1 事の始まり
全てはあの日に始まったんだ。
それは真夏のうだる暑さの中の出来事。
僕は夏休みに以降するという歓喜に満ちあふれた教室の中で、ひとり席に座っていた。
周りの生徒は全員早くHRが終わらないかと浮かれている。
ここは市立無節操学園、僕が通う高校だ。
可もなく不可もない中流な高校で、とくにこれといった取り柄がない普通の学校である。名前以外は…。
ていうかこの名前考えた奴すごいな?
いや、それを採用した学園側がおかしいのか?
「では、真面目に過ごすように」
そうこうしているウチに、HRが終わり、学校生活の短いスパン、1学期が終わりを告げた。
蜘蛛の子散らすように生徒たちは校舎を飛び出していき、今後の予定に胸を躍らしている。
え、僕?
僕はそんなことしないスマートに帰宅するだけだ。
人間同士の関わりは非常に面倒事が多い。
それを知っている僕はクラスでも意識の外にいるように心がけている。
…決してこれはぼっちなことを隠してるわけじゃないんだからね!
しかし、僕も道に迷いし学生。
ただ家に帰るには少々早いと重い、図書館を訪れた。
ここは良いところだ、人は少ないし、静かだし、涼しいし。
ちなみに目当ての本はもう読んでいる。
マイブームとして、図書館の中でもなるたけ卑猥な本を読むと言うのがあるのだ!
いやこれは決して性的な話じゃないぞ?
僕は後学のために保健体育の分野として読んでいるんだ!
え、カバーが違う?
それは細かい話だ。
むしろ、係の人が見守る中で、堂々とこの本を読んでいることがいいのだ。
背徳なんだ。
「ふー、勉強になる」
そんな風に独り言を言って、本を棚に返す。
『羅生門』とかかれたカバーを外さずに、次の人が読んだときにギャップに焦るさまを想像し、少し楽しくなった。
そんな馬鹿なことをしていながら、クーラーが一番効いている奥の席につき、ひとり物思いにふける。
今頃学生たちはボーリングやカラオケに行ってるんだろうな~。
まぁ、僕には関係ないけどね。
あんな集団でムレる行為の何がいいのか?
でも、一人でそういう場に行くのはなんか違うもんな。
決して僕は一人でボーリングに行ったり、カラオケ行ったりしてないぞ?
虚しくなんかないぞ?
しかし、この席の心地よさは異常だ。
涼しいなか、こんなにも静かでゆったり時間が流れるなんて、とても眠く・・・なる…じゃないか…。
「うーん、寝ちゃったな」
仕方ないよな。
眠いんだもん。
と思ったのは束の間。
「あり?」
見渡せばあたりは真っ暗だった。
恐ろしく静かな中で、窓の外では月が見下ろしている。
え、夜?
なんで?寝すぎたの!?
そう思い、時計をみれば、深夜2時。
いや、これ寝すぎた奴!?
え、ていうか、なんで誰も起こしてくれないわけ?
係りの人は?職務怠慢じゃない?
なにか?僕の存在感がなさすぎて気づかなかったのか?
「あんまりだな!?」
自虐も程々に、冷静に状況を考える。
流石にこれはやばい。
ウロウロしてみたが、誰もいないし。
扉は全て施錠されてるし。
完全に閉じ込めれていた。
「あ、そうだ、携帯」
なんて間抜けなのだろうか。
こういう時の携帯電話じゃないか。
あー助かった、いやー買っといてよかったなー。
非常時ってのは忘れた頃にやってくるもんな~。
しかし。
「ない」
そこを探してもなかった。
カバンのものをひっくり返したし、ポケットも全部探した。
なんなら全裸になった。
ちなみに、公共の施設で全裸になるのは半端ない開放感だった。
くせになりそうだぜ…。
そこで僕は思いだす。
携帯なんて使わないからベッドの下に転がっていることに。
そりゃそうだ、母親ぐらいしかかける相手がいない携帯なんて邪魔なだけなのだ。
馬鹿な奴だよホント、携帯電話なのに携帯してないんだから。
ぼっち故にか…。
あぁ~。
跪いてorzの体勢になっていると、明かりが見えた。
「ぬ?」
それはこの図書館の向かいの棟である、B棟から見えた。
渡り廊下は生きているので、ここからならあっちに行ける!
