出会い
ルシファーの後ろをついてきた真希は、机も椅子も何もないだだっ広い空間に来ていた。確か…、ここは屋内の…それも地上から4,5階でその上にも階層があったはずなのに扉をくぐってみれば奥行きも天井までの高さも外見からは予想できないほどとても広い空間であった。私は、無意識にポカーンと口を開け今自分が見ている景色を見てしまっていた。
「やっぱり、驚くよね。外見からは、こんなだだっ広い空間なんてあるはずもないのに…。この部屋は、僕たち死神が自らの戦闘技術などを安心して練習に励むための場所でこの世界で一番最初にできた大きな空間なんだよ。…ちなみに、これは霊力とか魔術とかで大きく見せているらしい」
「そうだとしたら、どんなに激戦を繰り広げても修復される…という事ですか?」
「正解」
そうではないと、合点がいかないのだ。ここは、練習場と聞きそれだけで誰もが予想できること…それはこの部屋の中で実戦練習を行ったりするわけなのだから当然部屋に洗浄さながらの傷跡がつくことは明白。しかし、この部屋にはそれらのものが一切見当たらない。それは、彼が言ったようにこの部屋を支えている力によって修復されるためである。
「それじゃ、まず君の相棒を呼び出してもらおうか」
「相棒?」
「そう、僕のこの『シルブレット』のようにね」
『シルブレット』…その言葉を言った時、彼の両手には銃が握られていた。確かそこには何もなかったはずなのに…。
「それって…?」
「君も死神になる時、力の球体を埋め込まれたろ?それが相棒なんだ。相棒は、自分。死神は自身の化身を武器に見立てて仕事をするんだ。だから、この武器が壊れるとその使用者も命を落とす。だから、大切に扱えよ。」
「それで、どうやって呼び出すんですか?」
「君は、もう銃と決めているのならその形状とこれから使うべき相棒の名を呼ぶ…ただそれだけだ。」
「それだけと言われても、私は銃の形状なんて分からないんだけど…」
『それもそうか』…という顔をしてまたもや何もない場所から本を取り出した。
「これには、銃の形状が載ってある。いわばカタログのようなものだ。少し、時間をあげるから選んでみてくれ。」
私は、そのカタログを手に取り中身を見た。そこには、様々な銃の写真と種類の名称・それらの銃のメリット、デメリットが記載されていた。しかし、私にはそれらの特徴や使いやすさなんてことは分からなかったので『初心者から達人まで使える銃器』という蘭から一つを選んだ。
それを見た彼は少し驚いたようにも見えたが、すぐにその顔を笑顔で染めた。
「なるほど、これを選んだのか…。」
「あの~、何か悪かったですか?」
「いや、何でもないよ。…じゃあ、その子の名前、考えた?」
「はい、決めました。」
私の最初で最後の…そして永遠のパートナーの名前は…
「『リム』…かな。」
その名前と形を思い浮かべると私を無数の光が取り巻き、包まれていく。次第にその光は一か所に集まりその塊は二つあり、その二つともそれぞれの形を構成していった。
「おめでとう、それが君の武器。これからのパートナーさ。なるほど、ベレッタにトーラスレイジングブルか…、ベレッタはオートで使いやすいし、初心者でも使いやすそうだね。変わって、トーラスはリボルバー式ではあるがそれなりの威力を持つ。」
「本当に…?」
「そんなキラキラした目で僕を見ないでくれ…というか、知らないで選んだの?」
そう指摘されて、私はいつの間にかキラつかせていた目をいつものようなものに変え真剣モードの目に移し再度彼を見た。
「僕も簡単な事しか分からないんだが、君が選んだのは『ベレッタM92』…複列弾倉を有し、装弾数は15発で9×19mmのパラベラム弾を撃つ。」
「えっと…、複列弾倉?パラベラムぅ?」
私の頭の中を『?』が飛び交った。
「普通の人生暮らしをしていたら、そうだよね…。じゃあ、順に説明するよ。じゃあ、ドラマとかで弾が入ったケースを銃の中にしまい込む様子を見たことがないかな?」
「あぁ、見たことあります。そのケースを勢いよく銃に入れて、こうカシャッっと銃を引いて撃つんですよね?」
私は、今自分が持っている銃の銃口を自分とは反対の方に向けそのままその上部を手前に引いて見せた。
「そうそう、そんな感じ。じゃあ、話は早いね。『複列弾倉』っていうのは、通常弾丸を積み重ねて装填するのだがこれは互い違いに…そう、すぐ下の弾丸が見えるように積み重ねていくものの事だよ。次に、『パラベラム弾』…この弾は撃った時の反動が弱いんだがその弾道が読みやすいってことなんだよな。」
