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信じて


 「ミーシャなら出来るよ」


 その言葉に女の子は勢いよく立ち上がった。


 「ちょ!!アルジャ何言ってるの!!」

 「……それにキールが増幅の魔術を使える。二人が魔術を使えば町全体に声が届くかも」

 「アルジャ!!」


 女の子の声を無視してアルジャは話を続けた。


 「それは本当か?」


 レヴォラの言葉にアルジャはしっかりと頷く。

 しかし


 「いや!わたしは協力なんてしないからね!!」


 ミーシャと呼ばれた女の子は首を大きく振って叫んだ。

 そんなミーシャを見てアルジャは悲しい顔をする。


 「ミーシャ……」

 「どうしてこんな奴にわたしが手を貸さなくちゃいけないの?アルジャだってこの女にムカついてたじゃん!!なのにどうして!!!」

 「だけどねミーシャ」

 「嫌ったら嫌!この女に助けられるくらいなら闇に食われたほうがまだまっ」

 「ミーシャ!!」


 大きな声を出すアルジャにびっくりしたのかミーシャはピタリと叫ぶのを止めた。


 「僕だってこんな分けの分からない奴に協力なんてしたくないけど……でも、このままじゃこいつらの言ったようにこの町は闇に食われちゃうんだよ!?僕はそんなの嫌だ!」

 「……でも」

 「僕は……嫌な想いもいっぱいしたけどこの町が好きだよ?ミーシャは違うの?」


 アルジャの言葉に、ミーシャは下を向いてしまった。


 「花音殿」

 「……様子を見ましょう」


 これは、この子達の問題だからわたしは口出しする必要なんてない。駄目なら駄目で別の方法を考えるまで……


 さぁ、どうする?


 「……僕はやるよ」

 「キールまで!!」

 「僕も同じだから。僕もミーシャやアルジャと出会えたこの町が好き」


 キールはそう言って小さく微笑んだ。


 「…………もう」


 ミーシャはそう言ってギュッと目を瞑る。

 そして開かれた瞳に迷いはなかった。


 「分かった。わたしも協力する」

 「ミーシャ!」


 その言葉にアルジャとキールは満面の笑みを浮かべ、ミーシャは少し照れたように笑った。


 何とも綺麗な友情だこと。

 笑っちゃうくらいにね。


 「ありがとう、助かるわ」


 わたしが微笑みながら言えば、ミーシャはキッとこちらを睨み付けてきた。


 「アンタのためじゃない!アルジャとキールのためよ!!」

 「えぇ、分かってるわ。でも、そうだとしてもわたしが助かることに変わりないから。だからありがとね」


 そう言えばミーシャはプイッと視線反らしてしまった。


 

 「そうと決まれば時間がありません。急ぎましょう」

 「えぇ」

 「他に増幅の魔術か風の魔術が少しでも使える奴はいないか?小さな魔力でも多少の役には立つ」

 「なら、私が!」

 「私も!!」


 名乗りを上げる衛兵たちを横目にわたしは町に視線をやった。

 ナナリや他の闇たちは上手くやっているだろうか?

 少しだけ心配になる。


 この作戦の目的は2つ。

 1つは闇を暴れさせ、わたしの力をこの町の人間に知らしめること。


 もう1つは……



 「花音殿、増幅の魔術で彼女の風の魔術が一番高まった瞬間に力をお使い下さい」

 「あっ……はい、分かりました」


 ナナリたちならきっと大丈夫。

 わたしはそう思って考えるのを止めることにした。

 悩んでもどうにもならない。


 「それでははじめましょう」


 ミーシャとキール、その他の衛兵達の魔術はすぐにはじまった。

 だが、魔術は思った以上に上手くいかない。


 「ミーシャ、大丈夫?」

 「わたしは平気。それよりも……もっと力を高めないと……これじゃ町全体に声なんて届かない」


 ミーシャの額に一筋の汗が伝う。

 やはり、子供の魔術では難しいか……



 そう思ったとき、周りの景色が一瞬だけ歪んだ。

 そして次の瞬間、小さな人影がその場に現れる。



 「テル!」

 「テルタッテ!」



 そこに現れたのはテルタッテだった。彼の登場に一瞬心が躍るが、その姿が傷だらけなことに気がついて思わず目を見開く。

 しかしテルタッテ本人は気にした様子もなくニヤリと笑みを見せた。


 「やっぱり僕がいないと不便でしょ?」


 そう言ってすぐに増幅の魔術を使う人々に加わってくれる。

 いつもよりも苦しそうな表情だがそれを気にしている暇などなかった。


 「風が……」 


 テルタッテが加わってしばらくすると、ミーシャの周りに風が起こりはじめる。

 それを確認するとテルタッテがわたしを振り返った。



 「花音、今だ!!!」


 テルタッテの合図とともに、わたし指を絡めて祈るような格好をする。


 そして……


 「お願い、これ以上誰にも傷ついてほしくないの…………消えて」



 わたしの言葉は風を伝い闇へと届く。


 それは一瞬の出来事。


 闇たちはわたしの言葉に従うように夜に溶けて消えていった。


 「すごい……」

 「これが天子様のお力」

 「なんと素晴らしい」


 衛兵達の呆然とした声が聞こえてきた。

 レヴォラやテルタッテ、子供たちも闇が消えていく空を呆然と見上げている。


 でも、これだけじゃ計画にはまだ足りない。


 

 「ミーシャ」

 「なっ、何?」

 「もう一回この町全体に言葉を届けてほしいのだけど……出来る?」


 ミーシャは一瞬不思議そうな顔をしたが小さく頷いてくれた。

 テルタッテやキール、衛兵達がもう一度増幅の魔術を使いミーシャの力を高めてくれる。


 「花音、いいよ」

 「ありがとう」


 わたしはそう言って微笑み、もう一度言葉を発した。


 「シルルクの町の皆様」


 今度は闇ではなく、この町の人々に話しかける。


 「闇はわたしの力で消し去りました。……ごめんなさい。もっとわたしの力が強ければこんな大きな被害を出さずにすんだのに…………」


 そこまで言ってわたしは静かに目を伏せた。


 「わたしが見たこの町は明るく活気に溢れた町でした。どうか、諦めないで。わたしが貴方たちを支援します。きっとすぐに明るく活気の溢れた町に戻ることが出来るでしょう。わたしはそう信じています。だからどうか、気を落とさずに。わたしは貴方たちの力を信じています。だからどうか、貴方たちもわたしのことを信じてください。天子であるこのわたしを……」


 風を伝い町に広がる声。



 「信じて」



 信じて、なんてよく言えたものだなと……自分で自分を笑いたくなった。


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