3番目のお話
あっちかな? こっちかな?
出口はどっち? コンコンコン。
まおくんは森の中を歩いていました。
出口がどこにあるのか聞きたいのです。誰かいないでしょうか?
すると、
「どうか、したのかい?」
誰かが声をかけてきます。
そこにいたのは《 タヌキどん 》でした。
右手に「かよい」、左肩からは、自分のおなかほどもある、大きな「とっくり」を下げています。
「タヌキさん、タヌキさん、森の出口を教えてよ」
《 タヌキどん 》はふんふん言いながら聞いています。
実は《 タヌキどん 》は修行中です。たぬき族にとって一番大事な「化け学」の単位を落としてしまったのです。
まだ修行中の身の上ですから「とっくり」があっても、お酒を飲むことはできません。それは全国たぬき協会の「きやく」によって、きちんと決まっていることです。たぬき社会のルールですから、守らなくてはなりません。
けれど、たぬきの「大とっくり」は、右手にさげた「かよい」と共に、たぬき一族の由緒正しきアクセサリーですから、いつでも、どこでも、どんな時でも、ちゃあんと持っていなければなりません。それもやっぱり、全国たぬき協会の「きやく」で決まっていることです。
修行中の《 タヌキどん 》は「おいらにも《 ものしりフクロウ 》くらいに知恵があれば、落第なんかしなかったのになあ」と照れたように笑いました。そして、
「ふーん、そいつは難儀なことだなあ……」
困ったまおくんの顔を見て《 タヌキどん 》は助けてあげたくなりました。
世の中はもちつもたれつ「助けあい」です。それは《 タヌキどん 》のざゆうのめいです。全国たぬき協会の「きやく」でも、たしか、そんなふうになっていたはずです。じっちゃんからも、ばっちゃんからも、たしか、そう聞いています。
《 タヌキどん 》は、うん! と大きくうなずいて、どん! とたのもしく毛皮の胸を叩きました。
「おいらにまかせといて!」
《 タヌキどん 》はとっても親切。だから、本当は知らないことでも、ちゃあんとまおくんに教えてあげます。
「ありがとう、タヌキさん」
「いいってことよ!」
まおくんは両手を振って意気ようようです。
《 タヌキどん 》は毛皮の腕を振りながら「いいこと、したなあ」と思いました。良いことをした後は、とかく気分がいいものです。
なにを隠そう《 タヌキどん 》は、生まれてこのかた、森から出たことはありません。
※ 続きます。