「なるほど、大体分かりました。」
私は、今彼が言った言葉の中で重要な点のみを部屋から持ってきていたメモ帳に書き記していく。
「要するに、ベレッタは比較的打ちやすく欠点が少ないこととトーラスはリボルバー式で6発撃つと詰め替えをしなければいけないけど射程も威力も高いと…そういうことですね。」
かけてもいないのに、メガネを上に持ち上げるような仕草をしながら彼に再度確認をした。
「…ど、どこから眼鏡を。というか、ざっくりな解釈をどうもありがとう。ま、まぁ、そんな解釈で間違っていないから大丈夫だ。…あ~、あとそのどちらの銃も一発撃ったら自動で装填してくれるからいちいちレバー引かなくてもいいからな。…昔、何もわからない奴が何度も引っ張って戦闘中に暴発事件を起こしたことがある…。」
彼は、本当にアニメのように何もないはずの自分の横に視線をずらし大きなため息をついていた。その様子とそんな過去を知った私は、苦笑いをすることしかできなかった。
「さて、パートナーとなる銃が決まったという事で自己紹介をしようか。」
「自己紹介?誰とですか?ルシファーさんとは、もうしましたよね…?」
「誰と…って…、そりゃあ君が手に持っている二人とするんだよ。」
手に持っている二人?自己紹介?まるで意味が分からなかった。今、この部屋には私とルシファーさんとその横に女の人が立っていて…
「え˝~~~~~~~~~~~~~~!!」
「うわっ、どうした?」
「えっ、なんで?なんで、先生の横に女の人が立っているんですか?」
「まぁまぁ落ち着けって…。そういえば、コイツとも自己紹介しないとな。」
彼は、横にいる女性の肩に手をかけ紹介した。
「こいつは、俺の銃『シルブレット』だよ。」
「初めましてぇ、私が『シルブレット』です。銃の形は、デザート・イーグルといってマグナム弾を撃てる世界最高の威力を持つ銃でぇ~す」」
「うっ…」
なんとも、というか女の私でもうっとりするような艶めかしい声色をしていた。そんなことを察した彼はすぐさま声をかけた。
「ま、まぁ俺たちとはこれから何度でも話す機会はあるのだから次に真希ちゃんの銃たちと挨拶しないとね。…にしても、二つの銃を合わせて『リム』か。」
「なんか、双子みたいでいいじゃないですか…。というか、出てこない…。」
その銃からは、何も出てこなかった。叩いても擦っても呼びかけても出てくる気配がない。
「もしかしたら、君の銃は恥ずかしがりやなのかもしれないね。二人…いや三人の挨拶が済むまでは練習は控えた方が良いね。これも昔話なんだけど、挨拶せずに練習を開始したところこれまた暴発事件を起こしてくれた人がいたよ。だから、真希ちゃんはこの後しっかり挨拶を済ませて最低限仲良くなること。いいね?」
「オッケーです。」
その後、真希は彼と別れ部屋を出て自室へと戻る途中…
「…誰?」
部屋に戻る途中に誰かに呼ばれた気がした。周りを見渡してみたが、誰もいなかった。
「気のせいかな…?」
と彼女は、何もなかったと思い込み何事もなかったかのようにその場を去り目的地である自室へと再度向かった。しかし、その後も主の分からない声が幾度となく聞こえていた。
自室へ戻った彼女は、ベッドに身を投げうつ伏せになり枕に頭を押し付けた。普通ならば、それだけで何も見えず何も聞こえない自分だけの世界に入れる…はずだった。
「ねぇ、私に話しかけているのは誰?どこにいるの?」
問いかけても誰も何も言ってこない。でも、私がどんな顔をしているのかとか今まで何をしてたかとか、ここにいなければ…そして死神になる前に会っていなければ分からない事を話しかけてくる。
「なんで?どうして、そこまで私を知っているの?…えっ、私の心?あなたが私の心?」
話しかけてきた相手は、私自身の心だと言う二人の言葉には嘘は見られなかった。ふと、彼-ルシファー-の言葉を思い出した。
『俺ら-死神-の武器の源となるのは、自らの心が具現化されたもの』
そう言っていたのを思い出し、二つの銃『リム』を取り出した。
「これが、私の心…。私自身が望みその形を表した形…。この銃は、二つで一つ…そしてこれが全て壊れたら私も死ぬ…。逆に私が壊れれば、あなたたちも共に壊れてしまう…。それでいいんだよね?」
