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偽善者

 子供たちはわたしの顔を凝視したまま動けなくなった様子で、ただ呆然と立ち尽くしている。

 一番年上であろう女の子の顔にはなぜ?どうして?というような疑問が浮かんでいた。自分たちの作戦が完璧だとでも思っていたのだろうか?馬鹿らしい。


 お金を取ったのは間違いなくアルジャがわたしにぶつかってきた時。わたしが狙われた理由はきっとこの町に馴染んでなかったからだろう。同じような服を着ていても新品であるから他より良く見えるし、肌だって焼けてない。どっかの金持ちの女がお忍びで町を見学、そんな風に見えるはずだ。


 世間知らずなお嬢様だったら確かに今の作戦で騙されたかもしれないが、わたしはそこまで馬鹿じゃない。こんな人通りの多い道で走っていたらぶつかってしまうということはあるかもしれないが、こんなところで鬼ごっこをしているということは不自然だ。

 

 こんな人通りの多い道、すぐに相手を見失ってしまう。追いかける相手が見えなくては鬼ごっこもなにも出来ないだろう。

 まぁ最近の子供の事情なんてものは分からないし、もしかしたら本当に鬼ごっこをしていただけかもしれないと思ったが予想はあたった。


 「やっぱりガキね」


 誰にも聞こえないくらいの大きさで呟くと同時にバタバタと何かが近づいてくる音が聞こえてくる。

 

 「てんっ……花音様どうなさいました!!」

 「どこか怪我でも!?」

 「子供が何か無礼をしましたか?」


 振り返ってみればあの護衛役の衛兵達が顔色を変えてこちらに向かってきていた。

 そしてわたしの前で固まる子供たちに目を向けた後、わたしが手に持つお金の袋をみてピンっときたらしい。


 「スリかっ!」

 「お前らこの方を誰だと思っている!!」

 

 怒りをあらわにする衛兵たちに子供は恐怖を隠せず後ずさった。

 何というか、大人げない。


 「申し訳こざいません花音様。私たちがついていながらこのような……」

 「この子供には相応の罰を与えますゆえ」


 そうしてわたしのご機嫌取りをしようとする男たちを見ていると呆れて何も言えなくなってしまう。

 確かにわたしがこのことを彼らのせいにしてレヴォラに報告すれば彼らはかなり大きな罰を受けるだろう。天子を守れなかったのだから当然だ。

 だけど、わたしに言わせればわたしを守れなかったことよりこういう態度のほうがムカつくのだ。逆効果だとどうして分からないのだろう。


 そんなことを考えながらわたしはチラリと周りを見た。

 ほら、衛兵達が騒ぎたてるから何事かと人々がこちらを注目してしまったではないか。

 人々はこちらをチラチラと見ながら噂話をしている。


 さて、この注目の中でどう対応するか……

 

 今のわたしは天子。そう、天子なのだ。

 そう思ってわたしは優しく微笑んだ。


 「この子達に罰を与える必要などありません」


 そう言えば衛兵達はびっくりしたようにこちらを見てきた。

 何を驚く必要があるのか。とても“天子様”らしい行動でしょう?


 わたしはレヴォラからもらったお金の袋から一番豪華そうに見える硬貨を1つ取り出すと地面に置いた。


 「あげるわ」

 「花音様!?」

 「何をしているのですか!」


 そんな衛兵など無視してわたしは話を続ける。


 「貰って?こうしなければ生きられない子供がいるのに何も出来ないわたしからのせめてものお詫びよ」

 「っ!こっこんなものいらない!同情なんていらいない!!!」


 黙りこんでいた女の子が睨むようにそう言ってきた。

 ムカつくでしょうね。わたしがもしこの子だったとしてもこんな同情にまみれた金なんて受け取りたくない。


 でもね。

 

 「いらないなら受け取らなくていいわ。でもこのお金はここに置いて行く。貴方たちが受け取らないと言うなら他の誰かが見つけて持っていくだけよ」


 そう言うと女の子はゴクリと唾を飲んだ。

 いらないと言いながらも本当はほしいに決まっている。今受け取れば自分たちがもらえる。でも意地を張って受け取らなければ誰かのものになる。そう思うともったいなく感じるものだ。


 素直でよろしい。


 「後は自由にして頂戴」


 わたしはそう言うと立ち上がった。

 そうしてその場から立ち去ろうとしてフッと足を止める。


 「言っておくけど、2度はないわ。もし次を見つけたら容赦なんてしない」


 そう言って今度こそ本当にその場から立ち去ろうとした。


 「…………偽善者っ」

 

 歩き出したわたしの背に小さく呟くような声が聞こえてくる。

 たぶんあの少年、アルジャの声だろう。


 大正解。とわたしはアルジャを褒め称えたくなった。

 偽善、今の行動を表現するならそれが一番正しい。


 「花音様、よろしいのですか?」

 「えぇ、それよりも聞きたいことがあるの」

 「なんでしょう?」

 「あのような子供たちを育てる場はないの?」

 「えっ……あぁ、あるにはありますがもういっぱいいっぱいで、お金に余裕がないのです」

 「そう」


 わたしは小さくニヤリと笑った。

 予想外のアクシデントだったけど、これは上手く使えそうだ。


 「さて、買い物の続きをしましょう?テルタッテにお土産を買わなくちゃ」

 「あっ、はい……承知しました」


 闇のの孵化まであと少し。

 やらなくてはならないことは多い。


 すべては偽りの天子を作り上げるため……

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