9番目のお話
とんがった音をバキバキたてて、小さな木々がなぎ倒されていきます。
まおくんは驚いて立ちあがりました。
やってきたのは黒く大きな熊でした。あの毛皮をかぶったら、まおくんが6人くらいはすっぽり入ってしまうでしょう。
まっ黒の大きな毛皮は、どんどん、どんどん近づいてきます。ものすごい速さです。大きな熊は腹ぺこで、「えさ」を見つけたものだから、喜んで駆けつけたのかもしれません。
がおっ! とお口を大きく開けたら、まおくんなんて、ぺろりと頭からひと飲みです。
まおくんは逃げられませんでした。すくんでしまって動けないのです。ぎゅうぅっと固く目をつぶりました。ああ、どうしよう!
ぼく、クマさんに食べられちゃうよ!
きっと、森のオキテでは、言うことを聞かない悪い子は、クマさんに食べられちゃうことになっているんだ!
黒くて大きなその熊は、どんどん、どんどん近づいてきます。
キキィ──ッと、まおくんの目の前で、急ブレーキをかけました。体は前を向いたまま、ひょい、と顔だけ振り向いて、まおくんの顔を、ぎょろり、と見ます。
「困っているのは、あんたかい?」
すばらしく張りのある低い声です。
それは《 オレがやるクマどん 》でした。
頭のてっぺんから足の先まで、黒くてつやつやの毛皮です。あの《 ものしりフクロウ 》が呼んできてくれたようなのです。
まおくんは、わけを話しました。
「ぼ、ぼ、ぼく、森の出口を探してるんだけど……」
《 オレがやるクマどん 》はとてもとても強そうなので、ほんのちょっぴり逃げ腰です。でも、こうしてわざわざ来てくれたので、笑顔はちゃんと作ります。礼儀ですから。
《 オレがやるクマどん 》は困った顔で見まわすと、ぶっとい腕で黒毛皮の頭をかきました。
「……けど、オレは、里に行ったことなんかないからなあ」
「え? ないの?」
「うん。ない」
《 オレがやるクマどん 》はきっぱり言って、うなずきました。どうやら本当に行ったことはないようです。けれど、それなら、どうして《 ものしりフクロウ 》は《 オレがやるクマどん》を呼んできたりしたのでしょうか。
「変だなあ……?」と一人と一匹は首をかしげます。
肝心の《 ものしりフクロウ 》は待てど暮らせど戻りません。いつまでも、ここにつっ立っていても、これではラチがあきません。
《 オレがやるクマどん 》がしびれをきらし、のっそり体を返しました。そして「じゃあね」とまおくんに手を振りました。
その時です。
※ 続きます。