「『はい、それで間違いありませんよ真希ちゃん。』」
私の前に立っている二人は、声を合わせて質問に対して返答をした。目の前に立っているのは、リムが擬人化された状態のものだった。二人で一つ…、なので声こそ多少の違いはあるが容姿は瓜二つの双子という感じだった。
「やっと、こうして会話ができて嬉しいですぅ」
「お前がそんなんだから、コイツに俺たちの声が聞こえなかったかもしれないぜ。」
先に話した女の子は、大人しくそして少し控えめな性格のようにも見えたがその反面もう一人の子は、とても元気な女の子な上に活発でどこまでも突っ走りそうな性格をしていた。そして、それぞれを見分ける為に大人しい子はロングヘアーで髪の色は銀、元気な子はショートヘアーで髪の色は赤毛であった。
「ね、ねぇ。一つ聞いていいかな?」
「えと、その…。」
「いいぜ、一つと言わずいくらでも聞いてくれて構わないぜ!」
「じゃ…じゃあ、もしかしてその…銀髪の子が『シルバーレイジングブル』で赤毛の子は『ベレッタM92』…かな?」
私は、それぞれに指を差し確認するように言葉を掛けた。しかし…
「ん~、残念。私が、『シルバーレイジングブル』で…」
「わ、私が…その…『ベレッタM92』です。」
最初が、赤毛の子で次に話したのが銀髪の子だった。その理由は、聞かなくても分かる。おそらく、それぞれが互いの利点や特徴を表しているのだろう。レイジングブルは、どちらかというとロングレンジで単発が威力の強いものであり、ベレッタはショートレンジで一発一発が軽いもののとても当たりやすい性質を持つ。ロングレンジの赤毛子は、ショートヘアーそして、ショートレンジの銀髪の子はロングヘアーであった。そんな些細な…そして他愛もない事であってもこの二人の中ではとても意味のあるものなのだろう。
そんなことを考えていると、私の服を銀髪の子が引っ張っていた。
「あっ、ごめん。考え事をしていて…。」
「ううん、いいの。私たちは、あなたが人間だったころのことも知っている。だから、迷って当然…。」
「ありがとう、ええと…君たちは二人合わせて『リム』でしょ?じゃあ、一人一人の事をなんて呼べばいいかな?」
「ああ、そっか。なんでもいいぜ、マスターが呼びやすいように呼んでくれて…。」
「はい、私も同意見です。」
「それじゃあ、赤毛の君は『レイ』…そして銀髪の君は『エム』…でどうかな?」
「私が『エム』で…」
「俺が『レイ』だな。それでいいぜ、マスターが呼びやすいようにな。」
「うん、これからよろしくね。」
こうして、二つの銃に『リム』と名付けそのそれぞれの名前として、『エム』と『レイ』という名前をつけた。これで、彼女も死神としてやっていける能力を手に入れることができた。真希は、明日の訓練の為に寝床に入り既に寝息を立てている。普段は、彼女の中にリムがいるわけだがその持ち主が意識が無いまたは、死に際などは自分から姿を現すことができる。そのため、彼女たちは真希の中から出てきてこれから自分たちが住む世界を見渡していた。
「なんか、人間の頃の真希さんのイメージとは違いますね。」
「あぁ、死神ってこう…大鎌を振りかざしてバスバスと人を刈ってそうなイメージだったもんな。」
「でも…」
「うん、ルシファーとそのパートナーを見てそのイメージもなくなった。だから、私たちができたみたいなもんだしな。」
「明日は、真希さんと実戦訓練ですね。」
「出会った日の次の日から訓練とはね、死神の世界も人材不足なのかね…。」
「かもね…。」
二人は窓の縁に並んで座り、足を外に出しながら話していた。そこには、生前彼女が見ていた空も星も月でさえも見覚えのあるものではなくこの世界に来た時に見たような上が白、下が黒、そして正面を見ると灰色の平面の世界が広がっていただけだった。
「なにもないね、この世界…。」
「でも多分これこそが…」
「『今の私たちの世界』」
エムとレイの言葉が重なり合って出てきたときには、二人で顔をそして目を合わせて「クスッ」と笑って見せた。
「明日からは、私たちも頑張るよ。だから、あなたも一緒に頑張ろうね真希…。」
エムは、寝ているはずの彼女にそう声を掛けたあと彼女の中に戻って行った。彼女らは真希の心そのものであるため、真希が寝ているかそうでないかくらいは把握できるようだった。
「うん、頑張ろうねリム…。」
その言葉だけを残して、彼女もまた眠りに入った。