の先輩たちの名前にある。容姿は確かに日本人であるのに名前が外国人風の名前なのだ。それも、生前にいろんなアニメや小説で読んだような名前が多い。勿論、中には外国人のような容姿の人もいたがそれは極少数で、その他は容姿と名前が一致していない。前に一度聞いたことはあったが、その時は本当の意味で死神に成り切れていなかったからただのコードネームという事だけだったが、今聞けば教えてくれるのだろうか…?

 「まぁ、聞いてみないと分かんないよね…」

 と誰もいない部屋でただ天井を見上げて呟いた。

 

 そうと決心した私の身体は自分の意思よりも先に動き、部屋を出て彼…私の教育係でもあるルシファーさんの部屋へと向かった。そこまでの道のりは決して遠いものではなく、同じビルの中の私の部屋よりも上の階に部屋を持っていて人間界にもあったエレベーターを使って階を移動している。そのエレベーターや廊下にある窓からは死神の世界独特の景色が広がっていて、これがまた朝も昼も夜も何一つ変わることない景色だ。

 

 そうこうしているうちに、彼の部屋の前にたどり着きそのドアをノックする。すると、その答えはドアの向こうにいるはずのルシファーさんではなく、廊下側…私の後ろから彼とは違う声がノックに対する答えとして返ってきた。

 「おや、こんなところでどうしたんだい?」

 「あれっ?ゼロさ…ゼロ隊長ですか。お久しぶりです。」

 「いいよ、ゼロさんで。ところで、ルシファーに何か用だったのかい?…そうだな、当ててみよう。我々、死神が持つ名前と容姿の違いについて…かな?」

 彼は、笑い。そして、目を細め訪ねてきた。

 「えっ…あっ、はい。その通りです。」

 「じゃあ、場所を変えようか。別にここで聞かれても何も問題はないが、立ち話もアレだから私の部屋で話そうか。…ちなみに、ルシファーは仕事で外に行っている。」

 「分かりました。お邪魔します。」

 彼は、私を自身の部屋に誘った。

 彼の部屋には、ここに来てから初めてではないだろうか…。彼は、私の前を歩き時々こちらを振り返りながら廊下を歩いていきエレベーターに乗り今の階よりさらに上へと昇って行く。16…17…18…と数が増えていき『天階』と名前がついている階に登り詰めた。既に何階かも分からない…。そして、それの扉が開くと…下の階とは違い廊下から既に豪華な造りになっていた。絨毯から壁から照明から、その全てが豪華なものだった。

 「ビックリしたかい?…驚いてくれて構わない。ここに来た転生者たちは、皆驚くんだよ、決まってね…。」

 「昔から、偉い人は豪華な所に住むっていうのは知っていましたがここまで違いがハッキリしているとは…。」

 驚いた顔で言うと、彼は横に首を振った。

 「これはね、先代の長の趣味でね。これらは、先の大戦で得た戦利品の塊なんだよ。俺は、そんなの自分の部屋に置きたくないから元々あった物品や家具は全て倉庫かこの廊下に放り出しているんだよ。……今、もったいないって思ったでしょ?」

 「よくもまぁ、こんなに自分の心を読んでくれますね。」

 少し怒り気味に言った私に、「ゴメンゴメン」と彼は謝った。しかし、彼はこう続けた。

 「でもね、いくら読まないようにしても『この目』がそうしてくれないのさ。」

 と自身の左目を指差して告げる。


彼の話によると、代々長になった死神は大戦以前から受け継がれてきたものがある。それは、視界の中にいる者の心を読み嘘か真かを見抜きさらに、様々な偽装を暴くことができる『目』を受け継ぐという。

「受け継ぐ…って、移植ですか?」

「いやいや、コンタクトをつけるような感覚だからそんなに痛いものではないよ。」

「でも、大変ですね。いろんな人の思考が聞こえてしまうなんて…。」

「いや、そうでもない。この目は、その人がよく気をつけていれば効果を示さないんだよ。だから、これは仕事で魂の心を視たり反逆した死神を裁くためなどに使うことが多い。」

「な~る。それに、ゼロさんのように高位の死神の術を使えば強制的に目の効果を引き出せることもできますしね。」

彼は、何も言うことなく頷き私の言った考えを無言で肯定した。

「まぁ、目の事はあまり深くは離せない事だから話を変えようか。…確か、名前だったね。彼…ルシファーから今の名前を捨てなければいけないと言われたと思うが、その通りだよ。そして、この名前はここ『日本支部』だけではなく外国の死神とも助け合っていかなければいけない。呼びやすいようにこういった名前にした…と先代も言っていたかな。ここまでは、彼から説明を受けたと思う。そして、今から話すのは君が本当の意味で死神になれたから言うんだよ。」

「やっぱり、そうでしたか。なんとなく気づいてました。ルシファーさんに『死神と言うのは神とほぼ同等の力を持つ』なんてことを言われたら気づかない方がおかしいですよ。」

