はじめての彼氏
こんにちは。
幼なじみという響きにとても憧れてまたちょっと書いてしまいました。
どこかで見たような内容なので止めようかなと思いながら投稿してしまいました。
時々、更新していきたいなと図々しく思っています。
「はあ?今なんて言った?もう一回言ってみろよ。」
健太は、わたしの言葉にキレたように大声を出した。
わたしは彼のあまりの怒りようにちょっとびっくりして、ビクつきながらも慌てて話す。
「だから、あのね、さっきも言ったけど優花に彼氏が出来たの。それでね・・」
だけど、どうしてもおっかなびっくりになってしまう。だってこんなに怒ってる人に頼み事を今からしなきゃいけないんだから。
健太の額には今にも青筋が何本も立ちそうだった。
「・・それが俺に何の関係がある?お前、今俺が何をしてたか分かってるのか?」
健太はテレビのリモコンをブルブルと振るわして目の前に突き出してきた。
「分かってるよ。だけどわたしのことガン無視してたじゃん。仕方ないからテレビのコンセントを抜いただけだよ。」
「仕方がないだと?」
彼は青白い顔を更に青くして、わたしを睨んできた。
わたしの目の前で怒りを爆発している小野健太は、わたし谷本香澄のお隣さんで同い年の十六才だ。
わたし達は、いわゆる幼馴染みってやつで、産まれた時から始まって幼稚園、小学校、中学校とずっと一緒だった。
いくらお隣だからといって何故産まれた時から?という疑問の理由はわたし達の母親にある。
わたしのママと健太のママは学生時代からの親友だ。親友同士の二人は結婚してからも仲が良く、何処へ行くにも子供のわたし達を一緒に連れて行った。
お陰で下手な兄弟よりもずっと濃い付き合いを、わたし達は幼少時よりしてるわけ。
ま、高校は学力の都合でわたしは滑り止めの女子高に通うことになって離れてしまったけど、今でも付き合いは続いてる。
―――と思ってたのは、どうやらわたしだけだったみたい。
最近のこいつは・・ううん、もう随分前から、わたしのことを避けている気がする。
もっと詳しく言うと、わたしを避けると言うより、リアルに興味が無くなってしまったらしい。
彼にとって一番大切なのは趣味のアニメを観る時間。
そう。彼はいつの間にか立派なアニメオタクになってしまった。しかもジャンルは美少女戦士物アニメと言う・・・痛い趣味だ。
わたしはこちらを睨み付けて微動だにしない健太を見た。
彼は、楽しみにしてた美少女アニメの再放送の録画を、わたしに邪魔され失敗したことが許せないらしく、怒りが収まらないようだった。
オタクだと言う色眼鏡で見なければそれなりに可愛い顔しているのに、惜しい奴だ。
スポーツをしてない為に華奢な体と白い肌、適当に散髪して伸びてしまったお洒落じゃない髪形とかが隠してるけどね。
色々と彼の容姿に対する不満は浮かぶけれど、わたしにはこいつしか身近な男子の知り合いがいない。
情けないけどこの年になるまで男の子と付き合うことはおろか、友達付き合いさえまともにしたことがなかった。
やっぱり健太に頼むしかないのだから多少のことには目を瞑らなきゃ。
わたしは今日のお昼を思い出していた。
「ちょっと、香澄、優花に彼氏が出来たんだってよ!」
わたしが購買でパンを買っている間に優花は皆に一大発表をしていた。
「やだ、美波。大きな声で言わないでよ、恥ずかしい。」
優花は恥ずかしいと言いながら、目線をこちらに送りニタニタ笑って満更でもなさそうだ。
「優花、本当?」
彼女は恥じらったように頷く。美波が口の中をおにぎりでいっぱいにして喚いた。
「なんかね〜、今朝告られたんだって!駅でさあ。」
「隣の男子校の人なのよ。いつもわたしのこと見ていたんだって〜。」
そこでキャーと二人は大きな声で笑った。美波の口から出たご飯粒がわたしのとこまで飛んでくる。
わたしは軽くご飯粒を払った。
「あんたら、彼氏ごときで興奮するな。」
一人冷静に食事をしていた沙織が呆れたように言って弁当箱を置くと笑顔になった。
「おめでとう!優花。苦節十六年、やっと彼氏持ちになれたね。」
「ありがと、沙織。合コン行ったり、紹介行ったり、色々やったけど告白されて彼氏が出来るとは思わなかったよ。」
結局、三人はワアワア言ってる。きっと沙織も入れて彼氏がいる仲間同士の連帯感でも生まれたのだろう。
優花に彼が出来て、ちょうど二対二に綺麗に分かれていたわたし達のバランスは崩れてしまった。
わたしは何となく居たたまれなくなる。彼女達に存在を気付かれないようにそっと座った。
だが、それは無駄なことだったみたい。
三人は、こっちを一斉に向く。・・・嫌な予感がした。
「ねえ、香澄はどうなの?」
優花がわたしの顔を見て期待に膨らんだ視線で聞いてくる。
あんたね、昨日まで一緒に彼が欲しいと言ってたよね。同じような奇跡が同時にわたしにも起こると本気で思ってるわけ?
