心配
(それでは花音様、また明晩に……)
黒い闇にまぎれるようにしてギョロリとした目がこちらを見る。
「えぇ、今日はゆっくり休んでね。また明日」
わたしの言葉を聞くとその目は夜に溶けるように消えていった。
「ふふふ、これであとは明日を待つだけね?」
振り返ると、ナナリが妖美な笑みを浮かべながら頬杖をついている。
「上手くいけばいいんだけどね……」
「あら?珍しく弱気じゃない。何か心配なところでもあるのかしら」
そう言われてわたしは少しだけ笑みを浮かべた。
「そういうわけじゃないわ。ただね、上手くいき過ぎていると怖くなるものなのよ……いつか失敗したときの代償は、成功した分だけ大きいだろうから」
そういえばナナリは可笑しそうに声を上げた笑った。
「ハハハハハハッ、馬鹿ねぇカノン!」
「…………何よ」
「そんな心配杞憂だわ。だって失敗なんてありえないもの」
そう言うとナナリはクルリと一周回って深々とお辞儀した。
「我らが闇を甘く見られては困りますわ女王様。心配せずとも完璧かつすばらしき舞台を用意して差し上げましょう」
そう言って顔を上げたナナリの顔は少し不気味だった。
「もし失敗する時がくるとすれば……それはカノン、貴方がこの世界を許したときよ」
わたしが……この世界を許す?
「…………そう」
わたしはナナリから視線を外すと空を見上げた。
「なら大丈夫ね、わたしがこの世界を許すときなんてきっと来ないわ……」
「ふふ、その言葉をきいて安心したわ」
ナナリはそう言うとスルリとわたしの首に腕を巻きつけた。
「さぁもう寝ましょう?明日は忙しくなるわ」
「えぇ、おやすみナナリ」
「おやすみなさい、カノン」
もし
もしわたしがこの世界を許すとしたら……それは一体どんな時だろう?
王子や五大魔術師がわたしに土下座をしたとき?
帰る方法が見つかったとき?
それともこの世界が壊れたとき?
「やめよ」
今は目の前のことだけを考えよう。
今すべきことを確実……そうすれば何か分かるかもしれない。
この復讐の先に何があるのか?
そんなの今のわたし……いや、きっと誰にも分からない。
「おはよー花音!!」
朝目が覚めて、食堂に行くとテルタッテが元気よく迎えてくれた。
しかし、いるのはテルタッテだけて他の衛兵やレヴォラの姿は見えない。
「おはよう、他のみんなは?」
「ん、闇の卵を見に行ってるよ。今日は孵化のの予定日だからね。警戒してるんだよ」
そう言うとテルタッテは無邪気に笑った。
「そっか……みんなあんまり寝てないみたいだけど大丈夫かな?テルタッテも……」
「平気だって。僕らはそんなことには慣れっこだからね。花音が心配することないよ。それに僕に言わせれば花音のほうが心配」
「えっ?」
思わぬ言葉にわたしは首を傾げた。
「闇の卵が孵化した瞬間、花音は膨大な数の闇の赤子を消し去らなくちゃいけないんだよ?きっと体力的にも厳しい」
「あぁ……」
一般的に考えればそうなるのか、とわたしは思った。
実質わたしは何の力も持ってないし、闇が消えるのだってただわたしの言う言葉に従って姿を消してくれているだけなのでわたしは何も大変じゃない。
ただレヴォラやテルタッテ、他の人間から見たらわたしは言霊の力を使って闇を消し去っているわけで、本当にそうだとしたらかなりの体力消費があるのだろう。
今回は数が多いから心配するのも当然だ。
「大丈夫だよ。数は多いけどみんな赤ちゃんなわけだし、そんなに心配することないって」
「だといいんだけどね……」
テルタッテはまだ心配そうにわたしを見ていた。
その心配は長沢花音に対して?それとも救世主である天子花音様に対して?
考えるだけ、馬鹿馬鹿しいか……
「さぁ、朝ごはんにしよう?お腹が空いてたら元気がでないよ」
「うん、そうだね」
闇の卵の孵化まであと数時間。
いっ……1ヶ月ぶりの更新です
更新待っててくれてる人なんているのですかね?
いつも遅くて申し訳ないです