2 悪魔(自称)
現在、時刻は朝7時。
夏の朝というのは活気に満ち溢れている。
セミはなくし、日差しは強い。
それに悪魔もわく。
「それは違うだろ。」
「当人が否定すんなよ!お前のことだ!」
面倒すぎる事件に巻き込まれ、それが夢オチだと思いきや、その事件に出てくる悪魔が登場。
なんの冗談ですか、先生。
「お前悪魔だよな?つーことは昨日のあれは現実?」
「うんそーだよ。」
「軽いっ!?」
ちなみにこんなに僕が軽率に話せるのは。
いまだに夢だと思っている節があるのと、もはや巻き込まれすぎて怒りになり始めてるのがあるが、一番の要因は目の前の悪魔がジャージを着て、ケツをかきながらHUNTER×HUNTERを読んでいることである。
つまるところなんて情けない姿。
「お前、僕を殺しに来たのか!?」
「違うよ。そんなことより、続きある?気になるんだけど。」
「僕の命の事情より、HUNTER×HUNTER優先かい!ちなみに続きはない!それは僕じゃなく冨樫に言ってくれ!」
あんまりにもふざけた態度の悪魔は、漫画を置いて僕に向き直った。
「だからさー俺は契約したいわけ。なんせ前の契約者死んだから。」
そう言われて昨日のことを思い出す。
そういえば目の前であの白人は消えた。つまりそういうことだろう。
「ふざけんなよ!あんな自分で殺しておいて!」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。アレはアイツが自分で俺に言ってきた契約だぜ?むしろ俺だって契約は絶対なんだ。だからあれは俺じゃなくて制約がアイツを殺したんだ。」
表情も変えずに告げる悪魔は心外だとつぶやきながらあくびをする。
な、なんて気の抜けた奴。
「でもあいつは自分じゃないって言ってたじゃないか!」
そう、あの白人は自分の命令じゃない的なことを言っていた。
「いや、あれはね。えーと・・・もうひとりいたじゃん?なんかアイツに腹切られて死んじまった奴。アイツの異能力なんだけど、どうも時間をかけて人の声帯自在に操れるらしいのね。ほんでそれは意思とは関係なく発言させられちゃうから、それでああなったわけ。」
もう何から突っ込んでいいかわからなかった。
異能?悪魔?人の声帯を操る?とんでも厨二病設定だな。
「・・・待ってくれ。一つずつ聞いていいか?」
「どうぞどうぞ。」
よし。
「じゃあまず、お前は悪魔で昨日の白人はその契約者だよな?」
「いかにも」
「何の目的であんなところにいたんだ?」
なんたってここは田舎と都会を足して2で割ったような街だ。
そこの図書館であんなわけのわからないバトルをしていた意味がわからない。
「んーと、確かファウスト・・・あ、昨日死んだ俺の元契約者ね。アイツがなにやら、よからぬ企みで日本に来ることになって。そしたらそれをよく思ってないよーわからん組織が刺客を放ってきて、あれよこれよと戦ってたらアソコだった。」
全てを話し終えたと言わんばかりに悪魔はスッキリした顔をする。
「え、何。終わり?」
「うん。」
「なにそれ、お前も全然知らないままあんな殺し合いしてたの!?」
「いや、なんつーか俺あいつあんまり好きじゃなくてさ。なんか犬みたいな扱いしてきやがるからさ。そんで適当にしてたら、やれ殺せだのやれ戦えだのぬかすわけさ。俺としては気乗りしなかったんだけど、そこはほら…契約だからさ、守らないと俺が消えちまうから。」
呆れてモノも言えないとはこのことか…。
僕の脳内にあった昨日の悪魔イメージは崩れ去り、今なら僕でも勝てるじゃないかと思い始めていた。
「なんかよくわからんが、君らは僕が画面の向こうに求めている厨二病的な生活をしていて、悪いこと考える悪魔使いと、それをよく思わない異能力者がバトルして、そこに不運にも僕が居合わせたわけ?」
「そんな感じだな!昨日はごめんね!(ゝω・)テヘペロ!」
「ふざけんな!!」
それは今日一番の叫びで、のど自慢大会があれば上位を狙えるほどの魂の叫びだった。
「いいか、お前僕を殺そうとしたんだぞ?それなのにこんな図々しく家に上がり込みやがって!ていうか、お前がきてるジャージ僕の学校指定のやつだろうが!勝手にきるなよ!?」
「あ、そうなの?なんか着替えたくてさ。まぁ、服ぐらい何とでもなるんだけど。そこはノリで。」
