多種族
話は一度、真希たちがいる関所での死神たちの話から離れ人間でもなく霊でもない悪魔そして、天使のそれぞれが支配・治めている世界について触れて行こうと思う。
《地獄》
ここは、人間界でよく使われる言葉の中で『地獄』と呼ばれる真っ暗な世界だ。ここに入る条件…それは、人間界で提示されているものと同じく「人間界において殺傷・強盗など人間界で定めた法律に反した者」と定められている。他にも「人が人に対して、人が世界に対して悪影響を及ぼした場合」も条件として含まれる。前者は、記録に残るが後者は記録に残らず記憶に残る。記録は、書物に残り人間界に永遠に残され探せば探すほど深い内容を探すことができる。しかし、記憶はそれをもつ人間からしか正確なものを引き出すことができない。それらを探すのは、人がやることだ。だからこそ、死神という存在がいるのだ。地獄に住む悪魔にとっては、許すことのできない存在だがこいつらがいなければここ『地獄』には誰もいなくなってしまう。死神は、肉体を失った魂を自身の心で作られた武器を介すことでその人の罪を視ることができる。だからこそ、死神が存在する。二度と、悪魔と天使などの勢力同士が戦わないように…。
地獄は、人間界で犯した罪を洗い流す役目を持ちここに送られた人間から罪が全て抜き切れた暁には転生を行うことができる。罪を洗い流す方法は、人が生前信じた宗教によって変化するといわれているが、実際には八つしかない。
①等活地獄:生前に動物を殺した罪
②黒縄地獄:生前に殺生や盗みを行った罪
③衆合地獄:生前に淫らな行為を行った罪
④叫喚地獄:酒類を使用して罪を行った罪
⑤大叫喚地獄:嘘をつき悪事を働いた者への罪
⑥焦熱地獄:仏教とも違った間違った道を説き実践した罪
⑦大焦熱地獄:尼僧や童女への強姦を行った罪
⑧無間地獄:上記七つの罪を合わせた大罪人が墜ちる
これら八つの地獄があり、最初の等活地獄が一番上にあり無間地獄が地獄の最下層に位置している。勿論、下に降りれば降りるほど苦しむ時間は長くなっていく。同時に下に行けば行くほど転生までの期間が長くなり、時には苦しみに耐えきれず消滅してしまう場合もある。
そして、ここにもゼロと同じようにきっちり仕事を行う悪魔がいた。それは、悪魔の頂点に立つ男『サタン』…それは誰でも知っている伝承通りの男だ。
彼ら悪魔は、それら地獄の上に成り立つ塔の中で生活し仕事もする。そして、その塔の中から見るその風景は樹も草も生えていない殺風景なものだった。なので、いくら仕事が多いサタン様も暇そうにしているわけで…。
「にしても、暇だ。いっその事、天使でも屠りに行くか。」
このように、さらりと恐ろしいことを毎日のように言いやがる。
サタンは、自身の椅子から立ち上がろうとした時傍にいる側近の一人『アル』に止められた。
「それは、ダメですよ。」
「何故だ?貴様は、俺に消し飛ばされたいのか?」
彼は、右手に気を集中させた黒い塊を持ち側近に向けて底が見えない笑みを浮かべる。
「い…いえ、滅相もございません。いえいえいえ、そうではなく。こちらから、模擬戦ではなく戦争を吹っかけてはまた死神の連中に屠り返されますぞ。」
その言葉を聞いて、集中させた力を握り潰した。
「そういや~、そうだったな…。くそっ。それでなくとも、面白い話はないのか~?人間を苛めるのも楽しいものだが、もっとこう刺激のある事をしたいのだよ俺は。」
ドサッと座っていた椅子に座り直し、目の前にある書類に目を通しかけたときだった。
「部下から聞いたのですが、どうやら人間から死神に転生した者がいるそうですよ。」
とボソッと呟いた時、サタンの目はこれ以上なくギラリと輝いた。…と同時に自らの力をどす黒い気に変えてそれを全身に纏わせた。
「おっしゃぁ、野郎ども死神の連中に戦争…いや模擬戦仕掛けに行くぞぉおらぁ!」
地獄全体に響き渡るようにとても大きな声で言うと、どこから湧いたか分からないがやる気に満ちた目をして集まった悪魔たちが部屋に集まった。しかし…
「お言葉ですが閣下。その者はまだ、能力を開花したばかりと聞きます。もう少し、時間を置き存分に熟した後お召し上がりになる方がよいかと…」
側近による、とても落ち着いた声で彼に助言を行った。助言を受けたサタンは、柄にもなくキョトンとした顔になったがすぐそれを戻しその側近に身体を向けた。
「それもそうだな。…皆の者、すまないが各々の持ち場に戻って仕事をしてくれ。」
彼によって集められた悪魔たちは、彼の命により渋々ながら元の持ち場へと戻っていった。
「じゃあ、近いうちにここにも来るか…」
「おそらくは…」
「まぁ、柄にも似合わずゆっくりと待つことにするか。」
「それ、自分で言ったらダメです。」
「うるせぇよ。」
《天国》
ここは、地獄とは正反対の世界。一切の罪を犯さずに一生を過ごした魂が行き着く憩いの場所。そこには、現世よりも充実した世界である為その多くが転生をせずに過ごしている。ここにもここを管理する種族がいる。それは、天使と呼ばれていてその頂点に立つのが『ミカエル』である。地獄と同じように頂点に立つ者もいればその補佐を行う人もいる。
彼ら天使は、ここに住まう魂を見下すような真似はせず生活をする場所も彼らと同じようにどこまでも広く広がる雲海の上に人々の家のすぐ御近所に住んでいる。その中でも人間界で言う協会を模したような造りの家には天使の長が住んでいた。