「うむ、察しがいいのは良いことだ。そう、神に人間の時に使っていた名前は必要ない…これも先代の考えだよ。…それで、考えてみた?」

「…名前…ですよね。」

またも、彼は無言でそれも笑顔で頷く。しかし、今の今まで何も考えていなかった…まさにその通りだった。こう考えていると、彼がまた笑顔でこちらを見ていた。

「(しまった~。ゼロさんは心の中が見えるんだったぁ~。でも、どうしよう。これから一生使う名前だし…。)」

私は、考え込むようにそこにあった椅子に座り込み一人で考え始めた。どうやら、私は一度考え事を始めると周囲の状況が分からなくなるようでいつの間にか自分の部屋にいるような錯覚を覚えた。

その後も考え続け、いつの間にかそこにあった紅茶に手をかけ口に運ぶ…。しかし、その時の私は考え事をしていたため甘いものが飲みたいと思ったのか、無意識に砂糖を入れて混ぜそれを飲む。


そして…


「私の名前は…『リン』」

その名前を告げると、誰かが私の後ろで笑う声が聞こえた。

「うむ、それが君の名前か…良い名じゃないか。」

「ぎょえぇ、い…いたんですか?」

「いたんですか…って、ここ…俺の部屋だよ」

「え˝っ!?」

私は椅子から立たずにその部屋を見渡した。そこには、ゼロさんがいつも使っている大鎌が専用の台座に置かれていて落ち着いた雰囲気の家具があり、私の部屋とは違っていた。

「真希ちゃ…いやリンは、どうやら考え事をすると周りが見えなくなるようだね。俺が入れた紅茶を何も言わずに飲みながら考えていたしさ、それに無意識に砂糖を入れて飲む人…初めて見たよ。」

彼が笑いながらそんな事を言うものだから、顔から火が出るほどまでに赤くなった私が鏡の向こう側にいた。その様子を見た私は顔に手をやり、見かけだけではなく温度もとても熱くなっていた。

「とにかくだ。リン、その名前で人事課にデータを渡しておくよ。あとは、詳しい事かな。リンの武器は自動拳銃の『ベレッタM92』とリボルバー式の『トーラス・レイジングブル』の二丁拳銃スタイル…で間違いないね?」

「はい、その通りです。ちなみに、前者が左手に後者が右手に持つスタイルです。」

「OK.それぞれの名前は、『エム』に『レイ』で二人合わせて『リム』と…。(これは、まだまだ進化していきそうだな。)」

「?今何か言いましたか?」

「いや、これからも頑張ってな。」

「はい。ありがとうございます。」


彼が言ったことが少し聞こえた気がするが、そこは聞こえなかったフリをしておこう。それに、私も自分の銃に疑問を持っていた。それぞれの銃についたそれぞれの名前の他にそのそれぞれが性質が違うのにも関わらずわざわざ二つ合わせた名前がある。今、私の目の前には死神の長である人がいるので聞いてみることにした。


「ゼロさん。一つ聞きたいんですが…。」

「あぁ、質問の内容はわかっているのだが一応聞いておこう。」

「は、はい。私の銃の名前の事なんですが、『M92』にも『トーラス』の二つが現れる前に私は『リム』と名付けましたが、結局はその二つに一つずつ名前を付けました。今、私が持っている二つ以外に名前があって合計三つの名前があるわけですが、これが意味していることって…?」

「あぁ、ルシファーにも言われたと思うがその辺りは自分で切り開いていくしかない。とだけ言っておこう。俺のこの大鎌も自身の心から生まれたものでその能力―ちから―は、自分を知る事と自分の心との対話などでいくらでも変質していく。これが既に答えになっているね。君もこの短い間に能力を変質させているんだよ、気づいた?」

「えっ、私が…ですか?」

彼は何も言わずに頷いた。


私がいつ能力を変質させたのだろう。この短い間に戦闘をしたのは、ルシファーさんとの模擬戦くらい…というよりそれしか思い当たらない。私は、戦闘の始まりから終わりまでを思い返すと思い当たる節があった。それは、どうしてもルシファーさんに勝ちたいと願った時の事だった。あの時、「彼を倒したい」…その時、手に持っているはずのエムやレイがそのまま具現化せずにそこにいた。そして、両手に銃を持ったまま…彼女たちもまた自分自身を持ち三人で4つの銃を駆使し戦った記憶が…。


と、考え…その答えまで辿り着くと、ゼロさんがまたお得意の笑顔で頷いた。

「そう、心を具現化させた武器を持ちながら個々の魂を呼び出せるというのは『変質』といっても違わないだろう。これからもそんな時のように自身の心と向き合っていけば変わっていくよ。人間の心も変わっていけるようにね。」