「キタ――(゜∀゜)――!!」
僕はすかさず走り出した。
「…だ、だぁれか…いまふぇんか?」
緊張で裏返る声で呼びかけるが、静かなまま。
B棟についたものの、明かりなどついていなく、A棟となんの代わりもなかった。
見間違いなのか?
僕の脳が助かりたい一心で見せた幻なのか?
だとしたら変な希望見せるなよ僕の脳!
「なんだよくそ」
そう言って本棚を蹴ると、上から何か落ちてきた。
暗い中迫ってくる何かは、僕の眼前に広がり、その形が人だと分かる頃には、遅かった。
「どぅああああ!?」
何!?泥棒!?
そんな影が、床に転がるさまを横で眺め、あっけに取られていると、おもむろに影は立ち上がった。
「くっ!?」
そんな吐息を吐きながら、影は上を見上げている。
なんなんだよ一体?
不審な感じもするが、僕はこいつに話しけけて見ることにした。
「あ、あ~こんばんわ~…えぇと、あなた係りの人ですか?僕閉じ込められたんですけど…あ、アクロバットの練習中でしたらすいません」
すると影は、僕の方に顔を向け、近づいてきた。
闇になれた目が捉えたのは、冴えない男の姿だった。
「なんだお前!?」
息もキレキレに男は会話におおじる。
いや、いま説明したのに…。
「で、すから…ぼくはうっかり閉じ込められただけの善良な…
瞬間――全てを言い切る前に、僕の目の前を赤い一筋の光の糸が走る。
それはまさに閃光のようだった。
「うわあああああああ!」
途端に男は叫び、同時に倒れ込んだ。
「うわぁ!?何!?持病の発作でも!?」
驚きながらも、男に近寄ると、何かで足が滑った。
それも、ヌルリとした感触で。
「どぅえぇええ!?なんぞ!?」
尻餅をつきながら、痛む腰をさすっていると、手にも何かがついていると分かる。
それはヌルリとしていて、暖かく、鉄のような匂いが立ち込めている…そう血みたいな…
「血だぁ!?」
ショックで固まる中、よく見れば、あたりに血が広がり、その真ん中にうずくまった男の背中があるを発見。
近づいて更に衝撃。
男の背中は何かで切られたような傷がパックリ広がっていた。
え、これやばいだろ?
死ぬぞ?
「あ、あの大丈夫で‥」
声をかける寸前、弱々しく動く男の後ろから、コツリコツリとこちらに向かってくる足音が聴こえた。
そちらに目を向けると、白人の男がいた。
「どうだ?のたうち回る気分は?」
男は見下ろしながら、嘲笑っている。
って、この感じ…なんかまずくね?
「ク・・・くそう!」
「私に逆らうからそうなるんだ、馬鹿め」
龍著な日本語で、白人は男を見下ろす。
その立ち姿はまるで勝者と敗者だ。
「さて、止めの・・・ん?」
そこでようやく白人が僕に気がつく。
いや、いっそ気がつかないでほしかった。
「なんだ貴様?どっから入った?」
いや、入ったというか…もとからいたというか…。
ともかく、何か話さないとやばい…きがする!
「いや、えっと僕はここに閉じ込められていただけのしがない学生です!」
よし、どもらずに言えた!
これでわかってくれるだろう!
「貴様…新手か!?」
え?新手?そんな名前じゃないですが…。
なんか、警戒されてる?
「いえ、ぼ、僕は神木澤といいまして…」
「二人も刺客が来るとは…日本もやるな!」
いやいやそんな中二病的な話じゃなくてだな…。
「いいだろう…相手してやろう…お前もこの男のようにひれ伏せばいい!」
「いや、話きけよ!?」
あ。
「…ほう、いい度胸だ…。お前には最大の痛みを与えよう…。」
やべぇ、絶対怒ってるよ。
でも、全然話聞かないんだもんな。
って、そんな余裕出してる場合じゃない!?
これ絶対やばい話だよね!?
犯罪組織!?なんなの!?
「メフィスト!こいつを殺せ!」
その声と共に、図書館の中の闇が蠢き、白人の横に集まっていく。
おいおい冗談だろ?ここはHELLSINGの世界か!?
