12番目のお話
広くて深い、まっ暗な空から、白いものが落ちてきます。
それは、ふわふわ宙をただよって、やがて、ふんわり、とまります。
四角く区切られた道の上に。
赤や青の屋根の上に。
にゅっとつき出た煙突の上に。
外は珍しく雪でした。そして、空はまっ暗です。
上はまっ黒、下はまっ白。町の様子が、いつもと全然ちがいます。
まおくんの町は、どこもかしこもまっ白け。いつの間にか降りだした雪が、町も、森も、すっぽり包んで、白い真綿でおおっています。
まおくんは首をひねりました。
今まで、ちっとも寒くなかったのに?
森の木々がざわざわ揺れて、ぶあつく枝葉を広げていました。精一杯に高く、精一杯に広く伸ばして、雪と風の寒さから、森の住人を守っています。
「じゃあね。オレはここで帰るから」
森の出口にたどりつき、《 オレがやるクマどん 》が言いました。
「うん、じゃあね。ありがとう、クマさん」
まおくんは、でっかい肩から、もそもそ下ろしてもらいます。
《 オレがやるクマどん 》は満足げです。一度言ったことは、やるのです。やると言ったら、やるのです。誰がなんと言っても、やるのです。「有言実行」がざゆうのめいです。
ぶんぶん2回、ぶっとい腕を振りまわし、《 オレがやるクマどん 》はのっそり体を返しました。どっしり大きな黒い背中が、森の奥へと帰っていきます。それに手を振り、まおくんも、おうちへ向かいます。
くう……とおなかが鳴りました。けれど、もう、だいじょうぶ。目印の鉄塔はすぐそこですし、おうちに帰れば、温かいご飯が食べられます。6時から始まるテレビ・アニメ 『 こども名作劇場 』 にも、ぎりぎりセーフで間に合いそうです。
ノッポの赤い鉄塔は、まぶしいほどの、きれいなあかりを、たくさん、びっしり、まとっていました。白い雪が舞い散る中、ぴかぴか、きらきら光っています。まるで大きなクリスマス・ツリーのように。
チカチカ光るまたたきは、こんなふうに語りかけているようでした。
さあ、早く帰っておいで。
ひとつ大きくうなずいて、まおくんは安心して歩きだしました。こんなに大きな目印ならば、迷うことなどありませんから。
その時でした。
森の端の暗がりから、ぴょ~んっ! と「それ」が飛びだしてきたのは。
おうちへ向かう、まおくんの後を、外に向いた平べったい足で、バタバタ、バタバタ、追いかけていきます。
「いそげー! いそげー! ああ、間に合うかな? 間に合うよな?」
柔らかそうな毛皮の「それ」は、首から下げた金時計を、何度もしきりに見ています。
森に入って初めに出会った、あの《 ちくたくウサギ 》でした。
《 ちくたくウサギ 》は金時計を握りしめ、ぐいっと前を向きました。
「ボクのドジ! 大事なステッキを忘れるなんて! 早くしないと、ボクの出番がきちゃうじゃないかあ!」
とても、あせっているようです。
まあ、それはそうかもしれません。だって、早く行かないと、
6時からのテレビ・アニメ 『 不思議の国のアリス 』 が始まっちゃうのだ!
空一面の星々が、キラキラ、ぴかぴか瞬いていました。
「ただいまあ! おかあさん!」
おうちの玄関を元気に開ければ、明るい光があふれ出ます。ふと、まおくんは背中の森を振り返りました。
まっ黒で大きい《 ぐるぐるの森 》が、どこまでもどこまでも広がっていました。
白雪舞いちる銀の世界は、底知れぬ闇をいっそう深め、いよいよ森は夜の色。木々の上には、まっ白い雪が、しんしん、しんしん降り積もってゆきます。
でも、森のみんなはだいじょうぶ。森は木々の枝葉を伸ばして、ぶあつく大きな屋根となり、冷たい雪や強い風から、森のみんなを守ります。
枝葉の下はあったかで、とても広々安心で、だから森の住人は、わいわい、がやがや、今日も元気に暮らします。
木々が笑っているようでした。
つないだ手と手をそおっと離して、ざわざわ梢をゆらします。
ばいばい、またね。また、おいで。
吸い込まれそうなまっ暗な空から、静かに雪が舞いおりていました。
~ ぐるぐるの森 おしまい ~
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かりん