「ノリて!」
ちなみに身の丈が会ってないのか、若干伸びてる。なんでサイズ合わないもん着るんだよ…。
「そうそう昨日殺そうとしたのは俺じゃないよ。あれはアイツが命令下したことだから、そこに俺の意思は存在してないもの。ていうかアイツと契約してから俺の意思でやったことなんて、ネット通販ぐらいだよ。」
「お前の意思が動くのそこでいいの!?ていうか、お前昨日、へへ・・・嬉しいねぇ・・・今日は二つも魂が食えるなんて…とか言ってなかった!?」
「あ、あれはキャラ設定。魂とか食わないよまずいし。普通にお茶漬けとか食ってる。」
「悪魔なのに設定重視!?ていうか、お茶漬け食ってる悪魔とかシュールすぎる!」
あまりにもまの抜ける内容に、体の緊張は全てとけていた。
だって緊張するだけ無駄なんですもの…。
「あれ、まてよ…。んじゃあ、なんで食わないのに魂を取り上げてるんだ?」
「ん?あれは契約だからね。」
なんでもないようのことに答える悪魔。
「え?魂が欲しいから契約してるんでしょ?」
「ん~、ちょっとちがう。」
そう言って悪魔はこんなことを言ったんだ。
「俺は人間がどういう選択をしてどんなことをするのかみたいんだよ。汚い事も綺麗なことも。それを思い始めたのはDEATH NOTE読んでからなんだけど、まぁ、それで俺は魂が欲しいんじゃなくて、契約してそいつの選択をみたいの。」
それっぽいこと言ってるが、漫画の影響じゃねーか!
なんでコイツはこんなに俗物なんだよ!
「んでま、元々やってた仕事でもあるからね~。」
「仕事…なのか?」
もう何が真実かわからないほどこいつの話は疲れる。
そもそも大前提として悪魔なんているかと言いたいところだ。
「そういうことで、長くなったけど、俺と契約して欲しいんだが。」
「断る。」
「…えっ?」
「いや、なんでそこで意外そうな顔できるの!?」
悪魔は割とマジでショックな顔をしていた。アホだ。
「だって、なんでも叶えるサポートするんだよ?悪魔だよ?え、なんかこう非日常の世界に足を踏み入れたい年頃とかじゃないの!?」
「ふざけろ。僕は普通に生きて、普通に死にたい。お前のような奇妙奇天烈摩訶不思議は必要ない。」
「そんな!なんかあるだろ!?こう、彼女欲しいとか、友達欲しいとか!」
「悪魔に作ってもらって何が嬉しい!悲しくなるわ!」
悪魔は柄にもなくおどおどしてる。漫画で言う周りにアセアセって感じのが出てる感じね。
非常に鬱陶しい。
「えーしようよ!絶対いいよ!」
「魂対価で何がいいんだ!」
というかこいつとアホなやりとりしてる暇はない。
「絶対いいのになー…後で後悔するぞ…」
しつけぇ。
そういえば今日から夏休みか…。
うん、ぼっちにやることなどない。
でも、とりあえず、買い物がてらにデパートに行くことにしたのだが…。
「何買うよ?俺服とか全然選ぶぜ。」
「帰ってくれ…。」
この悪魔はついてきたのである。
「あの服とかどうじゃ?なかなかかっこいいと思うぞ。悪魔的で。」
指差す方に渋々顔を向けると、ドクロや十字架でゴテゴテの服専門店があった。
「あーそのちょっと違うかなぁ~…ははは。」
もはやどうにでもなれ。そんな心の声は届いてるのかどうなのか。
「つっても何買うんだ?」
「…普通に本とゲームだよ。」
同人誌とギャルゲーだけど。
このデパートには大抵の店が揃っていて、今から僕が買う品もひっそりと5階のワンコーナーに売られている。
「それと勝手な行動はするなよ。」
悪魔なんだからと続けようと隣を見れば、噴水のモニュメントの龍によじ登る影を捉えた。
「すでに勝手な事してらっしゃる!?」
いそいで駆け寄り、叱りつける。
「あのな!お前常識を考えろ!こんな人の多い場所で何故そんな奇行を…。」
「いやー、なんかアトラクション的な要素かと思って。」
「どこの世界に龍の銅像に登るアトラクションがあるんだよ。」
なんとか引きずり下ろし、事なきを得た(?)が、周りの視線が痛い。
「ほら見ろ、お前のせいでこんなにも奇っ怪な目線が飛んでくるじゃないか。」
「え、俺のせいなの?」
「お前つい10秒前まで何してたかわかってる!?」
なぜかこいつには納得のいかない顔をしていた。
いや、君なんで素直に反省できないの?
