目覚め
更新遅くて本当に本当に申し訳ないです。
修正を加えたので、一つ前の話からお読み下さい。
「視線?」
夜の寝室。
妖美な雰囲気の人魚はわたしの言葉に小さく首をかしげた。
「そう、あれが殺気というのかしら?視線だけであんなに背中がゾクゾクしたのは初めてよ」
交流会で感じた視線がどうしても気になったわたしはナナリを呼び出したのだ。
しかしこの様子だとナナリもその正体を知らないのだろう。
「天子様は救世主。愛されることはあっても憎まれるのとなんてあるのかしらねぇ」
ナナリは微笑みながらそう言った。
「万人に愛される人なんていないわ。理由は知らないけど天子を憎む人もいるでしょ」
わたしは素っ気無く答えた。
そんなわたしにナナリは笑みを深める。
「まぁ、前の天子様のこともあるし、天子をまだ不審に思っている人がいることも事実。そう気に病むことはないんじゃない?」
ナナリの言葉にそれもそうなんだけど……と思うが、気になるものは仕方がない。
何かが引っ掛かるのだ。
この世界に来て、王子や衛兵たちに酷く扱われた時に感じていた視線の痛みとは違う。
それが何かは分からないが……
「何かが引っ掛かるの、何か違ったの」
「そう言われてもねぇ」
ナナリは困ったように頬に手を当てた。
「闇にも辺りを探らせましょうか。夜の警備なら人より何十倍も優れていてよ?人に任せているよりはましだわ」
「……レヴォラさん、本当に警備を増やしたのね」
窓の外に目を向けるといつもより多くの衛兵がわたしの部屋の周りを見張っている。
虫1匹近づけませんと意気込んではいたものの、ナナリがこの部屋に侵入できている時点で彼らの警備は失敗に終わっているのだが……。
「あなたが何者かに狙われて困るのはこちらも一緒。昼間は人に任せるとして夜は私たちにまかせなさいな」
確かにそのほうが安心だ。
「よろしくナナリ」
わたしは言いながらあの視線を思い出していた。
突き刺さるような視線。
出来れば二度と会いたくはない。
「あぁ、それからねカノン。こっちも1つ話したいことがあったのよ」
「何?」
わたしは首をかしげながらナナリを見た。
「ふふ、実はね」
そこで、わたしはナナリの異変に気がついた。
いつもより、声が明るい。
「あの方が先日、目覚められたの」
そう言ったナナリの顔は甘かった。
***
「それじゃあ次の交流会は随分先になってしまいますね」
わたしは資料を見つつフェジーにそう言った。
正確には資料を見るふりをしつつ……だが。
「そのたへの仕事の依頼は後をたたない。緊急のものも多い。そなたには悪いがそちらを優先してもらいたい」
フェジーは資料の山に目を向けながら眉を顰めつつ言った。
仕事とはもちろん闇退治のお仕事だ。
「大丈夫です。それで今回一番早急なものはどれですか?」
わたしの言葉にフェジーは一枚の資料を差し出した。
もちろん、この世界の文字が読めないわたしには何が書いてるのかさっぱり分からない。
唯一分かるとすれば、貼られた写真に人間の腸のような形をしたものが写っていることくらいだ。
きっと、闇の姿だろう。
あまり見ていて気持ちのいいものではない。
「城下町の外れに住む人間が被害にあっている。なんでも人の首を絞めて殺すそうだ。魔力はないが、数が多く、姿が見えない」
「えっ……じゃあこの写真は……」
姿が見えないのならどうやって撮ったというのか。
「姿が見えないのは生きているもののみで、死ねば姿が確認できる。それは闇の死骸を撮影したものだ」
なるほど。
「一番の問題は被害が城下町の外れから少しずつ王宮に近づいていることだ。早めに始末しないと城下町全体の被害につながると予想される」
「わかりました、では明日にでも向かいますね」
「あぁ、よろしく頼む」
そう言うとフェジーは小さくため息をついた。
「どうかしました?」
「……天子の力で闇は減ったはずなのに、なぜこうも被害が減らないのかと思ってな……」
その言葉にわたしは昨日のナナリの言葉を思い出す。
「それに今まで夜にしか活動できなかった闇が夕方でも人を襲ったりと……闇の力が強くなったような気がするのだ」
“あの方が先日、目覚められたの”
そう言ったナナリはいつものナナリとは違った。
まるでそう……恋焦がれるような、そんな顔。
「不思議ですね……」
フェジーの言葉にわたしはいつものように嘘をついた。