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Heart State  作者: 鈴羅
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懐かしき世界

 翌朝は、部屋のドアのノックの音で目が覚めた。ここを訪ねてくるのは私の中で二人しか思い当たらないけど、そのうちの一人はまず訪れることがない人物なのでもう一人の方…つまり私の教育係の方だと勝手に思い込んだ。そのノックをしている相手は、一度ノックをしたのにも関わらずいつになっても私が出てこないので二回目のノックをした。

 「あっ、ちょっと待ってください。」

 とドアの向こうの相手に待ってもらうように言った。すぐに私は、ベッドから起き寝間着から服を着て身なりを整えてからドアに向かい開けた。

 「すみません、待たせてしまって…。」

 「いやいや、こんな朝早くにごめんね。」

 やはり、ノックしたのはルシファーさんだった。それも、今日はいつも着ている私服ではなく死神らしい本とかでよく見ていた全身黒ずくめの姿だった。そんな姿を驚いたように上から下まで見ていると彼の方から口を開いた。

 「…やっぱり、驚く?」

 「まぁ、直に見るとそんなものですよ…。ところで、どこかにお出かけですか?」

 「そんなところだね。でも、今日の外出には君にも同伴してもらおうと思う。」

 「私も…ですか?」

 「一応、昨日までに自分の銃との対話と基礎訓練の実習は終わったから後は応用を身につけていくだけになる。それだったら、ここにいるより外の世界を知ってもらおうと思ったわけだよ。」

 ここから、外に出られる。そう聞いただけで胸が躍った。ここに来てまだ一週間くらいしか経っていないのにも関わらず既に外の世界が恋しくなっていたのだ。でも、仕事というからには…。

 「多分、考えてはいると思うけどこれは遊びじゃなくて課外実習みたいなものだからしっかり取り組むようにね。」

 ほら、やっぱり…。

 「…それで、私の初仕事の内容って聞いてもいいですか?」

 「問題ないよ。…ええと、今回の仕事は…と」

 彼は、いつものようにタブレットPCをどこからともなく取り出し操作し始めた。おそらく上から下まで指でスクロールしていたと思われる指が止まり「ふむふむ」と声に出しながらそこに書かれている内容を読んでいく。私は、ずっとその様子を伺っていたのだが彼の顔が少し曇るようにも見えた。しかし、そんな顔はすぐにしまい込みこちらを見た。

 「さて、真希ちゃんの初めてのお仕事は…、人間界で供養される予定の人間の身体と既に死んでいるその人の魂との因果を断ち切ることだよ。」

 「それって、私見たいみたいな人の事を言うんですか?」

 「正解。真希ちゃんは、とりあえず僕がやっていることを見ていてちょうだい。」

 「分かりました。」

 そう言って、私は部屋を出て彼についていこうとした時…ドアをくぐろうとした時彼にまた止められた。

 「そういえば、真希ちゃんはまだこの服を持っていなかったんだっけね。」

 彼は、自らが来ている全身真っ黒に染めるフード付きの黒装束を指さしながら言った。

 「はい、まだ持っていません。」

 「そう。なら、作りに行こう。君が死んだときにそこらへんの数値は専門の管轄に送られているはずだから頼めばすぐにでも送ってくれるはず…。」

 彼は、またタブレットPCを取り出しどこかに電話をかけていたようだった。それこそ、数十秒という短い時間でしかなかったが電話を終えて再度私と向かい合った。

 「話の様子だと、でき次第真希ちゃん宛に届けるらしいから僕たちは一足先に現世に向かおうか。」

 「いいですか、待たなくて?」

 「彼らも僕たちと同じくそれが仕事だから、仕事のために人間界に来ることだってできるさ。例え、それが激戦区でも昼食とかを頼んだとしたら運んできてくれるから僕たちみたいな比較的前線で働く死神にとってはすごく感謝してるよ。」