「…はっ!」
「おいどうした、もう変なことするのは…。」
「いや、なんでお前が勘違いしているのかわかった。」
「?」
勘違い?何をだ?お前の存在か?それならそうかもしれないな、ただのアホにしか見てないからな。
「お前はさっき視線が痛いと言って俺のせいにしたが、あれはお前を見てるのだぞ。」
「何ふざけた事行ってやがる。僕のどこがおかしいんだよ。」
「何しろ今俺はお前以外に見えないようにしてあるからな。」
なんだそんな事。それじゃあ僕が一人で喋ってるように見えてるだけだろ?何もない空間に向かって怒鳴りつけてるように見えるだけだろ?それが…
「完全に僕変な奴じゃねぇか!?」
「うん。そうだねww」
「うんじゃねぇ!お前なんで言わないの!?え、何。じゃあ僕はずっと見えてもないお前に対して喋ってるわけ?そりゃああんな目をするよ!つーか何が「www」だ!お前が笑える立場か!」
「おいおいそんな大声だしたらまた変な目で見られるだろうが。目立つことするのはよしてくれよな。ここは公共の場だぞ?」
「え、これ僕が悪いの!?何この感じ!こわっ!」
しかし、悪魔は可愛そうな目で見てきているという始末。
僕は間違った事はしていない!!
それでも、結局痛いのは僕だった。色々な意味で。
結局そそくさと買い物を済まして帰宅することにした僕たちは、日も落ちないうちにデパートを出た。
いや、出ざるを得なかったよ!
「そう怒るなよ、飴玉もらえたじゃないか。」
「僕は子供か!それにその飴だって僕を不憫に思ったおばあさんが情けでくれたものだろうが!僕は好意と非難の狭間を見た気がするよ!」
「どうどう。」
「こいつ…。」
なんやかんやあったが、気がつけば時は流れていた。
僕自身、誰かと買い物することなどきっと小学生以来のことなので、何とも言えない気持ちになった。
もちろん…いろんな意味で。
そんなさなかの事であった。
古臭い本屋の前を通り過ぎる直前。何かにぶつかった。
「キャッ!」
軽い衝撃と共に大量の攻撃が僕の体を襲う。
「うげっ!!」
妙に固くて重いものが大量に落ちてきて、なかなかに痛い。
ていうか、これは…本?
「す、すいません!」
すると目の前で尻餅をつく女の子が一人。
メガネをかけた黒くて長い髪の子で、綺麗な髪なのに、気を使ってないのかボサッとした印象を受ける。
急いで本を集めるあたり、この子のものだろうか?
「すいません…怪我はないですか?」
そう訪ねて腰をあげる僕を、見上げた女の子の目はとても綺麗で。
「あ、はい、こちらこそ不注意でした。」
整った顔立ちが日差しに照らされて。
「申し訳ないです!」
そう言って悪魔に頭を下げたのだ。
「‥‥‥‥‥‥へ?」