いつものように灰色の世界を窓から見つめ、その眼はどこか遠くを見るようだった。

「似てますね。」

「えっ?」

「あっ、すいません。兄も、私の兄も『少しかっこいいかな?』とか恥ずかしいことを言った時に決まって窓から遠くの景色を見てたんです。」

それは、とても幼い私の記憶。私が死を迎える10年ほど前の事だ。ある日、私の兄は交通事故に遭い死んだ。

「そのお兄さんの名前は?」

「えっと、『九条 紫苑』っていいます。」

「へぇ、変わった名前だね。生憎だけど、かつてその名前を持っていた死神も悪魔も天使も知らない。ということは、既に転生したのかもしれないな。」

「それはそれでよかったです。いつまでも迷っていてほしくありませんし…。」

それは、本音だった。

だって、その死んだ理由は私を庇ったせいなのだから。詳しいことは覚えていないけど、両親の話によるとボールを追いかけた私は道路に出たために車に轢かれそうになり、それを助ける為に兄が助けてくれたのだという。

ふと、彼の方を見るとまるで懐かしいものを見るようにこちらを見ていた…気がしたがその視線はすぐに外れた。

「お兄さんにもう一度会ってみたいと思う?」

「いえ、今の私では割に合いませんよ。」

「そうか…。なら、いいんだけどさ。」

「一体なんですか、いきなり?」

「いいや、ただ会ってみたいかと聞いてみただけさ。君がいるこの世界は、それぞれの勢力に長がいるだけで他には階級がない。よく考えてみな、功績を上げれば上げるだけこの世界で有意義に暮らせるという事だ。リンもここで頑張っていけば、いつか会えるよそのお兄さんにね。転生しようがなにしようが、それまで生きてきた魂には他ならないっていうことを忘れないようにな。…さて、そろそろ時間だ。俺は、俺の仕事に行く。リンも明日から俺たちの仕事をしてもらう。頑張れよ。」

「はい、これからもよろしくお願いします隊長。」


と言い残し私は、彼の部屋をあとにした。そして、閉まるドアの隙間からゼロさんが私に寂しそうな…しかしどこか嬉しそうな顔をしながら見ていた。


部屋に戻る間もずっとゼロさんの事を気にかけていた。私が兄の名前を出すや否や彼は嬉しそうに…しかし悲しそうに私を見る目があった。

「なんで、あの人があんな顔を?」


その時は、あまり深く考えなかった。何故なら、いくら考えても答えが出なかったからだ。そのことをここより深く追求するのは、私がこの仕事で数多くの功績を残してからにしておこう。


そう…思うのだった。


《ゼロ視点》

リンがこの部屋から出ていった後、ゼロは一人…部屋の椅子に座りながら自らが入れた紅茶を飲んでいた。今まで、リンと話していた彼女のお兄さんの話…あれに嘘がないのは自分の左目を通して分かり切っていることだ。

「しかしなぁ、いまさらか…。よりにもよって、自分がここに連れてきてしまうとはな…。」

彼は、ゆっくりと紅茶を飲み干した。

「俺がここにいる時点で分かり切っていたことだ。今更、後悔しても仕方ないだろう。…彼女の事だ、いつか俺のところまで辿り着くだろう。…九条真希…か。」

 一枚の書類に目を通し、それに九条真希の新たな名前…『リン』の名前と今の心の在り方をその書類に書き足して黒電話で誰かを呼び出した。すると、すぐにドアをノックする者がいた。彼は、ノックしてきた相手を自身の部屋に招き入れた。その人物は人事課にいる職員で今まで書いていた書類を渡した。

 「この子が例の転生者…ですね?」

 「そうだ。さっき、自身の新しい名前を決めてもらいそれを書類に書き足した。コイツは今日から俺らの仲間だ。登録しておいてくれ。」

 「分かりました。では、失礼します。」


 そう言って、人事課の職員は部屋を後にした。部屋に残されたゼロは、窓の外に目を向け部屋の隅にある大鎌に手をかけ背中に携え彼もまたその部屋を後にした。


 《リン視点》


 その後、リンの元に一通の手紙が届いた。送り主は、ゼロからでこれからの仕事についての内容だった。


 『改めて、就任おめでとう。君もここに来たばかりの時マニュアルを読んだと思うが死神の仕事は基本的にツーマンセルで行うことになっているが、心を形を残したまま具現化できるまでになった君には無理に合い方を選ぶ必要はないと判断し、単独任務を許可する。』


 という内容だった。


 「最初から、一人か~。」

 『でも、私らがいるじゃない。』

 『そうだよ。俺たちがリンをフォローする。俺は君だ。』

 「私は君たちだ。」

 エムとレイをそれぞれ持ち上げながら心の中で語っていた。

 

 ここから、また新たに始まるんだ。私は、私なりに…私たちは、私たちなりにこれからを生きていこう。そして、隊長さんが見せたあの表情の秘密を知る為にも頑張っていこう。


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