 「そうなんですか…。」

 「とりあえず、行こうか。」

 彼は、おもむろに両手を叩くと部屋の真ん中に黒い球体が姿を現した。それは、ただそこに現れただけのようで黙って見ていても何も起こる気配もない。

 「これは…?」

 「これは、ワームホールといって別次元の世界とを繋ぐ道さ。これは、死神だけが使えて死神だけが通れる道なのさ。」

 というが、このブラックホールみたいな球体の中に入って行く気なんて全くない。下手をしたら一度行ったら戻ってこれないような恐怖もあった。

 「大丈夫大丈夫、これは…そう慣れだよ。」

 「でも、こんなに小さい…の…?」

 地井さん黒い球体になんか入れない…、そう言おうとした時それは身長160cm程ある私なんかは軽く追い越して…、いやむしろ私が立っている部屋より奥が黒く染まった。私は、すぐに今までそこにあった小さい球体が膨張したものだと気付いた。すると、それを待っていたのかそれが部屋の中を満たすと私の教育係であるルシファーさんはその中に入って行く。そして、私がその中に入るか入らないかを考えていると暗闇の中から手が出てきた。

 「イニャッ!?」

 思わずの出来事だったので変な声が出てしまった。

 「おっと、失礼。ビックリさせるつもりはなかった…うんなかった。とりあえず、このまま進んでくれるとありがたい。」

 「す、すいません。では、失礼します。」

 と、誰かの家の中に入るかのように一礼し私もまたその中に歩を進めていく。その中は、この世界を来たときに通ってきた道と同じように辺りが真っ暗闇だった。しかし、違うとこもあった。それは、私も死神になったことで私の前を歩き先導してくれる彼の姿を見ることができたからだ。

 「もうすぐ、着くよ。」

 彼がそう指摘したので、軽く身構えて今まで歩いてきた暗闇の中から下界に降り立った。


 降り立った場所、それは私が生まれ育った町だった。数多くの高層ビルが立ち並び、深夜帯であるのにも関わらずそのビルの隙間を縫うように沢山の人が歩いていた。

 「ここって…、もしかして…」

 「君が生まれ育った町でもある東京だよ。主に、僕やイクス先輩・ゼロ隊長の管轄がこの東京エリアなんだよ。君もこのエリアを管轄として仕事してもらう。」

 「ところで、ここでの仕事って?」

 「今日はとりあえず、既に死んでしまった肉体とこちら側に来ている魂の関係性を断つ事だな。それと、あまりやりたくはないが今ここにあるリストの中で葬儀が執り行われていない人物がいたらすぐそれの浄化を行う。」

 彼は、とても苦しそうな顔をしながら話していたと同時に渋い顔になった。そして、その意味を次第に理解していく私がいた。

 「浄化…それって、つまり…」

 「強制的に魂と身体の因果を断ち切る…いや、それ以上にその因果をなかったものにする。つまり、その人間が人間界に生まれた事そのものを抹消する。」

 全身を寒気が襲った。彼が言っていることはその人間がその世界を生きていたことを全て否定するという事だ。そして、それは同時に二度と転生できなくなるという事にもなる。何故なら、転生する為の条件として『因果』がある。人間界にはそれが残っていなければ戻ることができない。例え、戻ることができても必ずしも人間に戻れるかどうかは分からない。

 そんなことを考えていると、彼は私を見て寂しそうに哀れむように…しかしその眼差しは優しくこちらを見ていた。

 「さて、そろそろ行こうか。じゃないと、今日中に終われなくなってしまう」

 「で…でも、まだ私の服が…」

 「それは、大丈夫。もう届いたみたいだから」

 彼が目を向けるとそこには、私たちが通ってきたような黒い球体―ワームホール―があった。そこから、彼のように全身を覆い尽くす黒いフード付きの衣服(以後、黒服)を着た女性は私に彼らと同じものを渡し『頑張ってください』と言い残してから通路として使用したワームホールの中に消えていった。

 「これで…いや、まだか…。しかし、これで僕たちにまた一歩近づいたね。さぁ、行こうか。」

 「えと、それってどういう…?」

 質問を彼に浴びせる前に彼に呼ばれ近くに寄りその腕を掴むと、走り出した。そのスピードは今の私には到底無理だと思われるスピードで街の中を駆け抜けていき、ビルとビルの間を一歩で飛び越えていく。


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