彼もまたこの中で地獄の長と同じように仕事をしていた。そんな中一人の従者が彼に話しかけた。
「そういえば、ミカエルさん知ってますか?」
「何ですか?」
ミカエルは、長でありながら敬語を話す。その理由は、皆に敬意を表すためという理由があるらしい。
「関所の人材が一人増えたそうですよ。」
「あぁ、例の転生者ですね。私に報告するという事は、彼女も死神になれたのですね。」
「知ってたのですか…。はい、そのようです。」
「私たちは、彼女に何もしてあげることができません。ですが、これまで転生した者たちと同じように見守っていきましょう。」
ミカエル―彼―は、この部屋の窓から見える雲海のさらに遠くを見ながら言った。
「そうですね。願わくば、先の大戦のようにはなりたくありませんしね…。」
彼の側近である『シロ』もミカエルと同じ意見でここはここで、地獄とは違った平穏があった。
「そうですね。おそらく地獄の長は、その転生者に会おうと考えるはず…。となれば、私も行かなければいけないですね」
「以前、悪魔と死神の二つの種族が顔を合わせたとき会いに行った悪魔側の半分が消されたという歴史もありますから、互いに互いを抑えなければいけないわけで…。」
「そうですよね。一体、悪魔の方たちは死神の皆さんにどんな言葉を吹っかけやが…いえ、言ったのか分かりませんが同時期に関所の方に行く必要がありすね。シロさん、貴女直轄の兵に悪魔側の動向を偵察してもらってください。」
「分かりました。すぐにでも…」
と言って、彼女は目を閉じると光になって消えた。
「転生者が現れたことにより少しだとしてもこの世界に何らかの影響が出る。それを見越して転生させたのですか…ゼロ…」
自身の部屋の自身の椅子に座り身体を後ろに反らし、部屋の天井を見ながら独り言のように小さく呟いた。
《亡霊街》
ここは、現世―人間界―で生きそして死んだ生き物が地獄にも天国にも転生することも叶うことがなかった魂が集う場所。しかし、ここに住まう霊は霊感を持たない人間でさえも個々の霊を見ることができるほどハッキリとした存在感を有する。これらは、誰も長を務めない頭がない集団である。言ってしまえば、誰もが自由に生きる世界だ。世界と言えば、ここはリアルに存在する地球の全く同じく構成されたパラレルワールドと提言される世界の一つでもある為に霊たちは生前住んでいた場所に今までと同じように過ごしていた。なので、この世界を上から見るとそれは生きている者たちと『死んでいる』という事以外何も変わっていないように見えるのだ。
しかし、ここで矛盾が生じる。人間界と同じというのなら誰かが同じ人間を率いなければいけない。だが、ここにはいない。その代わりに、一つの霊体に全ての意識を統一させその霊体がこの世界を仕切っている。
『(知ってるか?)』
『(知ってる知ってる。)』
『(死神で転生者が現れたそうだ。)』
『(今頃報告するという事は、自分を殺したか…)』
『(そういうことになりますね。もし、失敗したときには我々と同じ存在になれたのに残念ですね。)』
『(時には、こういう因子もないと世界の均衡を保つ事なんて無理だろうから、ここは転生できたことに祝福しようではないか。)』
『(時に、悪魔と天使の二つの勢力が関所に向かうという情報を得たのですが我々はどうしましょう?)』
『(我々は、今まで通り現世に生きる人間たちが動いたら考えましょう)』
『(そうですね。)』
『(では、しばらくは大人しくしていましょう。)』
彼…いや彼女…いやいやそのどちらでもない『ソレ』は、この世界で一番高いビルの上で誰もいないのにソレは何かに話しかけるように独り言のように問いかけ答えを出していた。
『(そうだな。私はこの世界に住まう亡霊たちの集合体であるがために最善の手を考えなければいけない。ならば、君の言う通りここは大人しくしておくべきだな。)』
誰かにそう告げると、ソレはそこからどこかへ消え去った…。
悪魔・天使・霊と死神とは違った世界に視点を移してたが、それをまた関所を護る死神たちの世界へと話を戻そう。そして、再度これらの種族が住まう世界についても説明しよう。
人間界で生きた生を持つ様々な生物は死ぬと肉体から魂のみが離れ霊体となる。霊体となった魂は、死神によって回収され関所で審査を受けた後悪魔が管理する地獄もしくは天使が管理する天国のどちらかに送られ、地獄ならば生きていた時に生じた罪を浄化し天国ならば必死に頑張った褒美として余生を楽しむ…そのように位置づけられている。だが、ここに一つだけ抜け穴がある。死神にも回収されず、また関所から各世界へと移動するとき稀に道を違える魂がある。それらは、ゴーストストリート…亡霊街と呼ばれる世界へと飛ばされ生きていた時と同じように過ごすことができるが人が転生した悪魔や死神・天使が『死』を迎えた時のように二度と人間界に転生することが叶わない。その代わり、人間とは違い桁外れな身体能力と永遠に近い寿命を持つなどの特典もある。
さて、役者は揃った。この世界は、再度大戦が起こり破滅の道へ進むのか…全ての種族が戦争という事を考えない平和な道へ進むのか…それは、間違いなく平和な道へ進むだろう。しかし、今こうして『転生者』が現れたことによって各種族は行動に移した…。これにより、どちらへ進むのか…なんてどんな種族にも分かりえた事ではない。