わたしは額に手を当てて、
「わたしにはいないわよ。」
と、言おうとした。
「で?それが俺とどう結びつくんだ?さっぱり分からないね。」
健太の怒りは収まるということを知らないらしい。わたしが原因だから仕方ないけど。
「話は最後まで聞いてよ。言い難いこと言うんだからこっちだって勇気いるのよ!」
「はあ?お前の話はさっぱり分からないね。ダラダラと訳の分からん説明しやがって。要点を簡潔に言え!俺は時間がないんだ。」
(なによ!キモいアニメ観るだけでしょ。このオタク!)
わたしはそう言いたいのをぐっと飲み込んで我慢した。危ない、危ない、気を付けなきゃ頼み事なんて出来なくなる。
もう昼の過ちは繰り返す訳にはいかないのだ。余計な一言は我が身を滅ぼす。
「ムリムリ!この子に彼氏なんて!」
わたしが何かを言う前に突然、美波が割り込んできた。
彼女はおにぎりの次に唐揚げで口をいっぱいにしている。そして箸を振り回してわたしを見て笑った。
「だって見てよ、この子。メイクどころか日焼け止めすら塗らないのよ。唯一塗ってるリップクリームはメンソレータムのだよね?」
そしてバカ笑いをした。後の二人もクスクスと忍び笑いをしてる。
わたしは腹が立った。何がいけないのよ。あんたは物を食べる時は口を閉じると習わなかったの?
「とにかく女子を捨ててるのよ。こんな奴に彼氏なんて・・・」
「いるわ!」
気が付いたらわたしは顔を赤くして叫んでた。
三人は呆然として見ている。少しだけ気分が良くなった。
「いるわよ、彼氏。」
だから大胆にも余裕の笑みで、はっきり彼女達に言ってしまったのだ。
「そうしたら、皆が嘘〜って言っちゃって、大騒ぎになって、お昼どころじゃなくなって、わたし今日昼抜きよ。ま、授業が終わった後に全部食べたけど。」
わたしはアハハと健太に笑い掛ける。
だけど、健太は全く表情を変えずに黙っていた。さっきまであんなに興奮してたのに怒りのピークを越えたらしい。
「それで、今度、お互いの彼氏を連れて一緒に遊ぼう、ということになって・・」
「おい、香澄。」
「え、何?」
わたしは、耳を疑っちゃった。だって健太がわたしの名前を呼ぶなんて何年ぶり?思い出せない位久し振りだ。
「その話、後どの位聞かなきゃいけないんだ。お前、俺に自慢しに来たのか?」
彼の目は完璧に座っている。ヤバい早く本題に入らなきゃ。
「違う、違う、自慢だなんて、だってわたし彼氏なんていないもん。」
健太は目を見開いた上に口をポカンと開けた。
「は・あ?」
わたしは驚いている彼に畳み掛けるように言う。こういうことは相手に考える隙を与えては成功しない。 なし崩しに承諾させてうやむやのうちに既成事実にしてしまうのだ。
「だから、健太。わたしの彼氏になって!お願い!」
「はああぁ〜?」
健太は思い切り気の抜けた声を上げた。