「了解した」
そして闇が一つの姿に形を変えていく。
それは2mはありそうな大男のようで、しかし、人間じゃない…そんな空気を出していた。
「よくわかったな。俺は悪魔だ。今からお前の魂を食う」
だそうです。
じゃねぇ!
悪魔!?なんだよそれ!?非科学的すぎるだろ!?
「悪く思うなよ?これも命令だ…」
その言葉とともに、悪魔の影が揺れる。
その瞬間、映画をコマ送りにしたように、悪魔が僕の前に移動していた。
え、何?瞬間移動!?
「どうぇくぁあlsふじこ!?」
錯乱寸前の僕を掴み、赤子を持ち上げるように、掲げられた。
首がしまり、息が苦しい‥。
「最後に言い残すことは?」
悪魔はそう言って何かを待つように笑った。
おいまじか。ここで死ぬのか僕。
そりゃあ大したことない人生だけど、こんな不条理に死ぬのはさすがに嫌だぞ?
あぁ、でも無理だ。走馬灯見える。
これダメなやつだ。うわぁ、母親の顔浮かぶじゃん。
あ、これは小学生の時の誕生日だ。
確かこの時は好物のカレーが。
「あぁ~…カレー食いてぇ」
え、これが遺言!?
流石にダメだろ?なんつー言葉だよ!
家族聞いたら泣くわ!
言い直したいけど、無理そう。だって、もうなんか右腕で殺そうとしてるじゃん。
なんか鋭い爪で貫こうとしてるじゃん。
絶対痛いじゃん。
あぁー死にたくねぇ!!
「じゃあな」
そう言って無慈悲な鉄槌が僕の喉を掻っ切る…寸前で止まった。
え、奇跡キタ?
『やめろメフィスト…』
それは白人の命令だった。
なんだこいつ?殺せって言ったりやめろって言ったり。
しかし、様子が変だ。白人は確かにやめろと言っているが、その顔は酷く歪み、首をブンブン横に振っている。
『やっと術が発動した…これでお前の声は俺のものだ‥』
そう言いながら白人は汗を垂らす。
なんじゃあいつ?おかしくなったのか?
『メフィスト!俺は契約破棄する!』
その瞬間、僕の目の前にいた悪魔は、白人の隣に移動していた。
いきなり、消えたもんだから、僕の体は地面に落ちて、受身も取れなかった。
「っ!!…戻った…!ち、ちがうぞメフィスト!今のは俺じゃない!」
白人は焦りながら何かを取り繕っているが、悪魔はそれをおかしそうに笑うだけだ。
「いや、ファウスト今のはお前が言った言葉じゃないか」
「違う!!あれは俺の声を乗っ取ったアイツの言葉だ!俺じゃない!」
「残念だなぁ…契約破棄だなんて…」
後ずさり震える白人の男を、ジリジリと追いかける悪魔。
何が起きたのかわからないが、状況は一変したようだ。
「じゃあ…対価をはらってもらうぞ」
「やめろぉおおおおおおおおおお!!!」
その叫びが白人の断末魔となった。
いや、それはどうなのかわからない。
なぜなら、彼の姿は編集で消したかのように、そこから消えていたのだから。
「……やった……これで……勝利…だ…」
その息絶えたえな声は、血まみれのもう一人の男から聴こえた。
これは彼の最後の言葉だろう。
その後かれの身体が動くことはなかったのだ。
「なんだこれ…」
そしてこれは僕の言葉。
僕もそのまま意識を失った。
「うわあああああああ!!」
目が覚めるとそこは僕の部屋だった。
え、まさかの夢オチ?
なんだよそれ。
「でも良かった…あんな現実があってたまるか」
「おはよー」
そうだあれは僕の夢なんだ。
ひどい夢を見たもんだよ。疲れてるのかな。
「うなされてたなー、大丈夫か?」
ゆ・め・な・ん・だ!
だからこれも幻聴だ!
「いや、現実から目そむけんなよ。別に夢に出てやることもできるけどな」
「夢であってくれ!!!!」
目を覚ましたのは僕のへや。
けれど。
その横には昨日の事が現実だという証明のように、悪魔が座っていたのだ。